第25話 だからこそ
揺れる道路で車を走らせること約十五分。辿り着いたのは古びたマンションの一室だった。病院が駄目ならばここに行けってことは闇医者の類でしょう? そんなものが存在しているのかも怪しいところだけれど、賭けてみるしかない。
インターホンを押して、似つかわしくない監視カメラに担いでいる翔の姿を見せると、ガチャリと鍵が開くような音がした。
「イリアちゃん、ドア開けて」
開けてくれたドアから中に入ると、これまた外観に似つかわしくない真っ白で清潔感の漂う室内だった。
「まさかまさか――まさか、まさかだろう!? その死にかけているのは、まさか当麻翔なのか!? まさか、今起きていることと何か関係しているのか? だとしてもアレが出たのはここよりも相当離れているしな。いや、まさかということも――」
駆け寄ってきたくせにブツブツと呟く白衣姿で仙人のような髭を生やした老人に、私もこれまでのことが溜まりに溜まっているせいか我慢が利かなかった。
「まさかまさかうるさい! あなたはなんなの!? 医者なの!? だったら、さっさと翔を助けてよ!」
「おっ――おお、そうかそうか。まずは当麻翔を救わなければな。まだ息はあるのか?」
「ある……まだ、辛うじて」
「そうか。息があるのなら――心臓が動いているのなら任さろ。ワシに掛かれば虫の息程度、簡単に治せる。どれ、看護士! 患者を運べ!」
老人が自信満々に言い放ち指を鳴らすと、廊下の奥から担架を担いだマスクと帽子で顔を隠した二人の女の看護士が手慣れたように翔を連れて行った。
「はぁ……良かった。これで……なんとか」
まだ予断を許さない状況だということはわかっているけれど、緊張の意図が切れたのか腰が抜けてしまってその場にへたり込んでしまった。
「ふむ、まさか君は当麻翔の姉か? そこな娘は……まさか、な。まぁ、聞きたいことは山ほどあるが、まずは当麻翔の一命を取り留めよう。なぁに、任せておけ。まさか、このワシが失敗することなどあるまいて」
そう言って廊下を進んでいく老人の背中を見て、何故だか涙が込み上げてくるのを感じた。けれど、まだ泣くわけにはいかない。何も――何一つとして解決していないし、安心できる状況でもない。
血塗れになった掌を見ると途端に震え出したが、無理矢理にでも拳を作り上げた。すると、目の前に影ができた。
「だい、じょーぶ。大丈夫」
見上げたそこには私の頭を撫でる様に手を置いたイリアちゃんが立っていて、まるでその言葉は私に投げ掛けているようだったけれど、瞳に映されているのは自らの不安のようで――私は拳を握ったままイリアちゃんを抱き締めた。
その純白のような心を汚さないように、何者にも汚されないように――慎重に、大切に、私の持っているすべての優しさで包み込むように抱き寄せた。
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