少年と海~この世の終わりのその後~
桜水城
第1話
「この世の終わり」を回避して半年が経った。季節は夏真っ盛り。この辺りは比較的穏やかな気候とはいえ、さすがに陽射しが強くて汗はだらだらと流れ出る。オオカミの姿から変身した不思議な少年――ルゥと暮らし始めてからも同じくらいの年月が経っていた。
「おねえさーん、あづいよー。うみいこうよ、うみぃー」
暑い暑いと言いながら、ルゥは私の背中にぺったりと張り付いている。正直暑くてたまらないのはこっちの方なのだが、振りほどくのもなんだか気が引けて、私は不自然に思われない程度にさりげなく距離をとる。でも次の瞬間にはルゥは私の肩にあごを乗せてきたり、とにかく私にべったりなのだ。
「もう……ルゥが暑いことしてくるんじゃない。ちょっと離れてってば」
うんざりしてそう漏らすと、ルゥは更に私の身体に腕を回して抱きしめてきた。
「えへへー。いいの、おねえさんにくっついてるときもちいいしー」
「私は暑いんだってば」
「じゃあうみいこうよ、うみー」
「うみ……って何?」
さっきからルゥが連呼するその単語を、私は知らなかった。どこか涼しいところなのだろうか。こんなにもルゥが行きたがっているところをみると、きっと楽しいところなのだろうと思うのだが。しかし、そんな場所が近所にあるなどということはないはずだ。
「えー? おねえさん、うみしらないの? ふふっ、そっか。じゃあつれていってあげる!」
そう言うと、ルゥは辺りを見回した。何かを探しているようだ。私は、ルゥに不思議な力があることは知っている。けれど、彼はその力を見せびらかすようなことは滅多にしない。何の特別な力も持たない私と同じように行動し、言動し、生活している。
そんな彼がまさか、その不思議な力を使って『うみ』とやらに連れて行ってくれるというのだろうか。
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