022:罠猟には免許や仕掛けてはいけない罠もあるので気を付けよう


「森の方は、やっぱり最後に通った時と変化はないように見えるんだけどなぁ」

「……一度適当な光景を簡単にスケッチしておくというのはどうだ? トール」

「ん~~~。インクがもったいないから今は止めておこう」


 河原を河上に向けて歩きながら、俺とゲイリーは周囲の植生や川の底へと注意を払っている。


「で、スキルを習得してからどうだ? なにか違和感は?」

「今の所はなし――まぁ、まだ使う場面がないからな」


 思い出すのは昨晩の会議。

 とりあえず全員にスマホの画面を見せると、どう言う訳か全員書いてある文字が読めると言う事だった。

 この時点でゲイリーとアシュリーは眉をひそめ、アオイは『これ便利ですね~♪』と無邪気に喜んでいた。

 なんとなくアホ毛を掴んで頭を揺らしてやった。


 その後スマホを操作をし、スキル習得画面を開いてそれぞれに内容を確認させた。

 今まで同様新しく増えた物も含めた習得可能なスキルの一覧だ。


『・健脚/移動する際に蓄積する疲労を軽減できます』

『・毒耐性/ある程度の毒を除外できます』

『・野草知識/野草に関しての知識がインストール可能です』

『・気配遮断/視界に一度確認した対象の5メートル以内に入るまで気付かれないように出来ます』


 ここまでが、今まで自分が選ばなかったために残っている習得可能スキルだ。

 魔法? 今の俺には見えませんね。

 とにかく、今回追加されたスキルは二つ。


『・釣り人/魚を捕らえるための知識や技能に補助が付きます』

『・トラッパー/罠設置に関する知識や技能、感覚に補助が付きます』


 この二つだ。正直に言おう。どっちも欲しい。そしてどっちも怖い。

 まだ辛うじて釣り人スキルの方は分からなくもない。サーチや道具作製のスキルを使用した時と恐らく同じ……だとは思う。少なくとも想像はつく。


 おう、お前だよトラッパー。

 感覚に補助ってなに? なにをどうするの?


 そしてこの六つの候補の中から何を覚えるのか、あるいは前の時みたいに保留するのかを話し合い――あぁ、一人程『魔法! 魔法覚えて使ってみましょうよぉ♪』と延々候補外をプッシュしまくるハリキリサムライガールがいたがとりあえずさらに頭揺らして大人しくさせといた。


『……俺は健脚とか地味にいいんじゃないかと思うんだけど』

『野草知識は……これまでのサーチとどう変わるのかしら』

『まず、今スキルを覚える必要があるのかどうかをだな』

『むぐぐぐぐぐ……トールさん、頭から――髪から手を放してくださぁい……』


そうして、灯りの乏しいこの野外生活に入ってからは珍しく夜遅くまで意見を交わし、結果――


「まぁ、実際に罠を仕掛ける時とかじゃないと意味がないだろう。トラッパーだし」

「ふふっ、確かにな」


 トラッパーを習得する事になった。

 あれ、おかしいな。俺こいつ、何気に魔法の次に怖がっていたのに。

 なんで取ったんだろう。


(いやまぁ、食糧取るのには一番コイツが効率良さそうだったしなぁ……)


 正直『釣り人』スキルと滅茶苦茶悩んだ。

 だが、魚限定の力よりももっと広い範囲で役に立ちそうな『トラッパー』の方がタンパク源の確保には役に立つのではないかと考え……こうなってしまったのだ。


「だが、違和感があればすぐに言ってくれよ?」

「あぁ、分かってる」


 そして小まめに体調を気遣ってくれるゲイリーは本当にいい奴だわ。

 その後も適当な雑談――まぁ、今後の探索計画とか食糧の保存方法とかについとの真面目な話題だが、意見を交えながら先日までの拠点へと戻って行く。


「……やっぱり肉とか魚を干せるようにしなきゃだめかぁ」

「野草とかも、物によっては天日干しにすればも長持ちするかもしれん」

「んー……できるだけ野草や果実は食べる分だけを採ってくるって形にしたいんだが」

「いつまで俺達がここにいるか分からん上、もしここに四季があるなら厄介だ」

「冬かぁ~~~~……」

「正確には寒気というべきか。野草や果実の類が全滅した時を考えると……な」


 あぁー……その時期には……どうしよう。

 いやまだ先の話だとは思うけど、最近少しずつ暑くなってきている気がする。

 恐らく夏が近づいているのだろう。そうなると、仮に肉や魚を手に入れても腐敗が早くなる。

 日本ほどの湿気は今の所感じないからまだマシだと思うが……。


(……あれかな。俺がもうちょい食材をいじったりすれば料理系のスキルとか生えてくるのかな)


 今回生えた『釣り人』に『トラッパー』のスキルだが、恐らく原因は魚用の罠を量産した事が原因じゃないかと考えている。

 もしだが、作っていた罠が動物用とか鳥用だったら……トラッパーはともかくもう一つの方は違うスキルがになっていたか、あるいはなかったんじゃないだろうか。

 もしこの考えが正しければ、野草を茹でたり肉や魚を焼いたりする内にそういうスキルが生えてくるかもしれない。

 そうすれば、保存方法等も頭に叩き込まれるのだろうか。


「まぁ、今は燻製とか干物でどうにかするしかないか」

「そうだな。しかし、そうなると吊るす物が必要だが……」


 うん、分かってる。


「紐がなぁ……いや、ツタとか細長い葉でも代用できるんだろうけど……」


 どうしても強度に不安が出る。あと太すぎる。

 一週間とか一か月ならそれでもいいんだろうけど、この状況じゃぶっちゃけ年単位で彷徨うことだって十分以上にあり得るわけで……。

 あぁ、駄目だ駄目だ。最近肉の件もあって余裕が出てきたせいで先の事考えちゃってる。

 もっと足元見ないと。


「今はそれについては忘れよう。とにかく、タンパク源の確保を考えないと……」


 正直、スキルを取った直後にちょっと思ったのが、『野草知識』を取ってキノコを探すのはありかもしれないと考えるようになった。

 うろ覚えだけどキノコって確かたんぱく質は含んでいたハズだ。それで森の肉って呼ばれ……あれ? それ大豆だっけ? いや、大豆は確か畑の肉で森は……森の肉は……あれ?

 いや、まぁいいや。たんぱく質を含んでいたのは多分間違いない。

 割合は少ないとかテレビで言ってた覚えがあるけど、何もないよりはマシだ。


 いや、そもそも野草に含まれる……のか?


(ま、まぁ……今度サーチを使う時は栄養とかそこら辺も意識してみるか)


 使ってみて分かってきたのだが、サーチスキルの最大の欠点は最低限の情報以外に、自分が知りたい事しか出てこない事だ。

 これまでの大半は、食えるかどうかという事を意識していたためにそれが可能かどうかという情報が詳しく出ていた。

 だが、ついこの間は紐を作るのに適しているかどうかという事を考えてサーチを使ったら、どの植物がどういう理由で適しているのかという詳しい説明が追加されていた――ほぼ全て読み流したが。


(今度、適当な石の多い場所でサーチ試してみるか。刃物を砥ぐのに適している石って)


 アオイが凄く必要そうにしていたし、実際今ある唯一のキチンとした刃物の手入れも重要度は高い。

 アシュリーのサバイバルパックの件も含めて、優先したい案件が多すぎる。


(人増えないかなマジで。安全、及び俺の精神の安定も兼ねて女性陣がさ)


 人手は足りない。だが、人が増えると食い扶持なども含めて問題が増える。


 今でこそ、それぞれの人柄等もあってギリッギリの所でバランスが取れているのだ――特に人間関係的な意味で。

 もういっその事ここにいる面子が全員男か全員女だったらもうちょっと楽なんだが……。

 ゲイリーが紳士で本当によかった。

 俺がヘタレで本当によかった。


 いや、まぁ、女性陣が物騒って言うのも大きいけど。


(女性なら……うん、まぁ、男よりはいいんじゃないかな)


 少なくとも男が、どんだけ頭良くても『馬鹿』になりやすい生き物である事はよく知っている。


(……なんにせよ、それが話せるにせよ話せないにせよ動物を見つけないとなぁ)







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







「……変わりはない、か」

「だなぁ。まぁ、荒らされていても困るっちゃ困るんだけど」


 それなりに丈夫に作ったシェルター、まだ薪や建材として使う予定だった流木や枝が残っている材料置き場、作業場。水を沸かすための丸太。


(湖の方もすぐにこれくらいは揃えないとなぁ……)


「ゲイリー、帰る時に余裕があれば枝くらいは持ち帰ろう。鞄にも余裕が空いたし」

「そうだな。念のためにバックパックも持ってきていたし、ある程度は持ち帰れるだろう」


 いい感じに乾いている木材だ。建材用の長いのは持ち帰れないが、薪には使える物は大分持っていけるだろう。


「とりあえず、今日は一度野草を探すついでに簡単に周囲を探索してから飯にしよう」


 多分、今日が肉を食える最後の日だ。

 出発する前に食糧を分けた時の、全員の悲しそうな顔が忘れられない。いやマジで。


(マジで豆とかキノコとか……バリエーション増やさないと士気が下がるな)


 欲を言えば魚か肉を確保したい所だけど、さすがにそれは容易く狙えるものではない。

 ……このままだと、アオイやゲイリーが提案していたように虫を食う羽目になりそうだ。それだけは可能な限り避けねば。


(……あれ?)


 そんな事を考えていると、視界に違和感を覚える。

 あれだ。サーチスキルを使った時と同じ感覚だ。

 視界は確かに自分の視界なんだけど自分のじゃない……微妙に酔いそうな感覚。


「? どうした、トール」

「いや、ちょっとなんかのスキルが発動してて……」


 とりあえず辺りを見回す。

 サーチもそうだが、視界に入れないと何に発動しているのかサッパリなのだ。

 キョロキョロ辺りを見回して、なにか異物がないか探してみる。

 すると森の方の一部、茂みの方に白くハイライトされている何かが映っていた。

 ただ、なんというか……サーチスキルの時に様にハッキリしていない。

 ぼんやりと、そこに何かあるとスキルが教えてくれているようだ。


(説明文も乗っていない。これもうちょっと近づかないとダメな奴か)


 とりあえず生き物ならば、いつぞや茂みの中に隠れていたアオイの様にはっきりと輪郭がハイライトされるはずだ。

 今サーチスキル使ってねーけど。


(トラッパーが発動してんだろうなぁ、多分。って事は――)


 更に近づくが、何かがある様には見えない。

 なんとなく警戒して、身を低くしてハイライトの辺りを観察する。

 すると、スキルが教えてくれていた物がまっすぐ見えるようになり、ハイライトも消える。

 細い枝が細かく生い茂っている茂み。

 その一部、地面に沿うように穴が空いていた。

 そして、その穴を差すように文が視界に浮かび上がる。


『小型動物の痕跡を発見しました』


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