第3話 俺はついでかよっ!

「あの召喚石は過去にこちらに来た者が近づくと自動的に発動して、再びこちらへ召喚しようとします。恐らくチヒロの元へタマキ殿が近づいたために発動したのでしょう」


 ブルーノが理由がわかったからか、やや高揚して理由を話している。


「じゃあ、あたしの召喚の腕の問題ではなくて、いわば事故のようなもの……」


 多分、過去に何か失敗していたのだろうチヒロが安堵したようにつぶやく。


「しかしブルーノ、それは召喚石の誤発動を抑える措置をしていなかったからではないか。それをせずにチヒロに持たせるとは、やはり詰めが甘いな」


「む……、あの場所には若い者ばかりで老人はほとんどいないから、召喚者がまさかあそこにいるとは思わなかったのです。それに召喚者はほとんどはこちらに定住か、不法滞在をしております。それもあって今回の召喚の儀を行ったのではないですか」


「言い訳はしなくてよい!」


「は、申し訳ありません」


 二人がまた言い争いしそうになったので、真は慌てて間に入った。


「えーと、話を簡単にするとばあちゃんは過去に異世界召喚されていた。

 あんた方は何かで召喚する必要があってうちの職場に来たところ、偶然にも過去の召喚者であるばあちゃんがその水晶に近づいたため予定外の発動をしてしまった。

 俺はなんも知らずにばあちゃんをかばったから、巻き込まれて召喚されたってことでOK?」


 話の腰を折るのも兼ねて、真は状況を整理するためにも一つずつ話す。話しながら状況を整理していくが、嫌な予感しかしない。


「ああ、その通りだ」


 聞きたくないとどめの一言が来てしまって、真はめまいがしてきた。別に自分自身が何か求められて召喚されたわけではない。完全なるとばっちりでこんな所へ来てしまったのだ。なんてことだ。


「ならば、誤って召喚したのならば元に戻してくれよ。俺、勤務中だったんだよ? 仕事を勝手に抜けたなんてバレたら処罰モノだ」


「ええ、せっかくこちらに来たのにすぐに帰るの?」


 環が間髪入れずに不満げに突っ込みを入れた。


「なんでだよ、ばあちゃん」


「久しぶりの異世界なのだし、どんな発展をしたのか、あちこち見て回りたいわ。マリエル様にも久しぶりに会いたいし」


「ばあちゃん、そんな都会に来たおのぼりさんみたいなセリフ……。俺には仕事があるっての」


「職場は大丈夫じゃないの? 皆の前で転移したのだし、公務中の行方不明なら無断欠勤にならないわよ」


 環が淡々と言うのに対して真は脱力する。


「いや、いくらなんでもあんな非現実的な失踪はまずいっしょ」


「恐らくは大丈夫だろう」


 アレクサンドルが話に割り込んできて説明を始めた。


「こちらも今回は勇者ではなく、異世界の官憲から職員を呼び寄せるつもりで、そちらの局長と話はつけてあった。役職者にはその旨を伝達してあるはずだから、対象者が違えど異世界転移した職員の処遇はなんとかするだろう」


 淡々と説明していくが、なんだか現実離れした単語ばかりが出てくる。


「えっと、入管から職員をここへ?」


「ああ、もっとベテラン職員を喚ぶつもりだったのだが、困ったな」


 困ったと言いたいのはこちらだ。真は尚も抗議を続ける。


「俺、まだ元の世界に両親だっているのに。ばあちゃんだって親父達が心配するだろ?」


「多分、大丈夫よ。隆弘たちには言い含めてますから。帰らなくても仏壇の召喚石が光っていたら捜索願は不要って」


「あ、あれって召喚石だったのかよ!」


 真は仏壇に供えてあった石を思い出した。確か不格好な石英だと思ったが、あれが異世界からの石だったのか。

 思えばおかしなことというか、心当たりはあった。普段からばあちゃんは両親に「石が光ったら、わかっていますね」と言い含めていた。それは、いつか異世界こちらへ再び行ってしまう日が来るのを想定していたのだろう。


「まあ、あれは元の世界へ戻る際にもらった記念品で、召喚には使えない石だったけどね。

 私はこちらへはもう来ることはないと思っていたのですけど、まさか魔導師さんが入管あんなところにいるとは思わなかったわ」


「すみません……。私があそこにいたから」


 チヒロが泣きそうな顔をして真達に謝罪をする。今だったら突っ込める、真は聞いてみることにした。


「そもそも、君、あんなアポ無しでいきなり局長に会えると思ったの?」


「いえ、アレクサンドル様の言うとおり、約束は取り付けていたのです。五階に行く約束だったのだけど、該当する部屋が見つからなくて迷ってしまって。それで、窓口へ場所を聞いてみようと思って」


「……局長は成田ではなく、高輪にいるのだけど」


「うそぉっ!」


 ……なんてこった。この子のドジと忘れ物という要素が重なって自分たちは巻き添え召喚されたということか。

 へなへなとくずおれる真に対してアレクサンドルは言った。


「まあ、日も暮れてきた。とりあえず今夜はこの大聖堂の宿泊室に泊まるが良い。今後のことは明日にでも改めて話そう。チヒロ、フィルじいさんに頼んで一番良い部屋を支度してくれ」


「はい……お二人とも本当にごめんなさい。今から案内しますね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る