第8章 獣王国ベスティリア
103話 海底の旅
俺たちは、海神女王サラキアから頂いたアーティファクトの1つ【魔導潜水船】で、ガイア大陸の東部にある獣王国ベスティリアへ向かっている。
そんなことより……俺たちは、不思議な体験をしている。
────フィィ──ン。
起動する音が、ユアの【共有念話】で脳内に届いた。
魔導潜水船の中は、シュールな空間であった。
どこの素材から作られたのか分からないゴムのように柔らかい壁、半ドーナツのような形をしたホールのような空間で、白いタイルが敷かれた床、前面には大きなガラスが張られていた。
風呂もあり、キッチンもあり、至れり尽くせりである。
潜水船なのに、宇宙船だといっていいだろうか。
神々によって造られた神代遺物であるアーティファクトは、アステルの世界とは、全く違う代物だと分かる。
今、魔導潜水船の中にいるのは、俺とユアとリフェル、クー。3人1匹。
そして、馬2頭がヒヒンと鳴っていた。
「魔導潜水船は海の中なら、どこでも行けるって、サラキアさんが言ってたよ」
──シーン。
みんなに向けて【クリアボイス】で伝えたが、ユアとリフェル、クーから返事がない。
いや、固まっていてどう返事したらいいのか、分からなくなっていた。
数分が経ち、やっと、みんなの脳が起動し始まる。
とたん、ユアが、興奮気味に声を荒げた。
「イ、イツキさん……何ですかっ! これはっ?」
「イツキ! 何よ! これは――――!」
リフェルまでも、目の当たりの光景に受け入れがたいあまりに、声を高く上げた。
『ご主人様っ! おいしそうな魚がいっぱいいる!』
窓越しに、海の中に泳いでいる魚を見つめては、はしゃぐクー。
あ、そうか。アステルの世界は、潜水艦とか海の中に潜る船はないんだったな。
それにしても……自分の身体から、なんか力抜けたような気がする。
俺の魔力を注力することで、魔導潜水船は推進できる。シュウシュウと、魔力が減っていくのが分かるぐらいだ。
これが、魔力の消費、ということか。
なるほど、サラキアさんの言う通り、膨大な魔力を持つものしか遠くへ推進できないというのが分かった。
普通の魔導士だと、半日足らずで、魔力が枯渇してしまうレベルの消費量だ。
まぁ、無事に着くといいのだが……。
前かがみの姿勢になったユアが、窓越しを見つめて言った。
「海の中はすごく綺麗ですね。見上げると、太陽がゆらゆらとしてますね」
リフェルも、ワクワクするような笑みを浮かんでは、うなずいた。
「めちゃ感動したよ! ほら! 向こうに水獣が泳いでるよ! ──あ、水獣が魚をパクッと食べてるんだけど、この船は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫みたい。魔導潜水船は元々、神々の戦争によく使われていた船だから、潜伏モードがあるみたい」
魔物や水獣、または敵に気付かれないようにするステルスモードがある。それゆえに、水獣や魔物が近づいても、気付くことはない。
これなら襲われることなく、のんびり進めるなぁと驚いた。
ユアとリフェルは、納得したかような顔つきでつぶやいた。
「イツキさん、これ、誰もが欲しがるものですよね……」
「うん、フレイ帝国が戦争仕掛けた理由も分かったよ。あれ、あたしたちだけの秘密にした方がよさそう」
サラキアさんからのプレゼントは、すごいプレゼントだったと実感するイツキ一行であった。
リフェルが目を輝かせて、俺たちに振り向いた。
「ねぇ! イツキっ! 初めてのガイア大陸だよね!」
ユアも微笑んでうなずく。
「ええ、私も小人王国シャルロットしか行ってないのですが、獣王国なんて初めてなので、ドキドキです」
『ボクも!』
クーも尻尾ふりふりして俺に、じゃれつく。
そうして、俺たちはゆっくりと海底旅行を満喫しながら、ガイア大陸へ向かうのであった。
◆ ◆ ◆
3週間ほど経った。
海の中なので、大陸は見えないが、断崖のようなものが見えてきた。
そろそろ、ガイア大陸に着きそうだ。
「じゃあ、浮上するね。この魔導潜水船は海面から上がると、定期船みたいな船になるみたいだよ」
そう言って、魔力を注いだとたん、浮上し始める。
魔導潜水船の横にある噴射口から、泡がポコポコと噴いて、ゆっくりと上がっていく。
ユアとリフェル、クーは、興奮しているのかソワソワしてて落ち着かない。
「なんかドキドキします」
「おおっ! 上がってるの、分かるね!」
『ご主人様っ! 頑張って!』
確かに浮上するたびに、心臓が高鳴っているのが分かる。
うん、ドキドキしてきた。
やっと、潜水船が海上に上がり、天井が開くとたん、青い空が見えてきた。
太陽がサンサンと照らしてきたのか、眩しい。
断崖だった方向へ振り向くと、広大な大陸が現れた。
やっと、ガイア大陸が見えてきた。
荒野のような茶色かがった大陸に、大きな湖が見える。更に向こうには、天につつくような壮大な山脈がそびえていた。山脈の峰あたりには、真っ白なものがかぶっている。
イシュタリア大陸は緑いっぱいの森、清々しい大草原、湿原を多く見かけたのに、ガイア大陸は、まるで、あらゆる形の大自然を混合したかような光景であった。
「すごいね。起伏が激しいところもありそう」
ユアはうなずいて、光景を眺めながら言った。
「ええ、ガイア大陸には、海のように広がる森、てっぺんが見えない塔、天までそびえる山脈があると聞いたのですが、まさに、その通りですね」
「ユア。遠いのに、これだけうっすら見えるってのは、結構大きいじゃないっ?」
『……雪山』
クーは、故郷を思い出しているのか、山脈の峰あたりをじっと眺めていたのだった。
ついに、ガイア大陸の沖にたどり着いた。
大きな魔導潜水船を【時空魔法:次元収納】へしまい込む。続いて、自らステータスプレートを表示させて確認すると、魔力が半分ほど減っていた。
……半分ぐらいだったのか。サラキアさんの言う通り、俺は膨大な魔力を持っているわ。
そして、馬車も取り出し、2頭の馬に手綱を装備してあげた。
――ヒヒンっ♪
うんうん、馬も喜んでいるね。
「イツキさん、魔導潜水船でも仕舞い込めるのですね……」
ユアが、目を丸くして言った。
リフェルまでも、うんうんとボディアタックするようにぶつけてきた。
「旅人にとっては、めちゃ欲しいスキルだよ!」
ははっ、確かに。
レベルが上がったからなのか、収納空間がさらに広まっているんだよね。
獣王国へ馬車で走ること、一刻が経った。
荒野のようで砂漠に近い、砂丘のような場所であった。
瞬く間に感知系スキルが察知したので、砂丘を見渡すとたん、向こうに魔物らしき気配がする。
クーは前足で、向こうの砂丘を指しながら【念話】で俺に飛ばした。
『ご主人様! 向こうに誰かいるよ!』
目を凝らして遠くへじっと眺めると、赤いコートを着ている人らしきものが、ミミズと思わせるような大型の魔物と戦っていた。
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