第44話 明かされる過去の因縁、そして送還計画

「な……?! マコト、いくらなんでもそれは厳しすぎるぞ。せいぜい自宅待機か、減給処分だ」


アレクが難色を示す。部下の厳しい処分の提案を止めるとはおかしなものだ。


「いえ、自宅待機では俺は動けません。頼みはそれだけではないのです。カウルーンのボスは俺の知っている異世界人です」


「なんだと?」


「そして、元の世界でもお尋ね者です。強制送還させただけでは、また俺の世界で違法行為を重ねて治安を乱すだけです。確実に俺の世界の警察へ引き渡したい」


「ふむ……。チヒロ、扉の鍵の解錠ができないようにしろ。そして関係者以外立ち入り禁止の札をかけておけ」


「わかりました、アレク様」


チヒロが周辺に人がいないことを確認し、指示通りのことを行って、彼女が着席したことを見計らってアレクが改めて問い返してきた。


「さて、外部に漏れないようにした。きちんと事情を話してくれ、マコト」


「まず、ボスの良民リィアンミンは俺の世界でもマフィアでした。麻薬や改造銃を扱い、俺の国のヤクザ……マフィアと張り合っていました」


「なぜ、お前が知っている?」


「俺の世界の職場の同期……俺の親友が追っていた奴です。少しですが、名前や情報を聞いていました」


「ふむ、つまりそのリィアンミンは活動拠点をお前の世界から異世界こちらに移した訳か」


「そいつは国際手配されていますが、捕まらない訳です。多分ですが、追われたらこちらへ逃げ、仕入れた薬物などを捌き、また元の世界へ戻っていたのでしょう」


「それで頻繁に行き来するためにいけにえか……」


「ええ、さらに召喚石の没収を免れる目的もあって、禁忌の魔法で体に同化させたのだと思います」


「しかし、体のどこに埋めたのかわからなければ送還しても戻ってきてしまわないか?」


「ヒガシが言うには、体の目立つところに埋めてあるみたいです。彼も詳しくは知りませんでしたが、タトゥーみたいにしているのかもしれませんから腕や胸、顔辺りかと。何らかの方法で破壊してから俺の世界へ送還させたい」


「さっきから異議を挟むようで申し訳ないが、なぜ、強制送還にこだわる? 石を破壊してから、こちらの世界で極刑という方法も無くは無い」


「それではダメなんです。リィアンミンは親友を殺した奴なんです」


「何?」


「え?」


「な……!」


マコトの思わぬ話に三人は押し黙ってしまった。


「親友……智樹は良民リィアンミンを追っていると話していました。本当はいけないのですが、これから取引現場を抑えて摘発すると連絡があったのです。今になって思えば、彼は何かを予感して、法を破って俺に知らせたのかもしれません」


そう言うとマコトは顔を伏せた。泣き顔を隠そうとしているのかもしれない。


「翌日のニュースで彼が撃ち殺されて遺体で発見されたと知りました。最後の連絡から何があったのか未だにわかりません。親友でも守秘義務があるからと教えてもらえませんでした。だけど、奴が殺したと確信しています」


「……」


「あいつ、まだ二十六だったんです。結婚したばかりだったんです。残された奥さんや家族のためにも、奴は俺の世界で法の裁きを受けないとならない。だから、俺が捕まえ、体を何らかの方法で繋いだ後、共に送還してほしい」


最後の方は嗚咽が混ざってしまったが、誰も何も言わなかった。長い長い沈黙が執務室を覆った。


「しかし、そうなるとかなり危険だぞ。いくらお前がチート無効化スキルがあるとはいえ、相手は禁忌の術使用で未知数の強さだ。生け捕りにして二人を捕縛ツタなどで固定して送還するとなるとかなりの難易度が高い。召喚石だけではなく、召喚の魔方陣の問題もある」


アレクが難色を示す。確かに実行するにはいくつもの課題があり、ハードルが高い。


「それに、管理局総出で取り掛からないとなるまい。今日明日でできる課題ではないな。緻密に作戦を練る必要がある。騎士団と本格的に提携しないとならない」


ブルーノも追従するように渋る。やはり難しい問題だろう。


「あ、あたし、協力しますっ!」


チヒロが空気を読まないように発言してきた。


「そんな厄介なのを放置したらこの国が崩壊します。それに銃の犠牲者なんて出したくありません!」


「し、しかし、チヒロ。お前はまだ属性未確定だし、補助魔法のみでは戦いになったら不利だぞ」


「それでも何かできるはずです! 魔法ならブルーノ様、特訓をお願いします! 少しでも魔力を上げたいのです」


チヒロの険しい顔とアレク達の困惑した顔が交差する。


「……仕方ない。部下がやる気なのを事なかれ主義でつぶすことはできん」


「そうですね、アレク様。確かにこれは国の重要問題でもある」


アレクとブルーノがため息をつきながら、承諾する。


「え? ならばお手伝いできるのですか?」


「ああ、ただ、ブルーノが言う通り各官憲や騎士団、衛兵と連携を計らなくてはならない。それまで鍛錬しておけ。マコトもだ」


「「はい!」」


こうして、マコトの送還計画は検討されることになった。




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