MrR童話集

MrR

花の桃太郎

 むか~しむかし。


 あるところにおじいちゃんとおばあちゃんがおりました。


 おじいちゃんは戦場へ出稼ぎへ


 おばあちゃんは山へ洗濯にいきました。


 おばあちゃんが川で洗濯をしていると、どんぶらこどんぶらこと大きな桃が流れて参りました。


 その桃を戦場帰りのおじいちゃんと食べようとおもい、おばあちゃんは家へ運びます。


 そして返り血を洗い落としたおじいちゃんは家に帰り、それを見計らっておばあちゃんは桃を食べようと包丁を振り落としました。


 すると中から赤ん坊が現れました。


 おじいちゃんとおばあちゃんはその赤ん坊を桃太郎となづけて育てる事に決めました。


 桃太郎はすくすくと成長し、身長180cm以上のタフガイな体格で男前な顔立ちになり、単独で海賊の船に乗り込んで海賊を刀一つで皆殺し出来る程の豪傑に成長しました。


 女によくもてて、もう何処かの歌舞伎者みたいに成り果ててしまいました。


 おじいちゃんとおばあちゃんは肝っ玉でそんな桃太郎の成長を笑い飛ばして明るく見守りました。


 ある時、桃太郎の耳に鬼が人々に悪逆非道の限りを尽くしていると耳にし、おじいちゃんとおばあちゃんに鬼退治をすると言います。


 おじいちゃんとおばあちゃんは二つ返事で承諾。


 おばあちゃんは「男はたる者、立つべく時には立たねばなりません」と言って何処からともなく村人達が集まり、あれよあれよと言う間に酒宴の席を開きました。


 酒宴の席を聞きつけた桃太郎の元に次々と鬼に苦しめられた農民達や桃太郎とよく連んでいる犬、猿、キジが駆け付け酒宴は盛り上がりました。


 そしておじいちゃんは若かりし頃に身に付けていた羽織袴と刀を桃太郎に渡し、日本一と地文字で刻まれたハチマキとお守り代わりのきび団子を授かりました。


「このきび団子には命を救われてのう。大切な戦の時には肌身離さず持っていたのじゃ・・・・・・」


 とおじいちゃんは桃太郎に語りました。

 

 桃太郎は愛馬に跨がり、お供を引き連れ、ついでにおじいちゃんも引っ張って鬼退治に向かいます。

 

 しかし困った事に桃太郎とおじいちゃん以外の農民達の装備は貧相でボロ着にクワぐらいしか持っておりません。

 

 そんな時に商人が現れました。


 何でもタダで装備を譲ってくれると。


 桃太郎は問いました。


 なぜ譲るのかと。


「嘗て中国の三国志の時代において、黄巾の乱を鎮圧して世を正そうとした後の蜀の王、劉備玄德は義勇兵を募った際、ある商人と運命的な出会いを果たしました。その商人は劉備殿にタダで装備を譲ったのです」


 桃太郎は「何故?」と尋ねます。


「これは劉備に軍備を譲った商人も語ったことでありますが――武士に武道があるように商人には利道と言う物があります。掻い摘んで言えば貴方に良くしておけば後々に莫大な富となって返ってくると感じたのです。それがまず一点。そして今の時代――鬼をのさばらせておけば私もいずれは鬼の餌食となりましょう。頼りの幕府も平和に慣れてしまいアテにはなりませぬ――ならば貴方達のような未来ある若者達にお譲りした方が良いと言うのが私の考えでございます」


「ふふふ、良いのか?」


「構いませぬ。貴方はいずれ大成する御方。天も味方についております」


「おだてても何も出ぬぞ?」


「ははは、わかっておりますとも」


「そうかそうか、はははははは」


 何がおかしいのか二人は笑い合いました。

 

 そして一路、桃太郎は装備を整えて鬼ヶ島に殴り込みに行きました。


「で、海賊よ。どうしてお前達が俺達に手を貸す」


 桃太郎の前に海賊が現れ、突然何を思ったのか鬼ヶ島まで案内すると言うだけではなく、家来にしてほしいと頭を下げて来たのです。  


「桃太郎殿の逸話は聞き及んでおります。あの頃から桃太郎さんはいずれ大成する御方だと思っております――もしも桃太郎様が天下人になれば我々も成敗されちまいます。それにどの道我々も鬼のせいで廃業している身でしてこのまま腐って野垂れ死ぬよりかは男として一旗揚げたいと思った所存」


「ははは、正直だな。気に入った」


 桃太郎は笑い飛ばして海賊達を家来に率いれました。


 そして海賊船に仲間達を引き込み、鬼ヶ島に殴り込みに行きました。

  

 鬼ヶ島は仰天しました。


 腰抜けの幕府が差し向けた相手ではなく、船が一隻やってくるのですから。


 ですが鬼は人よりも大きな巨体を活かして迎え撃とうと待ち構えます。


 先陣を切ったのは桃太郎。


 上陸するや否や、猿、キジ、犬の三匹を引き連れ、馬に跨がり、大きな槍を持って雄叫びを挙げて鬼に襲い掛かりました。


「人間と動物どもが突っ込んで来るぞ!」


「見せしめだ! 先にあいつらから仕留めろ!」


 鬼達は桃太郎を殺すために弓矢や怪力を活かして大きな石を投げつけます。

 しかし桃太郎は大きな槍で矢を払いのけ、飛んで来る岩石も槍で粉砕し、一気に鬼達の軍勢の先頭までやってまいりました。


「人間如きに何が出来る!」


 鬼達は四方八方から先陣を切る桃太郎に金棒を振り下ろしに行きますが桃太郎は槍で金棒諸共鬼の首を跳ね飛ばします。

 

 そこからは鬼の血の雨が降り注ぎ、馬に跨がった桃太郎と犬、猿、キジはひたすら前に、前に進み、通った後には鬼の屍が埋め尽くされていました。

 

 それに勇気づけられたおじいちゃんや農民、海賊達は怖じ気付いた鬼達に襲い掛かります。


 その様子を見ていた鬼の大将は不敵に笑います。


「あやつらでは勝てん。あの若武者、戦でカブいておるわ。あのような若武者がまだこの世におったとは」


 と、鬼の大将は桃太郎を褒め称えます。


 そうして桃太郎は鬼ヶ島の内部に辿り着き、縦横無尽に鬼の首を跳ね飛ばしていきます。


 そして鬼の大将と向かい合います。

 鬼の大将は大きな玉座に座り、金棒を突き立てて桃太郎を出迎えました。

 このただならぬ雰囲気に桃太郎は槍を構えて見詰めます。


「お主、名は何と言う」


「我こそは日本一、桃太郎」


「ほう、日本一か。しかし残念だったのう。ワシがおるお限り、お主は日本一になれぬ」 


「ならばお主を討ち取って日本一になってみせようぞ」


「若いのう桃太郎。ならば我を討ち果たして見事日本一になってみせい」


「望むところよ」


 そして桃太郎と鬼の大将の激戦が始まりました。

 鬼の大将の、他の鬼とは一回りも違う体格から繰り出される金棒の一撃。

 タフガイの桃太郎でも槍を通して腕の痺れを感じますがその程度で済んでるのがおかしいのです。

 

 槍と金棒が激突する度に轟音が木霊し、互いの鬼気迫る気迫の激戦に誰もが両陣営共に固唾を呑んで見守りました。


 そして100回目の激突。


 ついに桃太郎の槍が折れました。

 

 頑丈さでは鬼の金棒に軍配が上がったのです。


 この勝機。

 鬼の大将は見逃す筈はありません。


「はぁ!!」


「なぁ!?」


 おじいちゃんから譲り受けた腰に差した日本刀で相手の胸を一閃。

 胴体から鮮血が舞いました。


「私も老いたものよ――勝機を見誤るとは。我の首を撥ねよ桃太郎。そうすれば鬼は烏合の衆と成り果てる。そして今迄我々が奪い去った金銀財宝は――元の場所へ返しておいてくれ」


「だが断る」


「なに!?」


 鬼の大将の申し出を桃太郎は断りました。

 鬼側も桃太郎陣営側も驚愕します。


「此度の戦乱、お主達は確かに悪行を働いた。しかしお前達の跳梁跋扈には幕府にも責任はあろう。それにお前の首を取ったら鬼の面倒を見なければならぬ。女の面倒を見るのは好きだが化け物の面倒を見るのはイヤだ」


「ははははは、本音が出ておるが確かに筋は通っておる。負けじゃ負けじゃ! 好きなようにせい! それでその後はどうする?」


「決まっておる。日本一になりにいくのよ。お前も来るか?」


「何処までも面白い奴よのう。だがそれでは日本一の肩書きを持つ者が二人出来てしまうぞ」


「その時はお互い日本一になった時、その座を賭けて戦えばよい」


「何処までも面白い奴じゃ。気に入った。お前の生き様、この儂に焼き付けてみせい」


 そして二人は腹の底から笑い合い、酒宴が始まりました。


 こうして桃太郎は鬼をこらしめるだけでなく改心させ、金銀財宝は全て元の場所に返し、そして日本一になるため、手始めに幕府にケジメをつけさせる旅を始めるのでありました。


 めでたし、めでたし。

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