037:特に意味のない告白
「どうだ、かまどの方は? 割れてない?」
「はい、問題ないみたいですぅ♪ かなりぼぅぼぅと燃やしましたけど、筒の部分も中の受け皿も問題ありません! いけますよトールさん!」
スキルを習得してから一週間と少し――まぁ十日くらいが立った。
その間に、俺たちの生活は一気に変わった。
野草知識スキルは本当に偉大だった。取って良かったマジで。
これまで葉を茹でれば食える花としか知らなかった野草が、根を洗ってから刻んで茹でればコーヒーになり、より紐に適した植物の発見は罠の性能を跳ね上げ、ほのかな香りのする香草は肉や魚を味を引き出した。
そして今、また一つ変わろうとしている。
「これで器が作れますねぇ♪」
「水の煮沸なんかもそうだけど、料理の幅が広がるのは嬉しいな」
「火加減が難しいから、これまでの料理って基本的に串に刺して試しに歯を立てて生だと感じたらまた焼くって感じでしたからねぇ」
「……正直、腹下し以外に俺たちが病気らしい病気になっていないのは奇跡だと思う」
さすがに腹を下した事はこれまでにも何度かあった。
腹下しただけでもすっごい不安になるのな。
俺がなった時は、恥ずかしながらずっと誰かに傍にいてもらった。
ゲイリーやアシュリーが手を握ってくれた時は素で嬉しかったわ。
アオイも色々と面倒みてくれたし。
しかし……
今度のスキルは魔法を取るつもりだってアオイには言っていたのだけれど、もし医療知識とかがあったら真面目にアオイと話し合おう。
野草知識で判明した、腹下しに効く薬草にどんだけ助けられた事か。
特に、例のパンとかいう針葉潰して淹れるお茶。あれが実は腹下し……というか下痢止めになると言うのは以外だった。
「まぁ、トールさんはお肉を茹でたり焼いたりする時って基本的にやり過ぎるくらいまで熱通してますから、あんまり当たってないですよねぇ」
「そりゃあだって……怖くてなぁ……」
「人間、死ぬ時は死ぬんですから病気よりも味……あぁ、いや、確かにトールさんに倒れられたら困りますねぇ」
「ん? なんかやな予感でもすんのか?」
なんとなく、コイツの扱いというか付き合い方も分かってきた。
僅かな口調の違いでそれを察せるようになったからには、キチンと聞いておくのがまとめ役の義務だろうと尋ねると、アオイは首をかしげて少し膨らませて右頬に指を突き立て、
「ん~~~~~~。いや、なんとも言えないんですけどぉ……な~~~んか妙な気配がする気がして……」
「? 人を襲う獣……ってわけじゃなさそうだな」
「あ、そうなんですよ。分かりますぅ?」
もし獣の類ならば、現状武器らしい武器を扱えない俺にそこまで気を使う必要はない。
本気で死んでもいいとは考えていないだろうが、食当たりで体調を崩すくらい普通だと考えているだろうコイツが気にするとなれば、俺ーーつまりはまとめ役が必要になる事態な訳で……。
「俺ら以外に人がいるのか?」
「分かりません……。ただ、見られているって感覚は凄くするんですよねぇ」
「いつから?」
「ん~~……トールさんが新しいスキルを取った日の少し前くらいですかね?」
ふむ。新しい人間が来る可能性は当然ある。というか、ないとおかしい。
俺たち四人も知らない草木がえらい大量にある。
確証こそないが、これらも俺たち同様それぞれの世界から持ち込まれた物だろうというのが俺たち四人の見解である。
ならば、同様に異なる世界の人間が現れた所で何の不思議もない。
あるいは、ゲイリーとアシュリーの例みたいに俺達と同じ世界の人間が紛れ込んできた可能性も十分にある。
……頼むからアオイの世界の人間が来ませんように。
アシュリーとかゲイリーに近い価値観の人間ならまだ大丈夫だけど。
「まぁ、なんだかんだでお前の勘は頼りにしてるからな。もし、お前がヤバいと思ったら対処頼むわ」
「わ、私でいいんですかぁ? それこそ、ゲイリーさんとアシュリーさんに頼った方が……」
「いや、そういうのいいから」
いい加減、ここらに関しても一応言及しておいたほうがいい……のかなぁ。
「お前が……その、なんていうの? 仮面を被っている事はなんとなく分かってる」
ジャブがてら踏み込んでみるが、アオイはニコニコしたまま俺の方を見ている。
……大丈夫かな。よくぞ見破りましたね死ねぃ! とかなんねーよな?
野豚仕留めた時の話とか、アシュリー達の話で実は強いというのはなんとなく分かる。多分、本気で俺とコイツが例えば殴りあったら、勝てないのだろう。
(それでもそんなに警戒が必要な相手だとは思えないんだけどなぁ)
下手な事しなければコイツは結構安全だ。
ただし、確かにあるのだろう地雷が非常に見えづらいってのがコイツの怖いトコロなんだよなぁ。
「だから、まぁ……別に力を隠す必要はないよ。こっちとしてもいざって時の判断材料としてそういうの必要だから……あぁ、隠しておきたいならそれでいい。俺も気付いてない振りするから――」
「仮面を付けているような女を信じるんですかぁ?」
言葉をさえぎる様に、アオイが口を挟む。
いや、仮面を付けてませんとかいう奴いたらそっちの方が胡散臭くてしゃーない。
俺が腹割ってるんだからお前も心を開けよ的な事言ってくる奴とか、渾身の力を込めてぶん殴りたくなる。
「お前さんが、意味なく悪意振りまいたり後ろから刺したりしてくる奴じゃないのはなんとなく分かるから」
いや、まぁ、何があっても裏切らないとは言えないけど。
俺も追いつめられたらどうなるか……。なるだけ醜態見せないように余裕を持つように計画立ててるけどさ。
「まぁ、正直一緒に馬鹿やりながらここまで来た訳だし、勝手に信じる事にするよ」
「私、実は人たくさん殺してますぅ♪ と言ってもですかぁ?」
……え。
その告白でなんか変わんの?
というか、むしろしっくり来たよ。
「ちなみにこっちに来てからは?」
「一緒に来ていた人を一人殺っちゃいました!」
あぁ。多分だけど、相手がコイツの地雷踏んづけたんだろうなぁ。
「よし、とりあえず被疑者アオイ。動機を述べてみよ」
「パニックになって私を蹴ったり殴ったり怒鳴ったりしていたんですけど、そのうち押し倒して脱がそうとしてきたんで投げ飛ばしてザックリやっちゃいました!」
「無罪」
はい、しゅーりょー。お疲れさまっしたー。
「立場ってか俺側の常識からすると『よくやった』って言うわけにはいかんけど、災難だったな。怪我とかはない?」
「ぷ……っ……あっはっはっはっはっはっは!!!!」
率直に思った事を言うと、なにかツボにハマったのか、珍しくアオイがマジで爆笑し始めた。
初めて見たぞお前が腹抱えて笑ってるの。
「あ~、ところで死体は?」
「ひー、ひー……あぁ、はい。さすがにトールさんに見られるのはマズいとその時は思っていたので、ちょうどゲイリーさん達を助けた時に、あの近くに埋めておきましたぁ♪」
あの時か。アオイは結構俺と一緒にいたし、埋める時間はそんなになかったハズ。
となると、埋めたと言っても結構浅い?
「最近様子は見てる?」
「まぁ、あそこちょうど罠場に近いんでちょくちょく様子は見に行っています」
「で?」
「? ……あぁっ! すみません、とりあえず掘り起こされた様子はないですぅ」
なるほど。という事は、そこらには犬とか狼みたいな、鼻の効く肉食獣はいないと見ていいか。
アオイが俺の前で余計な腹芸をする手間が一つ剥がれた上に、それなりに有用な情報が一つ増えたのは良かった。
あの罠場は当面の間大事にしていこう。
今度俺が様子を見に行く担当になったら、ついでに罠も増設しておくか。
「……ふふっ」
「? どうした、アオイ?」
「いえ」
「やっぱり、私の勘も捨てたものじゃないなぁ、と」
何を訳のわからん事を言っているのか。
「うし、とりあえずお互い一歩は歩み寄れたって事でこの話はおしまいだ。アオイ、薪の用意しておいてくれ。早速素焼きの実験してみる」
「了解です! トールさん!」
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