第46話 チヒロの特訓

「さて、王に進言をした結果、議会も動き、騎士団と衛兵たちにもカウルーン対策に乗り出すことになった」


 朝の定例会議。アレクが早速、カウルーンについて切り出してきた。


「まずはこのフィエルテの警備強化、それと聞き込みを行い、アジトの特定に努めるとのことだ」


「ホームレスにも聞き込みした方がいいと思います。俺がセドリックから聞いたホームレス仲間が怪しい仕事あっせんで連れ去られているのも、多分カウルーンの仕業です」


 マコトが手を上げて意見を述べる。


「うむ、こないだ話していたやつだな」


「危険ですが、囮捜査でホームレスに扮した調査員を使って本拠地を突き止めることはできないでしょうか?」


 ブルーノが提案をする。


「うむ……、それは魂を抜き取られないよう防御魔法をかけないとならないが、難しいな。調査員の安全が保障できない以上はそれはできないと思う」


「そうですか……。早く突き止められるかと思ったのですが」


「あの、ところでチヒロは今日は出張かなんかですか?」


 マコトがチヒロの空席を気にしながら尋ねる。朝ご飯はカフェで取っているのを見かけたから具合が悪いとかではなさそうだ。


「ああ、休暇だ。魔力の高いミラク湖で魔法の特訓をするということだ」


「ミラク湖?」


「ああ、ミラク湖は水晶の産地であるヴォロンテ山から流れる川の水が貯まる湖だ。そのため魔力が高くてな。魔法使いがよく自主練をするスポットだ」


 いわゆるパワースポットということか。


「チヒロも今回のことで張り切っている。これで属性が定まればいいのだがな」


「なあ、アレク。気になったのだが、属性未確定なのは悪いことなのか?」


「うむ、なんと言えばいいのか……。例えるなら進路が定まらない子供みたいなものだ。だが、チヒロはもしかしたら、新しい属性なのかもしれない」


「新しい属性?」


「ああ、術こそ使えないが、彼女の適正検査をすると光、水、土、風の四つに反応がある。しかし、普通は複数の属性を持ってもせいぜい二つだ。こんなに複数の属性を併せ持つのはあり得ない。だから、既存の属性ではない新しい属性かもしれないからチヒロにも焦ることは無いと伝えているのだがな」


「ふうん、そんなこともあるのだな。やはり異世界人だからか」


「そうかもしれないな。実際、お前のスキルと言い異世界人は未知数だ。チヒロは多分、リィアンミン対策で焦っているのだろう。摘発するにしてもまだ先なのだがな」





「光の精霊よ、その輝きを我の求めに応じて悪しきものを貫く矢となれ、ルーメンサジッタ!」


 唱えた呪文に反応しないかと杖の先の魔石を見つめてみるが、微かに光っただけで不発に終わる。


「やっぱりダメかあ」


 ミラク湖のそばの森で、チヒロは魔法の自主練を行っていた。しかし、あらゆる呪文を唱えても杖の先の魔石は今一つな反応しかしない。


「そろそろお昼だし、休憩するかな。え、と、お弁当を置いたのはどこだっけ」


 そう言いながら、お弁当の方角を見たらちょうどキツネがお弁当の包みを咥えるところであった。つまり、弁当が盗まれた瞬間でもある。


「あ!! こら! ドロボー!!」


 慌てて追いかけようとするが、野生動物の方は足が速い。あっという間にキツネはダッシュして走り始め、奥へ逃げようとする。


「あたしのお昼ー! キツネ待てぇ!」


 必死に走るがローブに杖では走りにくい。どんどんとキツネとの距離を離されていく。


「なんでもいいから待てー! 動きを封じろー! 」


 叫びながら走り、地面に杖がふとした拍子に触れた瞬間。


『シュルシュルッ』


「?!」


 キツネの周囲の草がものすごい勢いで伸び、その足に絡まり身動きできなくなった。不意に動けなくなったキツネは弁当そっちのけでもがくが、足元の草ががっちりとホールドしている。


「何これ? あたしがやったの?」


 お弁当を取り返し、じたばたしているキツネを見下ろしながら、チヒロはポカンとしていた。



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