第一章:4人のおかしいサバイバー(副題:暗躍)

008:RPGのパーティって四人が多いよね



「助けてくれた事には感謝する」

「命を救ってもらった事には感謝するわ。ありがとう」


 一夜を無事に過ごし、再びスキルを使って辺りで食えそうな野草を見つけだして、一昨日試した煮沸方法で煮てアオイと食事を取っている辺りで、二人が目を覚ました。

 二人とも年は恐らく自分とそう変わらない――まぁ多少は上だろうが、纏っている雰囲気はとても同じとは言えない。二十代、いや三十代前後に思える。


 さすがに混乱していたようなので、俺が今の状況を説明する。

 どこかは分からないが、俺たちが森の中にいる事。

 俺とアオイは出身が違う事。……世界うんぬんの事はまだ言っていない。

 そして、現在人には全く出会っておらず、文明の気配が全くないことを伝えた。

 そして、ある程度落ちついた二人は――


「礼は後でする、だからちょっとそこの女を殺させてくれないか?」

「ちょっとコイツの首をへし折っていいかしら?」


 ダメです。

 おいアオイ。そこで「ほら捨てとけばよかったでしょう?」みたいな顔をするんじゃない。

 アホ毛をぴょこぴょこさせるんじゃない。また掴むぞゴルァ。


「いやいや、ちょっと待てって。せっかく助けたんだからもうちょい命は大事にしてくれよ」

「そうですよぉ。お互い得物がないんですから、決着付くまでにかなり体力消耗しちゃいますよぉ」


 違う、そうじゃない。


「仮にも領地を治めている人間に、領民を煽動しようとしていた敵国の人間を見逃せというのか!?」

「魔法なんか使って無理矢理世界を歪める連中を許せっていうの!?」

「自然を壊してきたお前らがいうのか!?」

「あんたらが資源を占有しているから……っ!!」


 ねぇ、もう頼むからお前らもうちょっと落ち着いてくんない?

 ……ん?


「おい、今魔法っつったか?」







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







 魔法と科学に二分された世界。それがこの二人がいた世界らしい。

 片や魔法という特別な技術のため、可能な限り資源を切り崩さないように生き、片や魔法に近しい技術を手に入れ発展するために資源を切り崩しながら生きている二つの国。


 なんで衝突する前にどうにかしなかったのかと。

 そんなん絶対にいつかぶつかるに決まっているだろうがというのが俺の感想だったが、どうやら元々の対立が根深く、交流らしい交流もなかったようだ。


 で、そんな世界の魔法側の貴族だったのが男の方――ゲイリー。

 科学側の工作員だったのが女の方――アシュリーという事らしい。


「……にわかには信じられんが……確かに、ここは俺が治めていた領地ではないな」

「森がなかったのか?」

「いや、そういう訳ではなく……植生が全く違う」


 ゲイリーは、少し離れた森を見回してため息を吐く。


「俺が管理していた領地では――ある種類の広葉樹を主に植えていた。木材としては加工しにくいが丈夫だし、魔力要素を多く産み出すためだ。だが、この森は……なんというか、統一性がない」


 確かに、ここらの森は針葉樹も広葉樹もそれぞれある。

 サーチしてて思っていたが、木の種類がかなり豊富なのだ。ごちゃ混ぜという印象だ。


「木々が豊富なのはいいが、俺が植林を命じていた木々と違い魔力要素はゼロに等しい。おかげで魔法が使えない」


 ゲイリーという金髪の男は肩をすくめてそう言う。

 対して銀髪の女――アシュリーは鼻を軽く鳴らし、


「ふん、未だに解析しきれていない力を行使し続けるから! それが無くなった途端に無力ね!」

「貴様だって装備を失くして八方ふさがりなのだろうが……っ!」


 うんわかった。分かったから喧嘩……喧嘩? 争いを止めるんだ二人とも。


「なんにせよ、ここに三種類の別世界の人間がいる訳だ」


 手っ取り早く場をまとめるには、自分とアオイも含めた四人共通の話題を放り込んだ方がよさそうだ。

 そう判断すると、アシュリーは肩をすくめて息を吐く。


「ディストピア感あふれる国の奴隷管理官に敵の貴族に……君、トール君だっけ?」

「……うん、まぁ、もうそれでいいです」


 アオイがずっとトールさんトールさんと呼んでいるので、今更訂正するのもなんだか面倒くさくなった。

 少なくともここにいる間はもうトールで通そうと決意を固める。


「君はなんとなくアタシに近い物を感じるし……それに、少なくとも人を騙すタイプには見えない。まぁ、言ってる事は本当なんだと思うわ。実際、君とそこの彼女は衣服なんかに統一感とかまったく見られないしね」

「さすが、人を騙すプロは言う事が違うな」

「ブチ殺すわよ腐れ貴族」

「あ゛ぁ゛っ?」


 やめいっちゅーに!


「とにかく! どう足掻いても救援とか救助とかあり得ないの! 来ないの! つらいの!」

「おぉ……トールさんの泣きそうな顔がまた見られるとは」


 アオイはちょっとお口にチャックしようか!


「で! 皆で協力しようって話をしたいんだけど!! よろしいかね!? よろしいですね!!」


 だからとりあえずそれぞれ隙あらば殴り殺そうと互いにこっそろ握りしめている石をそこらに置いてくれませんかね。

 えぇい、二人ともあからさまに引くんじゃない!


「とりあえず、ここに来たというか――迷い込んだのは一昨日なんだな?」


 まずは状況を確認しようとそう尋ねると、ゲイリーの方が答える。


「あぁ。工作員の拠点が分かったという報告があったので、兵を引き連れて包囲。直々に乗り込んだと思ったら……この森の中だった」

「アタシは、囲まれるのが分かってたから一足先に脱出しようとして……隠し通路の扉を開いたらここだったわ」


 ……やっぱり俺やアオイと同じだ。

 共通しているのは『扉』を開けてくぐった瞬間だということ。それ以外には特につながりがある様には見えない。

 俺は家へ帰宅、アオイは部屋の退出、ゲイリーは突入時でアシュリーは逃走時と。


「で、森を歩いていたらこの女狐に襲われてな……」

「あぁ、足の傷は彼女に斬られたんですかぁ?」

「そりゃあ、訳のわからない森でターゲットの顔をみたら襲いかかるでしょう」


 なんで俺以外に平和な世界や国出身の奴はおらんの?


「それで、弓と剣で応戦してなんとか撒いて、逃げていたが川で追いつかれてな」

「……ひょっとして、足跡隠したりしてたのって」

「あぁ、俺だ。……しかし、よく分かったな。それなりに野戦は得意だったんだが……」

「あぁ、いや……ちょっとズルをしまして」

「?? まぁ、そういうわけだ。水辺で戦っている内に、ほぼ相討ちになって流されている所を、彼女に拾われた」

「なるほど……」


 流れは把握した。

 その上で気になるのは、二人が上手くやっていけるかどうかだが……


「ゲイリー、アシュリー。二人は敵対しているということだけど……とりあえず、矛を収めてくれないか?」

「…………」

「…………」


 これをしなきゃ始まらない。

 ここで片方が別行動を選ぶとかなら一応の解決になるかもしれないけど、それはそれで後々やっかいな事になりかねない。

 ――暗殺とか、奇襲とか。


 俺の提案というか実質懇願に、二人は互いの顔に唾でも吐きかねない形相で互いに顔を近づける。

 そして、これまた同時に俺の方を向き――


「「首だけなら構わない」」

「よし、君達ちょっと俺とトークしよう」


 このあと説得にめちゃくちゃ長い時間を要したため、結局この河原にもう一度簡単なシェルターを建てて一拍する事になった。

 ……泣ける。


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