赤いイヤフォン
ami.
第1話
ーー あっ今日も早く来てる。
朝のうららかな日差しを浴びて気持ち良さそうに机に寝そべる背中を今日も教室に入るなり1番に視界の隅でチェックしながら
気づけば彼の背中をチェックしていて季節もあっという間に夏が終わりにさしかかっていた。
春には入学したてでドキドキそわそわと新しい高校生活や友だちに落ち着かなかったクラスメートも夏頃にはグループ編成を済まし、夏休みが終わった今となっては皆落ち着き思い思いに楽しんでいる。
かと言う絢も姉御肌な
そんなウチのクラスで未だにクラスメートと群れずに言わば”一匹狼”というか特に我関せずなのが絢がチェックしていた背中の君 こと
彼の事を話す時に皆共通してあげられるのが"赤いイヤフォンがトレードマークの音楽中毒者”
窓際の一番前に陣取って座る彼の耳には授業以外はほとんど問いって良い程大きめの赤いイヤフォンがついている。性能が良さそうなそのイヤフォンは音漏れをせず、今密かにどんな音楽を聴いているのかクラスでのかすかに話題になっているのを絢はこのあいだ聞いた。
すっごいカッコいい訳ではないが栗毛の柔らかそうな髪と少し眠たそうなたれ目に赤いイヤフォンに隠れている耳には黒のピアスと適度に着崩した制服。
どこか周りを遮断したような彼はその独特の雰囲気があり何かと話題にのぼり人を引きつける何かがあるようだった。
絢自身もその引きつけられた一人であるのだが、沙紀にいわれるまで恭介の事をそんなに見ている事自体にも気づかずに”一人でよくいるなー"っと少し気になっていたくらいだけでしかなかった。
沙紀に「絢って橋津の事良く見てるよねー好きなの?」っと少しからかいながら言われた時もいきなりで焦ったのと、突っ走りやすい彼女の性格を懸念して一刀両断に否定した物も絢も自分自身の気持ちを計り兼ねていた。
まともな初恋もまだな絢には今ひとつ”好き”と言う気持ちが分からない。
漫画やドラマみたいにその人を目で追い(これはしてしまっているようだが…)その人の事を考えてキャーっと叫びたくなったり意味も無くドキドキしたり一喜一憂したりする事をいうのだろうか?だとしたら目で追う事以外は当てはまらない気がする。
そんなにドキドキしてないし一喜一憂もしていない。
ただ入学して間もない頃みたある一場面が、まるで壊れた映画フィルムみたいに知らないうちに頭の中で繰り返し再生されてしまう事があるだけだ。
4月のある日。
体育館に忘れた体育館履きを部活が始まる前に取りに戻った帰り道のことだった。
中庭から渡り廊下まで踊るように舞う見事な桜吹雪に目を奪われ思わず立ち止まった絢の目に、中庭のベンチに同じように桜吹雪を見つめる男子の背中が目に入った。こんなにキレイだもんねっと少し親近感が湧きながら渡り廊下を渡り切る直前にチラっと横顔。
鮮やかな赤いイヤフォンを耳につけて、その目はさくらに奪われながらも何か口ずさんでいる彼の横顔が笑っている訳じゃないのに何処か嬉しそうな気がして桜吹雪よりも目に焼き付いたのだ。
その後クラスに戻って来た彼を見て同じクラスの男子だった事に気づくも彼の我関せずな姿に他のクラスメートと同じく話しかけられず気づけば、脳内上映を繰り返すうちに背中チェックに至った訳である。
この事は実は沙紀にも話しておらず、元はといえば彼女の性格的に”それは恋ね!!!”と勝手に突っ走りかねないので心配から話せていないのだが。
こんなにもたった一瞬の写真のようなコマ送りのような瞬間が何ヶ月も鮮明に思い出される経験は今まで無く絢は正直持て余していた。
そんな風に映像を再生させながらも沙紀と一緒に放送室へ絢は向かった。元から部活動に入らずに帰宅部でいいと思っていた彼女だが、沙紀が音楽好きそして絢は声が良いからっと強い勧めを受けて一緒に放送部に入ったのだ。
彼女たちが放送室につくと、放課後の放送担当の1学年上の先輩である小林が先について2人を待っていた。「や〜絢ちゃん達待ってたよ!」と歓迎を受けながらも、沙紀は「小林先輩が待っていたのは絢だけでしょう」っとからかい混じりに絢にも投げかけてくる。
沙紀の事がにぎょっとし「な、何言ってるの沙紀!」と少しとがめるように言いながらチラっと小林を伺うと、そんな彼女を目をキラキラ輝かせなが見ていたのだ。
「も〜絢ちゃん、今日もすっごく良い声だね!本当に僕好みだよ!さあ、もっと話して!さあ!」っと興奮しだした彼に思わず後ずさってしまう絢たちを攻める人はいないだろう。
何を隠そうこの小林という人物は重度の声フェチで、絢の声について「耳障りの良い声で、澄んでいてソフトなのに耳にすーっと入ってくる感じ。絵本の読み聞かせみたい!」っと部室に見学に来て挨拶をした絢の声を聞くなり、こう捲し立てたのだ。
この時も余りに彼の熱気が強く思わず引いた絢だが、彼の言葉を受けて「分かる!子どもの時にお母さんが絵本読んでくれたみたいな!無条件に安心する感じしますもんね。」と沙紀が同調し結果的に見学に言っただけのその日に放送部への入部を余儀なくされたのだ。
この高校の放送部では毎日お昼休みに連絡事項あれば放送し更には毎週金曜のお昼に生徒リクエストの音楽をかけること、そして放課後の放送が部の活動としてあるのだ。
絢たち入部したばかりの1年は先輩とペアを組み夏休み前までに、機材の基本的な使い方アンケート集計、選曲、放送内容の原稿作りを一通り習うのだ。そして夏休み前に2度テストで1人で昼と放課後の放送を行い、これを無事行なえたら2学期より放送のルーティンの中に晴れて組み込まれるようになる。
そして今日がその最初の放課後放送のテストで、彼女たちだけで4時の放送を行なわなければいけない。小林はあくまで2人がしっかり出来るかの最終チェックと、もしもの自体の対応の為にいるのだ。2人は今まで教わった通りに、沙紀が選んだ好きな曲一曲掛けて曲の後に絢が4時半になった事を伝え部活動がない一般の生徒の下校の時間を伝えた。
「ーー部活動のない生徒の皆さんは下校の時間です。最後の曲が終わるまでに下校するようお願いします。」っと言うと絢はマイクの電源を切り、沙紀が最後の曲を掛けた。緊張しながらも大きな間違いなく放送を最後まで終えた2人は、ほっと安堵の表情浮かべて互いに顔を見合わせた。そんな2人の背後からパチパチっと拍手が聞こえてきて、振り向くと小林も満足げな顔で2人を見る。
その表情が2人が無事に終えられて事を物語っていた。最後の曲の間に細々としてアドバイスを小林から貰い、曲後に部室の戸締まりを3人で確認し「今日はお疲れさま」という言葉を残して小林は部室の鍵を返しに職員室の方向に消えて行く。
「絢〜無事終えられたね!」と絢の手を取り喜ぶ彼女に「本当に良かったね。」と嬉しそうに答えを返した。鞄を取りに教室に脚を向けながらも、沙紀が無事に放送を終えられた興奮は抑えられないようで彼女のかるいあ足取りからも見て取れる。そんな彼女の様子を微笑ましそうに見る絢も先ほどより肩の力が抜けて表情も穏やかだった。
彼女たちがクラスに戻る廊下から、絢がちらっと見た中庭に誰かがベンチに寝そべっているいた。沙紀は興奮状態で気にしてないようだが、絢には何時もつい見てしまう彼の背中だと一目みて気づく。話を聞きながらも、目を縫い付けてしまったかのように彼から視線を外す事が出来なかった。
ーー彼が残っている何て珍しい。
そして無意識のうちに彼を見つけてしまう事に、やはり自分の気持ちが分からず絢は戸惑うのだった。
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