第22話
「ぐへへへへ」
ライがのっしのっしと陽子の縛り付けられた台の方に歩いてくる。壁をぶん殴ったのがウォーミングアップになったのか、体中に汗を浮かべ、湯気を出している。同時に激しい獣臭が二、三メートル先から臭ってきた。
こ、こ、こないでぇえええ!
叫ぼうにも声帯が凍り付き、口からは一切の声が漏れることがなかった。
この獣のような男が、これから自分の体を自由にするかと思うと、それだけで気を失ってしまいそうだ。
はぁはぁという獣臭い吐息が顔にかかる位置までライは近づいた。
ライは切られたトレーナーの両端をむんずと掴むと、思い切り左右に引っ張った。トレーナーがまるで紙のように引き裂かれる。
その下品な口から長い舌が蛇のようにぬるぬると這い出てくると、完全に露出された陽子の胸をなぶろうとする。
「きゃああああ」
金縛りが解けたかのように、ついに陽子の口から悲鳴が発せられた。
「おっとライ、少し待て」
カイがライを止めた。
「最後のチャンスだ。やつらについて知っていることを吐け。ことわるならこいつをけしかける。その先は僕が飽きるまで楽しむ。そんな目に合うのはいやだろう?」
「だ、だって……ほんとうに、なにも知らないんだもん」
「馬鹿な女だ」
カイはライの肩をぽんと叩いた。
「やれ」
ライが陽子のジーンズを引きちぎろうとする。
「ひいいいい」
「ライ、ちょっと待って」
礼子が大声で叫ぶ。ライの手は陽子のジーンズを掴んだ時点で止まった。
「姫華たちがここに来ている」
「なんだって?」
カイが叫ぶと壁を反射的に見た。ライもそれに習う。
壁には小型テレビほどの大きさのモニターがいくつか並んでいた。礼子はそれを見て外の様子をうかがっていたのだ。
モニターにはどこかの店舗ビルのホールらしきところが映っていて、エレベーターが見える。その前に三人の女と猫がいた。
黒っぽい格好をした姫華、葉桜、それにフィオリーナ。そしてなぜか制服姿でデイパックを背負い、ノートパソコンを手に持った理恵子までいる。
「レイ、貴様またどじったな?」
カイが怒鳴りつける。
「そんな。尾行はされてなかったはずよ。どうやってここが?」
「音を拾え」
カイの命令で、礼子がなにやら壁のパネルを操作した。外の音をマイクで拾って、流す気らしい。
『電波はちょうどこの辺でとぎれました。発信器が壊れたんじゃなければ電波の届かない場所に潜ったんです。きっと地下ですよ』
理恵子の声だ。
「貴様、発信器を持ってやがったのか?」
カイが陽子に向かって叫ぶ。
発信器? もちろん陽子には心当たりはない。
『でもこの建物に地下はないわ。ここが最下部よ』と葉桜の声。
『どこか下に降りる入り口があるはずだ』
姫華の声だが、口調がまるで違った。まるで男の子のような喋り方だ。
「どうする、カイ? やり過ごすか? それとも引っ張り込むか?」
ライが陽子から離れ、画面を見ながらカイに話しかけた。
「状況がわからん。外にはもっと仲間がいるのかもしれないしな。とりあえず、様子を見よう」
カイは戦闘が始まるのを予期してか、上着、ネクタイ、ワイシャツとつぎつぎに脱ぎ捨てていく。細身ながら、体脂肪がほとんどないせいで鍛え抜かれて筋肉がよくわかる上半身が晒された。
「あのお嬢様、いろいろ噂は聞いている。レイと互角にやり合ったそうじゃないか?」
カイは最後に着ていたワイシャツを空中に放ると、オーケストラの指揮者のように左右の人差し指を振った。
ワイシャツはずたずたになり、まるで紙吹雪のように散る。しかもカイは薄気味の悪い笑みを浮かべ、体を覆うようにひらひらと舞い落ちる無数の切れ端を、舞いながらことごとくかわした。
「案外ここまで来てもらった方が楽しいかもな。拷問相手が増える。ライ、おまえも準備した方がいいぞ。そこの女はあとだ。そいつは逃げない」
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