018:帰還、合流、会議の三本立て


 その後、食糧を探し――まぁ、前日に多少多めに野草を回収していたためにちょっと補充するだけで済んだが――そして食事の用意をしながら、例の硬い木を使ってちょっとした小道具を作ってみた。

 大きすぎず小さすぎない石を焼いて、それをやや大きめの木片の上に置く。すると、当然だが焦げる。

 そして焦がした部分を細かい石で取り除き、また焼いた石を乗せて焦がしてその部分を取り除き――それを繰り返して木材を加工し、マグカップを作り上げたのだ。とりあえず二つだけ。俺とアシュリーがそれぞれ一つずつ作り上げて完成させた。

 不細工だが取っ手も作ったため、持ちやすさはもちろん紐やツタでどこかに引っかける事も可能だ。


 正直、自分の地の頭だけではこういうのを作るという発想は無かったし、作ろうとしてもしっかりした扱いやすい刃物なしでは到底不可能だっただろう。道具作製スキル万歳である。

 水を汲むのが容易い入れ物を作ろうと脳内会議(スキル)で色々と検索した結果、こういう方法が現れてくれたのだ。

 助かる。非常に助かる。

 ただ単に物を入れておく物ならば、先日ゲイリーと作った小さな受け皿があるが、あれでは水はすぐに漏ってしまう。あくまでも森を探索する時の採取用なのだ。


(ただ適当に作るんじゃ、やっぱ駄目か)


 完全に無駄というわけではないが、やっぱり道具という物はもっと考えないといけない。

 スキルのおかげで作ろうと思った物は作れるようになったが、あくまでそういう物が作れるだけだ。

 細かい所もそうだし、工夫するべきところはたくさんある。そこら辺で思考停止するわけにはいかない。――シェルターの時同様、後が怖い。


「明日は、ある程度周辺を調べたら、火の始末をして帰宅って所かしら?」

「あぁ、心配させるわけにもいかねぇし……まぁ、発見らしい発見はあったしいいんじゃないか?」


 魚の卵を発見したのは正直大きい。

 正直、ここや本拠地での罠の増設を真面目に考えている。釣り場になり得る事に加えて釣針や釣り糸があるというアシュリーのサバイバルパックの捜索、回収。やりたい事はたくさんある。


 時間に余裕があれば、あとついでに同行者がゲイリーの時というか女性陣がいない時に、マッパでダイブして湖の底とか探してみたいところだ。

 近くで火を焚いておけば問題あるまい。


「そうね。……ねぇ、トール君。ちょっと聞いておきたいんだけど」

「うん?」

「君は、どういう目的で動いているの?」

「……生きるため、じゃあダメ?」

「いえ、それもそうなんだけど……」


 別に深刻というわけではない様子だ。

 単純に疑問に思っただけなのだろう。


「なんだろう。君、一般人にしては焦りが見えないから……これからどうするつもりか気になってさ」

「うん?」

「帰るつもりなのか、それとももうここで生きるつもりなのかってことよ」

「……あぁ」


 言われてみれば、それについて考えたことがなかった。

 あれがあれば、これがあればという事を考える事は多々あったが……うぅん、と。


「……多分、実感がないままなんだと思う」


 ほんの少し前、好きだった爺ちゃんが亡くなった時がそうだった。

 悲しくは無く、涙も出ず、葬儀の準備等で忙しくしていた両親の手伝いをして、葬儀を終えて、そのまま日常に戻った。

 あの時と同じだ。


「それに、今では少しずつ周りが整っているとはいえ、しなくちゃいけない事とか考えなきゃいけない事が多すぎるからな」


 食糧の事もそうだけど周辺の探索、それに拠点の設備強化。

 ……具体的に言うと、洗濯とか入浴とか……それそろ衛生面が気になって来た。せめて汗や垢をしっかり落とす事が出来るようにしたい。

 いやホントに。排泄関係もそうだけど臭いが本当に気になって来た。


 ……あぁ、うん。確かに……言われてみれば帰る手段に関して全く考えてなかったな。


「……君、さ」

「ん?」

「割と今を楽しんでるわよね」



 そうかな?




 ……そうかもしれない。






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







「おぉ、そっちも無事に帰って来たか」

「トールさん、アシュリーさん、お久しぶりですぅ~♪」


 周辺の探索を軽く済ませて状況を把握して、そして俺たちが本拠地へと帰還すると、アオイとゲイリーも帰りついていた所だ。

 自分達は新たに発見した、食べる事が出来る野草を持ち帰って来ていた。一方、ゲイリー達は、


「トール、今スキルは使用できるか?」

「? あぁ、朝使ったけどこの時間なら……多分。何を見ればいい?」

「……ついこの間、使用を控える様に言っておいてなんだが……コイツだ」


 そう言ってゲイリーが取り出したのは、弁当箱ではなく、以前作った採取容器だ。そこには葉っぱが敷き詰められており、だが一見、それ以外の物が見つからない。

 いや――


「……蟻?」


 スキルを発動させ、いつもの違和感を覚える視界に変える。

 底に敷かれている葉っぱは、恐らく適当に取って来たのだろう。どうやら根っこを刻んで茹でればお茶になるらしいが――まぁ、それは後。


『・クワロゥ=ブラックアント:虫や動物の死肉を喰らう蟻。弱い毒も持ち、噛まれると強い痒みが長時間残る。なお、茹でれば食べる事も可能である』


 ……え、食べられるの? 蟻食べられるの? 

 だって……え、蟻だよ? ……蟻なんだよ?


「トール、どうだ?」


 ゲイリーから声をかけられて我に返る。

 とはいえ、話すべき事なんて……


「その……茹でれば食えるらしい……よ?」

「他に情報は無いのか?」

「他は……虫とか動物の死肉とかが主な餌だって。あぁ、後弱い毒持ちだから気を付けて。まぁ、痒くなるくらいらしいけど」

「…………そうか。だが、まぁ大きい発見だ。動物の痕跡こそ見つからなかったが、虫が住んでいるのが分かったのならば、ある程度栄養も安定するだろう。コイツ自身は毒が少々不安だが……君のスキルで食えると言うのならば問題あるまい」


 ……食べるの? やっぱ食べるの?


「蟻さんはたっくさん捕まえてお皿の上で潰して御団子にしたのが結構美味しいんですよねぇ♪ 子供の頃、アリの巣を見つけたたら棒を差し込んでたくさん取ってましたぁ♪」


 おい、アオイ、お前……。

 マジでか。

 マジなのか。


「それで、トール。君達の方はどうだった?」

「あぁ、やっぱり動物は全然見なかったけど……魚がいる痕跡は発見した」

「本当かっ!?」


 目を僅かに輝かせて叫ぶゲイリーに、少しだけホッとする。

 あぁ、うん、よかった。やっぱりそっちの方が嬉しいよね。

 そして特に反応が変わらないアオイ君。君とは一度互いの文化について話し合おう徹底的に。

 いや、俺より強いし考えたまに怖いし、一度は確かに恐怖覚えたけど……。

 アオイはやっぱりアオイなんだよなぁ、どう考えても。


「たまたま拾った水草に、魚の卵が付いていた」

「……となると、産み付けた魚もいるはずか」

「うん。下流で見つけた湖の近くだったんだけど……場所的にも悪くないと思って、仮拠点を作っておいた。ここみたく、水を貯めて沸騰させるための丸太を削った器と……あと、一応人数分のシェルターも用意してある」

「悪くないな。いい判断だったと思う」


 ついでに上流にも仕掛けた罠の様子を聞きたかったが、報告が無かった以上成果は出てなかったのだろう。そもそも、魚の報告で驚いていたし。


「……まぁ、先日の肉も荒らされていないんだ。火はもう俺たちで起こしたし、改めて食事にしよう。詳しい話も兼ねて」

「……そうだな」


 アオイは既に、吊るしたまま煙で燻した肉を削ぎ落すために刀を抜いている。

 唯一の刃物持ちのため、こういう時は心強い事この上ない。


「今日はもうゆっくりと過ごそうよ。皆、お疲れ様」



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