011:二つめのスキルは――
アオイとアシュリーのペアは、朝食として茹でた野草をしっかり食べてから探索に出発した。水を汲んだりするのに使っていた弁当箱も向こうに渡してある。当然、木の実やなんちゃってお浸しにした野草をがっつり入れてある。
とりあえず、最低一泊はその場で野宿するつもりで川下を調べて見るつもりの様だ。
そして俺たちは――
「ナイフとか斧の代わりを作る……か」
「あぁ。探索にしろ拠点の強化にせよ、何かを叩いたり枝を折ったりする道具ってのは割と重要だと思うんだ。他には土を掘る道具というのも意外と使用頻度は多いし……」
ゲイリーと一緒に、とりあえず何を作るかという話し合いを始めていた。
実際、こうして互いに口に出すと分かるが、結構アイデアという物はポンポン出てくる物で――
「確かにそうだな。ただ、俺がさっき言った奴も考えておいて欲しい」
「枝を組み上げて作るバックパックや運搬――ていうか採取用の器だよね? うん、分かってる」
このように様々なものがポンポンと候補に挙がってくるのだ。
「俺としても、野草や木の実とかを入れる器は必要だと思ってたんだ。今まではあの弁当箱がそれの代わりだったけど、これからはそうもいかないしな」
現に、今はあの弁当箱は二段共にここにないわけで。
「よく、あの……なんといったか……プラスチック? の器を貸し出したな」
「いやだって必要だろう? 危険かもしれない遠出をさせるのに手ぶらで出させるわけには行かないよ」
訓練を受けてはいるというアシュリーなら、そこらの樹皮とかで器くらいなら作れるだろうけど、水をキチンと貯めておける物はさすがにムリなはずだ。
二人とも帰ってもらわなくちゃいけないんだし、出来る限りの装備を整えさせるのは間違っていないはずだ。
「実際の価値は分からないが、現状アレは非常に大切な物じゃないのか?」
「だから貸したんだけどなぁ……」
安い品というのもあるけど――あっ、腐食とかで割れたりするかもしれんか。まぁ、それは覚悟しておこう。
その前に水を入れておける器を作れればいいけど、さすがに現状だと無理あるよなぁ……。
「ゲイリー……様?」
「今更『様』なんてつけなくていい。俺の領民どころか国の人間でもないし、文化も明らかに違う。呼び捨てで構わんさ」
「……悪いな、ゲイリー」
「構うな、トール。俺が、俺たちが選んだリーダーは君だ」
おぉ、もう、ホント――
ホント、いい奴だよなぁゲイリー。
知識面といい性格といい考え方といい、今一番頼りにしている男である。
「道具を手放したのがマズかったのかと思ったよ、マジで」
「それで、念のためのご機嫌取りに様付けか? よせよせ、そういうのは大抵逆効果だ」
こう、貴族というか偉い人というか、そういう人ならばもっと偉ぶると思っていたのだが……。
そういうのを出してこないために、いつもクールだし、本当に頼れる先輩とかそういう感じの方が近いのだ。
「……俺やあの女――アシュリーに君が気を使っているのは分かっている。気にくわんと言えば確かに気にくわんが……まぁ、考えている事も分かる」
チューブ状の植物をストロー代わりにして、削った丸太に貯めた煮沸済みのお湯を一度口にしてから、ゲイリーは続ける。
「……喧嘩は苦手なんだよ。もっと深刻な事情だっていうのは分かるけどさ」
言葉を飾る事に意味はない。
一番シンプルにそう伝える。
ゲイリーは、吹きだしていた。
「なるほど。やはり、君と俺たちではかなり文化が違うようだ。……いや、状況がと言った方が近いか」
「そりゃなぁ……」
ゲイリー達は互いに戦争の真っ最中で、アオイはディストピア国家でそれなりに良い生活をしていた女。
激動とかドラマティックとかいう言葉とはもっとも程遠い自分と三人では、色々な物が余りに違いすぎる。
「この森ってか、この世界からそれぞれの世界に帰れるかどうか分からないけど……今くらいはとりあえずあからさまな敵対は控えて欲しいな」
「……あぁ、わかっているさ。これからは気を付ける」
我ながら無茶な事を言っていると思うが、ひょっとしたらゲイリーは俺以上に協力が必要だと考えているのかもしれない。
もっとも、それを踏まえたうえで感情が邪魔してしまうのだろうけど……。
それは仕方のないことなのだろう。
少なくとも、俺やアオイといった外野が突っ込める事ではないのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それぞれが道具の材料を探しに―俺は程良い大きさと形の石を、ゲイリーは丈夫で形と大きさに合う木を探しに出かけ、そして日が高くなる前には拠点に戻っていた。
というより、ゲイリーは一足先に戻って作業場を作っていた。
作業をする間、日光を避けるために長い枝を支柱にし、ツタと適度な枝と落ち葉で即席の屋根を作ったのだ。
シェルターと視界、風避けの必要はないので屋根だけだが――なるほど、確かに作業の際の不快感は減った。
体感で分かるくらい発汗量が減ったのだ。
「なぁ、ゲイリー。魔法ってどういうものなんだ?」
比較的真っ直ぐだが、節や小枝などがある棒から余計な物を取り除く作業をしながら、いよいよ本題に入ってみる事にした。
「ん? ……そうか、君の所では魔法というものが存在していないのだったか」
俺が削り終えた枝に、手ごろな大きさの石を押しつけて調整しながら、それがハマるように小石で削るという作業を続けているゲイリー。
彼はその手を止めて、一息つく。
「正直、どういうものかと説明するのは難しいな。なんというか使用者というか家柄などでかなり変わるし」
「? と、いうと?」
「そうだな……。君の生活というか知識で、妖精とか精霊と聞いてピンと来るかい?」
「あぁ、まぁ一応」
日本の昔話に付き物の妖怪なんかは、海外で言う妖精なんかと正直同じものだろう。
「ウチの国は、信心深いってわけじゃあないけどお寺や神社……えぇと、教会みたいなものなんだけど……分かるか?」
「あぁ、分かる」
助かった。異文化交流どころか異世界交流なので、言葉は通じていても単語などで齟齬が出てくる可能性があるのは面倒だな。
「そういうのが身近だったし、そういう類のおとぎ話なんかも多かったからなぁ」
割と自分で自分の文化について考えた事がなかったために、説明するのにちょっと詰まりながらだった。
もっとも、それでゲイリーにはある程度は伝わったらしく。「そうかそうか」と少し嬉しそうに近づいている。
「アシュリー寄りかと思えば、文化においては俺たちにも近い所があるようだな、君の国は」
「なのかね。こっちからすれば魔法国家なんて想像もつかないほどロマンな国って感想だが……」
俺がそう言うと、ゲイリーは「中々分かっているじゃないか」と、少々芝居めいた事を言って、
「まぁ、話を戻すが……要するに魔法っていうのは基本的に、そういった妖精や精霊とのコミュニケーションとその結果なのさ」
「妖精と話せるのか?」
「人間同士の様には無理だ。だから家ごとに長い時間をかけてコミュニケーションの方法を確立させていく。魔素っていう餌を与えながらな」
……いまいちピンと来ない。
要するに、言葉の通じない外国人に身振り手振りでどうにかこちらの意志を伝える作業みたいなものだろうか?
「思い通りに行かないことが多い?」
「当然。例えが悪いかもしれないが、犬猫に複雑なしつけを一つずつ教え込むような物だ」
「……あぁ。それならなんとなく分かるな」
犬なら『お座り』とか『待て』とか、そういう言葉によって飼い主が何を求めているのか理解させるように、呪文とかそういった物で精霊とか妖精的な物に決められた行動を起こさせるのだろう。
(となると、魔法ってやっぱり外れスキルか?)
サーチのように、取ってすぐに起動するタイプとは思えない。
いやいや、ひょっとしたらゲイリーの『魔法』とこのスキルの『魔法』が全く別物なのかもしれないが……。
(……よし、これまで切り出すタイミングを逃して相談出来なかったけど、全員揃った時に改めて相談しよう)
それはそれとしてスキルだが……。
うん、ちょうどいいのがある。コイツにしよう。
俺はスマホを取り出し、この間からずっとおんなじ文面の画面の一か所をタップした。
――・道具作製
これが、俺の二つ目のスキルになった。
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