020:紐は意外と大事

「……何がツラいって紐が足りない」

「ですねぇ……。途中からもう普通にツタで結んでいますし。まぁ、これでも問題ないですけど強度がちょっと気になりますねぇ」


 今までも、暗くなって出来る作業が限られる時に程良い大きさと丈夫さを持つ長い葉っぱを石ですり潰してチマチマ繊維にする作業はしていた。

 それを日光が当たる所に干して感想させた奴をチマチマチマ紐にする作業もだ。これが意外と頑丈で、例のバックパックの際はあくまで仮ということで使わなかったが、結んだり繋いだりする作業にはかなり心強い。


「魚って草食べるっけ? ツタ食われたら罠がバラけるけど」

「基本は虫さんとかだったと思いますけど……ひょっとしたらそういうお魚さんもいるかもしれませんねぇ」

「……こっちでも、あの漏斗型の生簀作っておくか?」

「ん~~。まぁ、とりあえずはこれでいいんじゃないですかぁ? 色んな所に置けますし、もし食べられた跡があれば、そういう生き物が中にいるって証拠になるじゃないですかぁ」

「……言われてみればそりゃそうか」


 とりあえず決めたんだから、今は考えるよりも行動するべきだ。


「あれだな。紐って思ってた以上に大切だわ。さっさとスコップとかナタ量産しようと思ってたけど、それよりも紐作製係を確保しておくべきなのかもなぁ」


 ある程度乾かしたツタも無くなり、今では集めたばかりのツタを使っている。

 作業をするたびに中の緑色の液が手を汚し、不快感を得るわけだ。

 多少なりとはいえ、作業効率も落ちているだろう。


「あぁ、でも穴を掘る物は欲しいですねぇ。いや、今までみたいに鋭い木片でもどうにかなりますけど、掘りやすい形と大きさを整えた物ではやはり速度も違いますし……」


 だよなぁ。やっぱり、四人揃ってからの最初の行動の時みたいに、二組に別れて片方が道具などの拠点の強化に努めるべきなんだろうか。

 これがあれば便利なのに、っていうものはたくさんある。

 例えば水を汲む道具とか――まぁ、これは今折り畳み傘で代用しているけど。

 本来頭を守る部分を逆さにして、バケツ代わりにして水を汲んでいる。

 ただし、それなりに高かったために比較的頑丈とはいえ折り畳み傘だ。やはり脆い。

 できれば早く、しっかりしたバケツの様な物を作るべきだ。


「そうなんだよなぁ……」

「まぁ、紐は紐でこれから先……例えば釣りの道具や拠点の強化様々な所に使う事は私でも想像できますし……正直な感想としては、どちらも欲しいって所ですねぇ♪」


 だろうな。そうだろうな。うん、俺もそう思うわ滅茶苦茶な!

 ……肉がまだあるうちに、道具作製を一度全力で進めるべきかもしれんなコレ。

 つまりは明日という訳なんだが。

 う~ん、出来る気がしないと言うか、やりたい事が多すぎる。


「……ゲイリー達が食べれる野草をどれほど集めてくれるか……肉の消費は抑えようと思っても無理だしなぁ」


 アシュリーと共に探索した際、ここらの植生はある程度スキルで調べている。その上で食べられそうな奴は全部スケッチ――あと、念のために採取して押し花にしたのも挟んであるノートを渡してある。

 出来れば前半分の汚い文字の数学に関する記述は全部スルーしてくれ頼むから。


「……私も人の事は言えませんけど、トールさんってば随分の食べ物の確保を気にしていますね」

「ん? そりゃそうだろ、生命線だぞ?」

「いや、それはそうなんですけど……なんというか、必要以上になんとか貯め込もうとしてません?」


 ……そうなんだろうか?

 いや、確かに少しでも日持ちする方法とかゲイリー達に聞いて、結果鹿の死体はあの燻製になったわけだけど……。

 え、なんか変?


「木の実とか野草とかも、採取のしすぎには気を付けてましたよね? 後々生えなくなる事を恐れてですか?」

「あ~~……。うん、まぁ、それかな」

「そこまで考えているってことは、ここでしばらく生活するつもりなんですよね?」

「むしろ後先考えずに根こそぎ取って行こうとする方が俺には理解できん。短期だろうが長期だろうが、持っていけるもん全部持って行くのは……こう、なんだ? 良心ってわけじゃなくて……良識でもなくて、こう……」


 上手い言葉が出てこなくて、枝とツタを弄る手を止めずにしばらく悩んで、


「常識? 俺の周りでの、だけど」


 実際追いつめられるとそれができるかどうかは分からないが、ただ、後の人の事を考えて行動しろとは昔から散々口を酸っぱくして言われていた。特にオカンに。


 そう言うと、アオイは「ほへ~~っ」と、ため息なのかなんなのか良く分からない物を小さく吐きだす。


「割と皆さんで協力しあうような環境だったんですねぇ」

「協力しあわない環境ってどんなんだよ」

「ウチだと、協力しあうというより利用しあう環境だったのでぇ。私が今の立場に着いたのも、重要役職を派閥で独占したかった親戚の伯父さんが、他の上級幹部をいつか取り込む時のための貢物として女の私を――」

「はぁいこの話終わりーっ! チェンジ! 話題のチェンジを要求しまーす!!」


 なんでコイツの国はちょっとした雑談だけで闇が溢れだすんだ!

 止めようよそういうの! 悲しくなっちゃうじゃない! なんて言えばいいのか分かんなくなっちゃうじゃない!


「と、とりあえずアレだ! 昔はどうか知らんが今はこんな状況だからな!」


 なんだかんだでアオイは最初に出会った人間で、まだ一月にもならない時間しか共に過ごしていないとはいえ、それなりに助けられる事が多い女である。


「……まぁ、特に変わらないか。これまで通り、俺を助けてくれよ。俺も……まぁ、スキルも含めて出来る限りお前やゲイリー達を助けるからさ」


 最近では、もうスキルを全部知識とかに振ってデータベース化しておけば良いんじゃないかと思うんだが……。

 体力的に一番下だからなぁ。

 怖くて取っていないが、『健脚』とかも割とありかもしれない。いや、今度覚える機会が出来た時に皆で相談するけどさ。


「……はい!」




「お任せください! 邪魔な物があったら私が斬ります!!」

「……うん、いや、それもあるけど……もうちょっと違う方向で助けて……ね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る