028:『科学』と国と『魔法』の国
「この作業、意外と大変ね……っ! トール君、石斧使いつぶしちゃうかもだけど良いかしら?」
「問題ない問題ない。石斧だってすぐ壊れる事前提の代物だし、加工した石さえ残ってりゃ十分だろ。割れちゃってもそん時はそん時で」
「そう、ありがとう。それじゃ遠慮なく使わせてもらうわ」
罠を一通り確認した後、俺達はそれぞれ作業に入っていた。
アシュリーは流木の加工。ようするに煮沸に使う物をもう一つ作っているのだ。
一方、俺がやっているのは――釣竿作りである。
先ほどまで石ナタを片手に森の中を適当に歩きまわって、適度にしなる丈夫な長い枝を探しだして叩き折ってある程度の数を回収してきた所だ。
そして、問題の針なんだが……。
「これで……本当にイケるのかぁ?」
釣り針として使用したのは、つい先日俺たちの胃袋と脳を癒してくれた、あの鹿の骨である。
肉は完全に削ぎ落して、何かに使えるかと保管しておいた骨を使う時がついに来たのだ。
適当な所を石で砕き、一センチ~三センチくらいの細長い欠片の両端を石で擦って尖らせる。
……これだけでいいらしい。本当かよ。
「俺の知ってる釣り針と全然違う……」
釣り針といったらこう……アルファベットの『J』のようになってて、針の先端に返しが付いている奴だと思っていたけど……。
これただの針じゃん。小さい穴も開いてないから縫い針以下じゃん。いいとこマチ針じゃん。
「あら、訓練の時にはそれ結構使ったわよ?」
「マジでか」
「釣りというより罠によく使ってたけどね。まぁ、基本はどちらも変わらないわ」
「……かかるの?」
「えぇ、要するに魚の口の中に長い物を引っかけるのよ。つっかえ棒みたいに。あぁ、針を全部隠すように餌を仕掛けないとダメよ?」
「……う~ん、なんとなく今のでイメージは出来るようになったけど」
やっぱり見慣れない物を使うのは不安だ。
骨の薄い所を適当な大きさに割ってから、先の鋭い石でコツコツ『J』型の釣り針作ろうかな。
エラく時間かかりそうだけど。
「あぁ、でもこの平たい部分を使う訳にはいかないか……」
「ん? 肩甲骨の部分かしら? 何かに使うの?」
「失敗したらそれまでだけど……ノコギリ作ろうと思う」
割とデカくて平たい骨だったので、なにか新しい道具を作れるんじゃないかと思ってスキルを使って意識して見たら、面白い候補が出てきた。
それがノコギリだ。
この平たい部分。肩甲骨の部分を丁寧に半分に割ると、割れた部分がかなり鋭いのだ。これをノコギリ状に削っていけばOK。
あくまで代用品だが、それなりに使えるノコギリの完成である。
「上手く行けば、二つは確保できる。そうすれば木材の確保が簡単になる。……シェルターも作り直す必要があるしな」
これまでは落ち葉を直接地面に敷きつめ、押し詰めてマット代わりにしていたが、草を食べる虫が出てきたとなると今のままじゃ不味い。
せめて寝床部分を高くして地べたから離したタイプにしないと不味い。
そういうシェルターを四人分作るには、大量の木材が必要だ。
それも、出来るだけ堅い――つまりは折ったりするのが難しい奴を。
石斧でも出来ない事はないんだろうが、アレだと断面がバラバラになるから脆くなる。できるだけ頑丈な状態で手に入れるには、もっとそれに適した道具を作るしかない。
「ねぇ、トール君」
「はいはい?」
「……魔法……覚えたいの?」
おぉう、なんか滅茶苦茶気にしてんなソレ。
魔法がそんなに嫌い――だよなぁ。
敵の武器な訳だし。
「今まであんまり深入りしなかったけど……なんで戦争になったのさ。そっちの国とゲイリーの国聞く限りじゃ離れてたんだろう?」
「離れているどころか完全に違う大陸で、交流もそれほどなかったわ」
「…………ますますなんで戦争したのさ」
「正直、悪かったのはアタシ達だと思うんだけどね。切っ掛けはソレよ」
そう言ってアシュリーはある物を指差す。
俺やアシュリーの作業で出てしまった木や骨の削りカスである。
「……ゴミ?」
「とか、それに関係する諸々の影響ね。大気の汚染とか」
アシュリーは石斧の刃に近い部分を持って、ある程度深く削った流木の穴をの側面を削って広げている。
「アタシ達の……三世代前になるのかしら? その頃には、アタシ達の文明の影響が向こう側に出るほどになっていたのよ。流れ着くゴミもそうだけど……木々が妙に枯れたりとかね」
環境問題か。……ウチの世界にもあるけどなぁ。
自然と魔法が密接に関係していると言っていたゲイリー達にとっては、恐ろしく深刻な問題だったのだろう。
「アタシ達の前世代。つまりは親の世代には互いの国の関係はかなり冷え切っていて、ついに互いが経済攻撃として交易を打ち切った。……覚えてる? 前にゲイリーとアタシが話していた事」
「……薬関係はソッチの国に頼ってたんだっけか」
「それだけじゃないけど……向こう側じゃあ作れない物をこっちが売り、代わりに向こうは色んな資源を売ってくる。それが色んなイザコザで……まぁ、完全に止まってね」
「それで奪い合い?」
「……先に仕掛けたのはこっち側だったけどね。向こう側の鉱物資源が豊富な地域に奇襲、制圧。そっからずっと互いに、飲み込め追い出せって戦争を続けている」
……全く違う大陸で、互いの交流がほとんどなかったからこそ、どうしようも無くなる所まで行きついてしまった。
話を聞いて思った事はそんな所だ。
「ゲイリーの領地が前線とか言ってたけど、つまりそっちが占領した地域の目の前に?」
「そ。アソコの領兵はかなり強くてね……魔法を弱めるために森を焼き払おうとしても奇襲を受けて頓挫したり……アイツの父親の頃から睨みあっているのよ」
……本当に根が深いというか……よくゲイリーは表面だけでも取り繕ってくれてるなぁ。
まぁ、少なくともコイツラの争いについては俺にどうこう言えるものではないし、そもそも踏み入った所で不毛だ。
「ゲイリー……いや、ゲイリー達の文化に関してはどう思ってる?」
結局今必要なのは、現状の互いの認識とその対応だけなのだろう。
「……侵略したアタシ達の国の非があるのはあるのは確か。でも、制御出来ているかも不確かで不安定な技術にしがみ付いて、医薬品はおろか、冬の燃料にすら苦労し続けていた彼らには思う所はある……そんな所かしら」
「割と真面目に技術がかけ離れ過ぎだろう……」
もし魔法という技術さえなければ、きっとゲイリーの国はあっさりと降伏していた気がする。
そうすれば、アシュリー達の国が開拓を始めて……あ~、駄目だ。一歩やり方間違えた途端にテロとかゲリラ戦が始まって泥沼になりそう。
「仮に魔法がなければって君考えたでしょう?」
なぜバレたし。
「アタシが魔法が嫌いなのは、そういう考えがあるからなのよ。魔法がなければもっと平和な歴史だったかもしれない。……いえそもそも、完全に自力で制御できない大きな力なんて怖すぎるわ」
「ん~……実際に魔法を見ていないからよく分からんけど……」
自分で乗ってりゃ自転車は怖くねェけど、ただ飛ばしたい奴とか年寄りの乗っている自転車がすげぇ怖いようなもんか?
訳のわからない武力っつー方面で恐れているっつっても、魔法での人の変異が不可能って魔法に関してまず理解していない所があるみたいだ。
「仮に、アシュリー達が魔法を使えていたら、多少の衝突はあっても上手くやれたかもしれんね」
「? そう思うの?」
「なんとなく、な」
「ふぅ……ん」
アシュリーは石斧を、削っていた流木に少々強めに叩きつけて固定すると、額の汗を丁寧に拭いため息を吐く。
「だったら、魔法が使えないアイツとは上手くやっていけるのかしら?」
「……互いが歩み寄ればワンチャン?」
「君も難しいと思ってるわけね」
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