第18話 え? ああ、うん……からの捕物帖

 マコトはそんな二人のやり取りを見ていて、ちょっと前まで仕事をしていた入管の仕事を思い出していた。

 あの仕事でも、在留資格目当てに日本人に近づく外国人はよくある話だった。日本人からすれば、愛し合っての結婚と固く信じているが、外国人にすれば在留資格目当てなので、永住許可が下りれば用無しとして簡単に捨てる。それまでに数年結婚生活を続け、子供も作っていることも珍しくない。

(ああいう類いの女は、目的のためなら好きでも無い男の子供を産むことくらい、ためらいなくやってのけるからな)

 まあ、今回は組み合わせが逆である。さっさと決着をつけるべく、マコトは切り札を出してきた。


「ナカヤマさん、カトリーヌさん。彼らにも同じこと言えますか?」


「「彼ら?」」


「ケヴィンさん、エリックさん、ガストールさん、どうぞ来て下さい」


「ナカヤマ! どういうことだ!」

「お前、カトリーヌを連れ出していたのか!」

「パッシオンに来るというから待ってたのに話が違うじゃないか!」


 パーティーメンバーであるケヴィン達が現れ、次々とナカヤマを責め立てる。


「あ、み、皆……」


「うちが呼び出したのですよ。手紙を見てすぐにこちらへ向かってくれていたから、ここで合流してお話を伺うことができました。彼らにはカトリーヌのことは伏せてパッシオンへ向かうと欺いていたようてますね、ナカヤマさん」


「う……」


 さすがの勇者ナカヤマも万事休すと言った感じで俯いて固まっている。


「見損なったぞ、ナカヤマ」


「カトリーヌを勝手に連れ出すなんて、抜け駆けしやがって」


「ああっ、カトリーヌの美しい角が無いっ!

 ナカヤマ、何をしたんだ! 」


 責め立ててはいるが、なんだかおかしい。皆が皆、魔王であるカトリーヌを崇拝しているようだ。


「クスン、き、切りたくなかったのだけど、バーラが目立つから切ろうって……」


 カトリーヌが目に涙を溜めながら、悲しげに角の跡に手を当て、泣き出した。


「てめえ! どういうつもりだ!」

「カトリーヌちゃんを泣かせるなんて!」

「そこまでするか!」


 ケヴィンがナカヤマに詰め寄り、後の二人も続いた。カトリーヌは相変わらずシクシクと泣いている。


 三人は呆れながらも、それらを眺めていた。


「ジェレノーさんの言った通りでしたね。男を惑わす魔王カトリーヌ、小さなものはサークル、大きなものでは村や町規模で男性達を虜にして操るというか、手玉に取ることにより、戦いへ導くという恐ろしい存在」


「しかも、自覚ゼロというサークルクラッシャータイプだね」


「で、勇者達もミイラ取りがミイラになっちまった訳か。エマさん、ナカヤマはどうします?」


「即送還してもいいですが、示しが付かないから、パーティーメンバー全員が一度裁きを受けた方がいいかと思います。全員一旦捕縛しましょう。

魔王カトリーヌは人を惑わすタイプであって、攻撃力や魔力はほとんど無いとジェレノーさんは仰ってましたし、後程魔族に引き渡せば良いかと思います」


「ま、和平交渉中ですからね。わかりました。じゃ、ツタは複数の時は投網みたく投げるっ、と」


 そう言ってマコトが騒いでる連中に向けて捕縛ツタの端を投げると、ツタが瞬時に伸び、次々と縛りあげていく。


「本当に不思議なツタだなあ。どんな仕組みなのだろう」


「うぉぉ!」


「な、なんで俺達まで!」


「召管ならナカヤマだけだろ!?」


「ええぇ、なんでぇ? カトリーヌまでぇ?」


 パニックになった面々は口々に叫ぶ。しかし、ナカヤマだけは妙に落ち着いていた。


「こんなもので捕まえたと思ってるのか?」


「何?」


「炎の精霊、アフリトよ、我を戒めをその力で浄化せよ!」


 次の瞬間、炎が起こり、締め上げていたツタを焼き尽くした。


「ウソ……!?」


「しまった! 奴は火属性だからツタなんて簡単に焼いてしまう!」


 マコトは驚愕したが、時既に遅く、ナカヤマは体に付いた灰を払いのけ、剣を抜き、呪文を唱え始めた。


「炎の精霊アフリトよ、我が声を聞いたならば、その力を我が剣に宿し、力を貸したまえ! まずは召管の男から火祭りだ!」


「うぉぉ! ナカヤマの炎の剣!」

「ひと振りで炎の竜巻が吹き上がる魔法剣!」

「あれはひとたまりもねえぜ!」

「マコトさんっ!」

「マコトっ!」


 それぞれが叫ぶ中、チヒロはマコトが火だるまになることを覚悟した。彼が燃えてしまうなんて見たくない、思わずチヒロは顔を背け、目を固く瞑った。


「ぽっ」


( “ぽっ”?)


 なんとも気の抜けた音だけが響き、恐れていた炎の嵐の音がしないため、恐る恐るチヒロが目を開けると、皆、一点を見つめ唖然としていた。

 ナカヤマが振り下ろした剣の切っ先から、小さな小さな炎しか出ていない。それを真剣白刃取りしているマコトの姿があった。


「あのさぁ、それ、チャッカマンじゃないよね?」


 思わずマコトが突っ込むが、ナカヤマは驚愕の表情を浮かべ、絶望的な眼差しで剣先を見つめていた。


「な、何故だ?! 何故炎が出ない?!」


「なんだかわからんが、チャッカマンなら怖くないぜ!」


 とっさにマコトは両手に剣を挟んだまま、引き寄せ、ナカヤマのバランスが崩れたところに膝蹴りをくらわす。


「はー、殺陣たての本をダウンロードして読んでたのが役に立った。真剣白刃取りのその後ってなかなか書いてないからな」


「くっ、ならば直に炎をくらわせるまでだ! 炎の精霊アフリトよ以下省略! 」


 ナカヤマが呪文を唱えながら、手を振りかざすが、それもまた百円ライター並みの小さな炎しかでない。


「よくわからんが、勇者の力が落ちている! なら、ワンチャンあり!」


 マコトはナカヤマの懐に入り、素早く腹をパンチする。


「うぐっ!! な、何故だ! 炎を封じられただけではなく、俺の動きについてこれるなんて……」


 ナカヤマは腹を押さえて苦悶の表情を浮かべ、そのまま倒れた。


「知らねーよ、まあ、入管職員はガサ入れの時、荒っぽいこともやるからケンカはえーんだよ。チヒロ、城門の警備室の中を探して鎖があったら持ってこい。炎で焼かれないようにそれで縛る」


「う、うん。わかった」


 チヒロは城門の中に入り、探しながら考えていた。


(もしかしたら、マコトはスキル無しなのではなく、何か今までに無いスキル持ちではないかしら?  帰ったらアレク様に進言しないと)

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