069:アピールってすごく大事だよね
一週間。というか七日というべきか。
俺たちが二つのグループに別れてそれだけの日数が経ったが、今のところすべて順調である。
まず、食料の調達がようやく安定する程度には戻った。
湖や川の魚、その周辺や道中に仕掛けた罠やゲイリーの狩猟の成果、日頃の野草採取。
これらの成果の安定によって、ある程度は他のことにもっと労力を割けるようになった。
例えば、ゲイリーの知識と俺の野草スキルで見つけた野生化した野菜の回収と栽培。
つまりは畑を作ろうと色々試していた。
ため池にも水を貯めたり、他にも――
「トール、コイツも上手くいったぞ。草木灰を混ぜて焼いた奴は、一晩水に浸けても大丈夫だ」
「おー、おっけおっけ。それじゃあ早速量産に入るか」
他にも、先のことを考えてちゃんとした家を作る必要があると建材の開発を始めていた。
最初は板を作ろうと思っていたのだが、現状ではちょっと無理がある。
自分がスキルを習得、あるいは誰かに習得させれば大きい刃物とかノコギリくらいすぐに作れそうなのだが……。
(いつでも好きなときに好きな能力作れて、それを好きな人物に習得させられるとかどう考えてもヤバい奴だ)
ちょっと前のレベルアップ制というか、なんらかの条件を満たすたびにスキルが増えたりするのは、この世界の法則や謎を解くのも兼ねていたからまだアレだったが、ここまで自由度が高うなるとどうしても警戒心が出てしまうのは仕方ないだろう。
(スキルの習得とかは、本当にギリギリの時だけにしよう。習得も、基本は俺かヴィレッタで……うん)
この間、例外としてアオイとテッサにちょっとだけスキルを習得してもらったけど、これ以上は止めておこう。
「トール、浄水のほうはどうだ?」
「んー、とりあえず一晩水を何度もくぐらせたら、濁りは大分取れるようになった……けど」
グループを分けた時から、水に丈夫なレンガの開発は行っていた。
イメージが中途半端なせいか、あるいは対象外だったのかスキルに訪ねたレンガの作り方はおっかなびっくりな始まりだった。
粘土と泥を混ぜて焼いた試作一号を使って浄水器――最初のお手軽感満載なのではなく、ガッツリと、まるで井戸口でも作るかのようにしっかりと作った浄水装置。
しっかりと中身を詰め込めるように作った三段階の浄水装置。
以前作った円錐を重ね合わせたモノは実際しようしてみると役に立たなかった――肝心の濾過するための砂や粘土、小石や灰が溢れて流れていってしまったのだ。
おそらく、もっとぎっちり詰めた上で余裕を持たせなくてはならなかったのだろう。
ドバドバ流れる水、溢れる器、零れる中身。
急ぐのならば、それこそ石を貼り付ける魔法を駆使してそれっぽいものも作れたのだが……正直、便利すぎる力に段々不信感を抱いている。
いや、結局使うときは使っちゃうんだろうけどさ。
特に知識系スキル。
「こっちも、出来ればちょっと高いところに同じものを作って二層というか……二巡される形にしたいかな。水を。そうすればもっと安心して使えると思う。まぁ、基本的に煮沸すること前提なのは変わらないだろうけど」
「それはそうだろうな。なんだかんだで食あたりは怖いからな」
「サバイバル生活続けた今でも、たまにお腹やられるからねぇ。その度にゲイリーには世話になってるけど」
同性のゲイリーには、異性にはちょっと恥ずかしい事を色々お願いしてしまっている。
腹を壊して……その、トイレに付き合ってもらうことて多々ある。
昼間の明るいうちとかならば一人でも問題ないのだが、暗くなるとさすがに無理だ。
トイレまでちょっと距離あるもん。暗くて道見えないもん。動物寄ってるかもしれないもん。
「まぁ、俺が役に立てているならよかった」
「ただでさえ、狩りではゲイリーの世話になっているからな。いやもうホントマジでありがとう」
マジでゲイリーいなかったら詰んでた可能性あるし、感謝しかない。
一番頼りにしていた海での魚釣りが上手くいってない現状、ゲイリーがたまに大きな動物を狩ってきてなければ致命的なたんぱく質不足に陥っていた可能性大だ。
こっち来て最初の頃、アオイ――いや、ゲイリーとアシュリーを加えた四人で過ごしていたころには地味に悩みの種だった。
草だけで人が生きるのは絶対に無理!確信)
せめて豆とかキノコの類がないと死ぬ。
「レンガもそうだが……木の製材にも手を入れたい所だな」
「そっちはアシュリーたち科学組とクラウに期待だなぁ。一応、粗雑なやつなら今でもできなくはないんだけど」
一応、板――として作ったつもりの物はある。
試しに作ってみた、太すぎず細すぎない丸太を真ん中で綺麗に真っ二つにしたものだ。
まぁ、手間がかかりすぎて十枚……というか十本と言うべきか。
ただ半分に割って、断面を石や砂で軽く磨いただけだからなぁ。
いやホント、労力に見合ってねぇ。木材の加工法も早いところ道を見つけておかないと。
「まぁ、使えるものはちょっとでも確保しないとな。ゲイリー、動物の皮は?」
「肉を取り除いたものは、縮み防止のために枝で作ったフレームに広げて吊るして乾かしてある」
「……服とかに使えそう?」
「良いところ敷物だな。おそらく、時間が立てば固くなる」
「ですよなぁ」
……あんまり。あんまり頼りたくはないのだが。
(色々役に立つようななにか……こう、化学物質とか薬とかを作れるようなスキル。覚えてみるのも考えておくかぁ)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ここらでアタシ達の有用度をトール君に示さなければならない。わかるわよね? テッサ」
「もーちろんッスよ。だから色々考えているじゃないっスか」
グレースと共に使えそうな木材や食料の回収を終えて、一度彼女を拠点まで連れて戻ったアシュリーは、少々離れた川に仕掛けた魚用の罠の確認に向かっていた。
「どうにも、アタシはグレースの子守役にされちゃってから中々自由に動けなくてね」
「ある意味役には立ってるッスね」
「最低限はってだけよ。このままじゃあ主導権なんて妄想の先にしかあり得ないわ」
「と言っても……ボク達がなにかしらの技術者っていうのならばともかく、一兵士レベルッスからねぇ……」
「せめてデータベースにアクセス出来れば知識どころか技術もロードできるのだけど……」
「ないものねだりになっちゃうッスよ」
「わかってるわよ」
今回のチーム分けは、自分たちを分断する意味合いも多少はあると、アシュリーは読んでいた。
トール自身は深く考えていないかもしれないが、多少はそういう意図があってもおかしくはない。
「この際、精度には目をつむって工作機械でも作らないと埋もれてしまうだけだわ。ゲイリーちゃんも、狩猟で定期的な肉の確保に貢献してるし」
「あざといッスよねぇ。あれ、多分ちょっと手を抜いてるッスよ」
「えぇ、でしょうね。自分が罠以外で、それも一度に大量の肉を持って帰れる存在
だという事をアピールするために、当りをつけながら収穫のタイミングを図っている。動植物が違うし魔法が使えないとはいえ、『自然と共に在る者』である彼女にそれが出来ないはずはない」
「ッスよねぇ。まぁ、逆に言えばゲイリーさんが適度に肉を持ってくる間は安心できるわけッスけど……それならなおさらこっちはどうするかって話ッスよね?」
分かり切っているテッサの言葉に、アシュリーは爪を噛んで苛立ちを抑える。
「発電はできないかしら?」
「現状では……一番簡単な単極式の発電装置でも、キチンと作動する永久磁石と加工した銅は必須ですし」
「……動力だけなら、水力は?」
「あぁ~、水車っすか。それをやるには、計算とかはともかく最低限キチンとした木材とその加工法が必要ッスねぇ」
「やっぱりそこに戻ってしまうわね」
本来ならばアシュリー達が役に立てるだろうことは、トールが持つスキルの力に寄ってかなりの所が可能である。
自分たちが脳にインストールしている技能は、こちらの世界に来る直前に必要とされていたもの。
格闘術を始めとして、簡単なサバイバル技術や潜伏の技術などこそ十分なものを用意していたが、『生活のための知識』となるとかなり少ない。
一度経験があればある程度は自然な脳の働きで思い返すこともあるだろうが、生まれる前から兵士になることが決まっていた彼女にはそういう知識や経験はなかった。
「この際、適当でもいいから円盤を作って、工作装置を自作してみるべきかしら」
「いいんじゃないッスか? とりあえず一定精度の物を作れるとなればできることも増えるでしょうし、ボク達なら生身の人よりも正確に作れるッスよ」
「……加工系の技術を落としておけば良かったわ。今更言っても仕方ないけど」
「ッスねぇ。まぁ、どうするッスか?」
テッサは特に意見がないのか、肩をすくめてため息を吐く。
「まぁ、簡単な機械……機械っていうかカラクリ道具なら作れるとは思うッスからそれはまぁ……一番細かい動作に向いてそうなガイノイドを使っていろいろ試すとして……」
毛局答えらしい答えを出さないまま、テッサは『う~~~ん』と伸びをする。
そして、
「まぁ、そっちも試しながらということで……ボク達以外の人間の調査に関してはどうなってるッスか?」
調査。まだ確認できていない転移者――おそらく人間だろう――に対しての進歩を尋ねたテッサに、今度はアシュリーが眉に皺を寄せる。
「痕跡は2パターン。おそらく単独であちこち移動しながら、それでもこの周辺をグルグル回っている痕跡。で、もう片方は――」
「数こそ少ないけど、かなり丁寧に痕跡を消している少数の……いや、単独っぽいッスかね」
「……監視か、あるいは様子見か」
「あんまり言葉変わってなくないッスか?」
「そう? かなり違いがあると思うんだけどねぇ……」
「悪意があるか、ないかの違いって」
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