第29話 友の涙
「なるほど、確かにそれは補強材料としては強いな」
「ああ、出会って半年後の花月に結婚、出会った頃に部屋に紅花が生けてあったというが、紅花のシーズンの
「まさか花でバレるとはな。それに、下男と面識のあるという、その乞◯の証言は信憑性が高い」
聞き込みから帰り、元の服へ着替え終えたマコトから報告を受けたアレクとブルーノは納得したように頷いた。
「ああ、恐らく魔王討伐は本当だが、その後の結婚が偽装で、適当な作り話をクロエと作ったが、綻びが出たというところだ。どうする? 摘発して収容所へ収監コースか?」
「うむ、本来ならそうだが、クロエがトーネソル公爵の娘というのが厄介だ」
「有力者って奴か」
「ああ、クロエの実家は紅花のギルドマスターで、国内に流通している紅花油や化粧品の紅の九割を仕切っている。そこの娘が不正に手を貸していたとあれば大スキャンダルであるし、市場が混乱するのは必至だ」
「む……ならばどうする?」
「呼び出して事実を突きつけて申請を取り下げさせるか、ヒダカは別件で強制送還にせざるを得ないだろう」
「それがいいと思います」
声がして全員が振り返ると扉が開いており、チヒロとブランシュが立っていた。
「おい、チヒロ! 部外者を入れる時はノックをだな……」
マコトが咎めようとするが、チヒロは少し困惑したように弁明する。
「ブランシュ様が、クロエに関するお話がしたいと言うからお連れしたの」
「なんだって?! ブランシュ、君は何かを知っているのか?」
ブルーノが驚愕の表情を浮かべてブランシュに問いただす。
「はい……。この間来たのも、本当はクロエのことをお話しようとしましたの。そうしたら予想外の騒ぎになってしまい、話しづらくなってしまって」
「マコトのせいで、はあ……」
チヒロがため息をつく。そっちが勝手に勘違いして騒いだせいだと言いたかったが、今はそれどころではない。
「まずはブランシュ、入れ。そしてそなたが知っていることを話してくれ」
アレクが入室を促し、チヒロが扉を締めたタイミングを見計らってブランシュは話始めた。
「はい。クロエとは修道院で花嫁修業のために過ごしていた時に知り合いましたの」
「修道院で花嫁修業?」
マコトが初めて聞く言葉に反応したので、チヒロが注釈を入れる。
「この国の嫁入り前の貴族の女性はね、修道院に入って裁縫やら妻の心得やらいろいろと花嫁修業するのよ。修行期間は人それぞれだけど、貰い手がいなければ一生そこで過ごすというシビアなシステム」
「一生、か」
「ええ、私はブルーノ様と婚約していましたから、本当の花嫁修業でした。でも、クロエは私より年上で、結婚がなかなか決まらなかったと聞いてますし、父君のトーネソル公爵も焦っていたようです」
「はあ……」
「とにかく、クロエはそういう問題はありましたけれど、魔王と無理やり結婚なんてことはなくて、修道院で私達は穏やかに過ごしていました」
「政略結婚でも難しいものなんだな」
「そのうち、二年前でしたか、クロエが勇者ヒダカと結婚が決まったと聞きましたが、不思議に思いましたの。勇者がギルド経営なんて任せられるとは到底思えなかったので尋ねました」
ブランシュは淡々と語り続ける。
「クロエは寂しそうな顔をしていましたわ。『もう二十四だから嫁の貰い手がない。でも、売れ残りの娘がいるのは父に取って外聞が悪い』と。
ヒダカさんと公爵との間にどのようなやり取りがあったかまではわかりません。でも、勇者の在留資格の法律が変わるかもしれない話が上がった時期でしたから、彼は在留資格目当てだったのでしょう。
ヒダカさんはパーティーメンバーだった黒魔導師の女性と暮らしていると聞きます。クロエは別の修道院でひっそり暮らしています。
でも、法にも道義にも背いていますし、このままクロエが一人寂しく偽りの結婚生活を続けるのは良くないことだと思って」
そこまで話終えるとブランシュはしくしくと泣き始めた。この間のとは違う、友を思う涙だ。
「私、友達を売ってしまうようで、ためらっていたのですが、このままではいけないと」
「ブランシュさん、あなたの勇気に感謝します」
マコトは丁寧にお辞儀をした。この世界の作法とは違うが、今はこの方法がいいような気がしたからだ。
「少なくともクロエさんは一人ではないですよ。あなたのような素晴らしい友達がいます。彼女が傷つかない方法で、ヒダカと別れさせて送還できるようにします。アレク、ブルーノ、それでいいよな?」
「ああ、こちらで取り計らう。だから安心してくれ、ブランシュ」
「あなた、ありがとうございます」
ブルーノがブランシュを労るように肩に手を添えて宥める。それを見ていたチヒロがボソッと呟いたのをマコトは聞いてしまった。
「最初から敵うはずないのよね……」
聞こえてしまったが、大体状況はわかってきた。そして、これも聞かなかったことにしておこう。しかし、チヒロは勘づいたらしく、マコトを睨んできた。
「マコト、今の聞いていただろ。誰かに言ったら……わかってるよなぁ?」
……これさえなければ応援しても良かったのだが。
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