プロローグ

 爽やかな陽気の休日。人々は日の光が差し込む神聖な神殿で跪き、一心に祈りを捧げていた。


 ──神よ、どうか我らをお救い下さい。


 この祈りは既に十年以上も続いている。彼らの前の祭壇には、この世界を造ったとされる創造の女神、シュウユの美しく微笑む石像が鎮座していた。慈愛に満ちた目をしたその女神の像は、今日も穏やかに人々を見下ろしている。


 この世界は表と裏の二つから成り立つと言われている。

 表は今居る人間の世界、裏は魔獣の世界。この二つは表裏一体。そのため、時折出来る空間の歪みのせいでつながった穴から古来より双方に迷い込むものが後を絶たない。そのたびに聖魔法を用いる聖魔術師が浄化を行うことにより空間の歪みを正し、穴を塞いできた。

 しかし、十数年前より歪みが至る所に発生し始め、元々人数の少ない聖魔法を使える魔術師達の努力も虚しく浄化が全く間に合わない状況が続いている。迷い込んだ魔獣の餌食となったり、誤ってあちらに迷い込んで神隠しとなるものの被害が多数発生していた。

 困り果てた人々は救いを求めて今日も神に祈りを捧げた。彼らの世界を造った慈愛に満ちた美しい女神に、どうか彼らに救いの手を差し伸べて欲しいと。


「姉さん、シュウユ様は私達を助けて下さるかしら?」


 祈りを捧げ終えた少女は淡い緑の瞳で一緒に神殿を訪れた姉をみつめた。ピンク色の髪がほつれてひと房だけ肩に落ちている。


「きっと助けて下さるわ。シュウユ様はとても慈愛に満ちた美しい女神様なのだから」


 問いかけられた女性は少女を見つめて頬笑んだ。それを聞いた少女は安心したように表情を綻ばせると、祭壇に目を向けた。

 たくさんの花が飾られた祭壇で美しく頬笑むのはこの世界の創造の女神──シュウユ。優しくこちらを見下ろす瞳は慈愛に満ち、口元は優しい微笑みを浮かべている。


 ──女神さま、どうか私達の世界を助けて下さい。


 薄緑の瞳を閉じると、少女はもう一度、神に祈りを捧げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る