次なるターゲット【三人称視点】
「どういう事だよっ! なんで俺の名前を勝手に使うわけ!?」
「いいじゃん別に。…幹、可哀想だねぇ、あんたのせいで登校拒否になっちゃった」
男子生徒の激高に怯える様子もなく、女子生徒はカラカラと楽しげに笑っていた。その様子は異様で、怒っていた男子生徒も怒りが一瞬で冷めた。
「玉井…お前……」
「このまま学校やめちゃえばいいのにね。…これであたしのテストの順位、元に戻るかな?」
はじまりは1学期中間テストの順位が下がった事。点数は悪くなかったのになぜだろうと思ったら、外部生が上位に食い込んでいたから。
外部から入学してきた成績優秀な一般生が首席になっており、今まで上位にランクインしていた生徒たちは自然と順位が落ちた。その中に面白くないと感じる人間が現れるのは当然のこと。
そのうちの1人だった女子生徒は、同じクラスにいた特待生をターゲットにした。
始めは陰口だけだったが、それはどんどんエスカレートして行った。女子生徒…玉井はいじめ行為をするのは初めてではない。今までも別の人間をいじめたことがある。彼女にとっていじめはストレスのはけ口、娯楽のようなものだった。
特待生に負けぬと努力するのではなく、陥れてしまおうと考える底の浅さ。気に入らないからと人の学ぶ権利を奪おうとする自分勝手さ。一般生だけでなく、良識のあるセレブ生にも玉井は良くは思われていなかった。
だけど彼女はセレブ生としての権威があり、被害者は皆泣き寝入りをせざるを得なかったのだ。
セレブ生の権威というのは、学校への寄付金額、親の経済規模・資産などで決まる。
セレブ生にも色々なタイプが居るのだが、所謂成金と呼ばれる一代でセレブに成り上がった者の中には、プライドだけが高い困ったさんがいた。成り上がった家の子供全員がそうではない。だが少なくとも玉井がそれである。
玉井にとって特待生は、セレブ生の家が出した寄付金に養われている存在。下位の者とみなしている。どうしてそんな見方をしてしまうのか、親がそういう人間なのかはここではわからないが、彼女は反省などしていなかった。
一番の被害者である一般生の幹にとどめを刺したとはいえ、被害者でもある河辺もスポーツ特待で入学した一般生。
玉井にとって取るに足りない存在。二人が自滅しようがどうでも良かったのか、おかしそうに笑うと、踵を返していった。
■■■■■
「でも半年は保ったほうだよね。ねぇ次は誰をターゲットにするの?」
「んー……」
退屈そうに窓の外を眺めながら玉井はしばしボーッとしていたが、何かを見つけた様子で目を細めると次なる獲物をロックオンした。
「……英のバレー部って強かったっけ?」
「え? …インターハイに出たらしいから強いんじゃない?」
「あいつ、最近出しゃばってるし…あいつにしよう。でも、家が大きすぎるからなぁ…」
「え、あの女狙うの? やめといたら? めんどくさそう…」
玉井の友人、いや取り巻きに近い少女が注意すると、玉井も同じことを思ったらしく黙り込む。
玉井は次なる獲物の少女をじっと見ていたが、彼女に声を掛けている背の高い少女に視線を向けた。
「…いや、あいつにしよう。スポーツ特待のあいつ」
ターゲットは決まったらしい。本命は家柄・資産規模で負けてしまっているのでターゲットを変更して、本命と親しい存在であるその友人にその牙をむくことにしたらしい。
別にその本命になにか恨みがあるわけではない。ただ退屈だから、憂さ晴らしがしたいから玉井は行動に移すのだ。
離れた場所でこっそり聞き耳を立てている人物がいるなんて気づきもせずに、顔を歪めて企んでいた。
玉井たちの企みを盗み聞きしていたその人物は、いつもの人の良さそうな笑みではなかった。感情が伺えない無表情のまま、ゆっくりと腕を組んだ。
そして音を立てないようにして壁により掛かると、彼女たちの企みを静かに聞いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。