陽の当たる場所

勝利だギューちゃん

第1話

子供の頃より、日向よりも日陰が好きだった。

日影ではなく、日陰・・・


人というのは、基本は目立ちたがりだ。

誰だって裏方よりも、表に出て人々の注目を浴びたい。


でも、俺はそれが性に合わない。

誰かを陰でさせて、その人が活躍するのを見る。

「縁の下の力持ち」と言えば、カッコつけ過ぎだが、

それでいいと思っていた。

それに、幸せを感じていた。


「ねえ、君はそれでいいの?」

同級生の女の子に声をかけられる。

「何が?」

「いつも、地味な仕事ばかりやらされて、練習にすら参加させてもらえない。

本当に幸せ?」

僕はうなずいた。

誇りを持っていた。


強がるわけではないが、他人の幸せを願い、自分は身を引く。

それもありと、思っていた。


他人に合わせる程、器用でもないし、さらけだせばぶつかる。

一度でいいので、自分を輝かせたい。


それを、一度も思わなかったと言えば、ウソになる。


でも、自己犠牲と言えば、反感を買うが、僕はそれでよかった。

なので敢えて、表には出なかった。


僕は野球部に入っている。

だが才能はない。マネージャーも務まらない。

なので、球拾い専門だ。


同級生の多くは、レギュラーになるか、

練習の厳しさに耐えきれず、退部した。


でも、僕は辞めなかった。

球拾いでも、道具磨きでも、それだけでも良かった。


そして、三年生になった。

最後の夏になる。

「結局レギュラーどころか、ベンチ入りも出来なかった」

でも、悔いはなかった。

むしろ、すがすがしかった。


監督から、夏の大会のベンチ入りのメンバーが発表される。

「僕には関係ないか・・・」

なので、うわの空だった・・・


「17番、高山」

「・・・えっ、気のせいか・・・」

「17番、高山将太」

「・・・俺?嘘でしょ?」

部員から、拍手が起きる。


ベンチを見ると、あの子が微笑んで手を振っていた。

彼女の勧めか?


「高山、3年間よくがんばったな。最後の夏だ。たまには陽の光を浴びてこい」

こうして、背番号17が刺繍された、ユニホームを受け取った。

そこには、目立たないが、「がんばってね」と、書かれていた。


勝ちにこだわるスポーツの世界。

ご褒美でもらうのも、珍しいかもしれない。


でも、ベンチを温めるだけだな。

そう思っていたが・・・


地方大会の決勝で、陽は僕の上に降りてきた・・・

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陽の当たる場所 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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