043:新入りさん、いらっしゃい!(まずは家作り)
「トール君トール君! 落ち葉はこれだけあればいいっスか?」
「おぉ、とりあえず火からちょっと離れた所に積んでおいて。風上の方にね」
「了解ッス!」
透ことトール君、只今絶賛お仕事中でございます。
本日の主な仕事は新入り二人分のシェルター作り。
……もう一個だけじゃ駄目かな。正直ゲイリーと一緒に寝るのそんなに悪くなかった。
……だめか、さすがに。男同士で寝てもしゃーない。
昨日はアオイがあの後添い寝役に立候補してきたが、それはなんか違うと言うか申し訳ないというか。
男同士の方が楽なんだ。どう考えても。
「にしても、やっぱり手数が揃ってると早いなぁ」
アオイと二人であれこれしてる時なんて、もっと時間がかかっていた。特に材料集め。
豪雨と急な増水で死にかかった後の火起こしで慌ててた時とか、葉っぱの壁だったから隙間風があって微妙に寒かったもんなぁ。
大雨の後だったしで正直落ち葉でまだちょっと湿ってたしなぁ。
焚いた火のある方向が暖かくてそっちにジリジリ寄ってたのを思いだすわ。
今回はキチンと暖かそうなシェルターで良かった。
一番大変だった材料集めがちゃっちゃか終わったのがデカい。
組み立ては二人ずつ、俺とテッサの組とアオイとゲイリーの組でそれぞれ一つずつ組み立てている。
日没より早く建て終われるだろうし、多分作業終わる頃にはアシュリーとヴィレッタさんも罠の確認終えて帰ってくるだろう。
さっき魚罠の方を確認し終わって――今日の戦果は二匹だった――今は獣罠の方に行っている。
かなり長時間の仕事を任せてしまって申し訳ない。いつもなら2グループで片方を担当してさっさと仕事を終わらせるのだが……。
今回はもうシェルターに専念させてもらう事にした。
(スキルが自分の行動や状況に適応するってのは分かったけど……多分それだけじゃないしなぁ)
組みあげた枝のフレームを紐で結んでいく作業を延々と繰り返しながら、俺はここ最近救われっぱなしのスキルという物について考えてみる。
「なぁ、テッサちゃん」
「呼び捨てで良いッスよ? 歳も同じ位だし、一応ボクらは降伏したって立ち位置ですし」
うん、まぁ……インパクトのある行動叩きつけて牽制する目的はあったけど、明確な勝敗を付けたかったわけじゃないんだけどなぁ。
「分かった、これからはそうする。……で、テッサ」
「うッス!」
「サブブレインってどんな感じなの?」
とりあえず、未だに実感がないが頭の中に『生えた』という機械の詳細は聞いておこう。
仮に何らかのフェイクが混ぜられても……そもそも、よく分からないスキルを挟んで機能していることだし、多分思うようにはいかない――んじゃないかなぁ?
……希望的観測が過ぎるか。
まぁ、なんというか……あまりに無邪気に近づいてくるせいか、昨晩の一件があったとはいえ警戒心があまり沸かないこの子は、聞く相手として気楽なのでいいだろう。
アオイも『あの子なら大丈夫だと思いますよぉ♪』とかさっき言ってたし。
「んー、実はトール君と隊長の会話っていくつかリアルタイムで聞いていたッスけど」
「? 傍にいたの? 姿消して?」
「アレが出来るのは、三人の中じゃあヴィレッタさんだけッス」
あれ、そうなの?
……いや、そりゃそうか。出来るんなら、あの時ゲイリーを拘束していたアシュリーはともかくテッサも姿消して奇襲してればどっちかは拘束されてただろう。
「ボクらは別々に行動してる時に、互いの聞いている事や見ている事を共有できるんですよ」
……主観でのライブチャットみたいなもんか。
「んじゃあ、俺の事もある程度は知っている訳か」
「まぁ、隊長との会話分くらいは。結構細かい事も、トール君の話は覚えてるッスよ?」
やけに色んなタイプが揃ったうちの女性陣の中で最も小柄だが、最もスタイルのいい少女兵がピッタリしたスーツのまま軽く胸を張る。
…………。
うん、眼福眼福。
「で、サブブレインに関してッスよね?」
「そそ」
「まぁ、トール君の使ってるソレに近いッスよ。話聞く限りじゃ」
そういってテッサが指で差すのは、胸ポケットから尻のポケットへと引っ越しをしたマイ・スマートフォン。
「スマホ?」
「そッスそッス。通信デバイスとして使えて、ついでにそれを利用してオンラインで情報を引き出せるんスよね? まぁ、かなり近いッスよ」
「違う所は?」
「まぁ、指を使わなくて良い所と……あぁ、そッスね。多分トール君、眼球のどこかも変異してると思うッス」
「え、そなの?」
「サブブレインにせよ電子脳にせよ、それだけでは知識面以外では役に立たないッスから」
「……サーチスキルか」
「それッス。ただ単に知識が思い浮かぶだけっていうなら分からなくもないッスけど、視覚情報に確かな変化があるっていうならその部分にも変化があるハズッスよ。あるいは脳とか」
おぉう。それはさすがにちっと怖い。
「なに、脳も機械化してる可能性があるの?」
「いや、それはないッスね。サブブレインが生えた時同様、もしそこも機械化してたらボク達には分かるッス」
「……じゃあ、やっぱり眼か」
眼球程度なら正直良いかなぁって思いがある。
ただやっぱり脳そのものが変異を起こす可能性があるっていうのはちょっと怖いな。
今の奴は、あくまで脳に直接繋がっているだけみたいだけど。
「まぁ、それはそれで矛盾があるんでなんかおかしいなって思うんスけど」
そんなことを考えていたら、自分がフレームの固定を済ませた部分に被せるための落ち葉をこんもり抱きかかえるテッサが、とんでもなく気になる事をポロッと漏らしやがった。
「矛盾?」
「仮にスキルがボク達の技術っていうなら、サーチの時点でサブブレインが生えてないとおかしいんスよねぇ」
「……他の技術と合わさったって事は無い?」
「でも、確かサーチした時に野草知識の物が混ざって来たんスよね?」
「うん」
「ってことは、サーチスキルで起こる現象はボク達のと関係ありそうな気がするんスけど……」
あぁ~~。なるほど。
「仮に俺の目とかが機械製になってた場合、サブブレインがないとそもそも動かない?」
「ッス」
ふむふむ。
「逆に言えば、眼っていうかサーチは違う世界の奴なのかな」
「いやぁ、でもさっき言った通り互換性があるのが気になるッスよ。突然現れた良く分からない物同士が都合よく組み合わさるッスか?」
「いやもうこの場所自体が常識を投げ捨ててるから……」
そこら辺深く考えても無意味な気がしなくもないと言うか……。
「ほら、そもそも仮に全部テッサの世界の技術だとしても、テッサの世界にない植物や動物の知識が入っているのはおかしいだろう」
「……言われてみればそうッスね。すっかり抜け落ちてたッス」
正直、これが一番気になっていた事だ。
確かにサブブレインとかいう……外付けのハードディスクの様な物が埋め込まれていて、そこから知識を引きだしているというのなら分かるが、それにしたってこの世界においては知識が豊富すぎる。
「……なんッスかねぇ。自分達にとって身近なモノだから固定概念がこびり付いてるんスかねぇ?」
「いや、でも大事なことだよ。ありがとう」
なんというか、割と正直に答えてくれてるんだろうなぁ。
……騙されているかもしれないっていう可能性は当然あるんだろうけど、どうしてもそれ考えるの面倒くさいんだよなぁ。
まぁ、なるようになるか。
「あぁ、それともう一つ。ちょっといいッスか?」
「ん?」
「ちょっと眼を閉じて欲しいッス」
「……なんで?」
「集中するためッス」
「……なんで?」
刺すとか気絶させるっていう場合は出来るだけちゃんと言って欲しいんだけど。
「サブブレインの使い方を覚えるためッスよ」
「? 集中しないと駄目?」
スマホというかスキルでサブブレインとやらを活用できるなら、別にそれでいいと思ってたんだけど。
「だから、スマホと同じッスよ。そのまんまの素で使うとか無防備過ぎるッス。身を守る方法を入れておかないと、変な連中に頭の中弄られるッスよ?」
「脳みそはそのまんまなのに!?」
なにそれ怖すぎる。
「まぁ、完全に乗っ取るのは不可能……ではないッスね。違和感無いレベルに感覚とか中に蓄積されていく知識とかの書き換えを続けられると、気がついたら自分の中の考えとかが好き勝手な方向に誘導されるとかも十分にあり得るッス」
こわっ?!
「というわけで、ちょっとした自己防衛法の訓練方法を教えておくッスよ。慣れてきてある程度の自己判断が可能になったら、ボクの自作でよかったらセキュリティ=プログラムも渡すッスよ。あの人達は多分やってくれないだろうし」
「ぜひ頼む」
やだ、この子すっごく良い子じゃん。
騙しているかなぁって一瞬思ったけど、それならそもそも言わなきゃいいだけだし。
……うん、ちょっとこの子は頼りにして良いかもしれない。
アオイのお墨付きでもあるし。
「あ、ちなみにセキュリティって受け渡しは今の環境でできるの?」
「大丈夫ッス! あと、一応一度仕掛けた後は、ボク自身であっても入れない様に調整しておくッスよ」
「そこまでする必要あるか?」
「自分の頭が弄られる可能性はゼロに近づけておいた方が、トール君も安心できるんじゃないッスか?」
「……まぁ、そりゃそうだな」
「そうッスよ。今の環境の支柱はトール君なんスから、出来るだけ根元はしっかり固めておくべきッスよ」
「任せてください! 余計な茶々を入れようとする奴らが出た時に、変な事を出来ない様にガッチガチに固めてやるッスよ!」
「二度と、なんにも……出来ない様に」
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