88話 洞窟
潜り込んだ洞窟は、自然でできた洞窟だった。
じめじめとしていて、ぬかるみがある。気を付けないと、滑って怪我しそうだ。
天井から一滴の水があちこち、ポタポタと落ちている。俺の頭や肩にも一滴の水が当たってて冷たい。
さらに奥の方へ進むと、洞窟の入り口から入ってくる光が届かなくなり、この先は真っ暗になっていた。
『真っ暗だね。ここは俺が明るく照らすか』
そう口にして、【神聖魔法:ライト】を使ってあたり一面を明るくした。
地面がどろどろとして、歩きづらそうだった。壁を触り見ると、ひんやりと湿った岩肌が輝かせている。滑らないように手を壁にしっかり押さえて身体を保った。
『クー、気配感知したけど、もっと奥に人らしき存在を感じるよね』
『うん! この洞窟は迷路になっているみたい』
細い洞窟は自然でできた地下水脈があり、そこから潜ったり、上がったりしないと進むことが出来ないようだ。
俺は壊れてしまった補聴器、漆黒のコート、旅人の服を脱いで、【時空魔法:次元収納】へ仕舞い込んでいる。濡らしたくないからね。
今は、短パンに、薄布のシャツのみになっていた。
通るたびに、結界が張られていることに気づく。
ここの洞窟は侵入者を迷わせたり、進入できないよう結界が張られているようだ。
だが、俺たちは通用しない。
【気配感知】とクーの【嗅覚感知】のおかげで、迷わずに済みそうだ。
クーの探索能力がすごく高く、SSランクに匹敵する嗅覚を持っているので、遮断系の結界やスキルを無効化することが出来るからね。
この先、進むと壁が立ちはだかる。行き止まりかと思ったとたん、下の方に向くと、深い水たまりが張られていた。
この水たまりは、水路となっていて潜らないと、この先進めないようだ。
『じゃあ、潜るよ?』
『うう……潜らないと進まないんだよね?』
『そだね。ここの洞窟は自然で出来た洞窟みたいだから、罠とかそういうのは無いのが幸いだよ。あるとしたら結界だけだし』
クーは目先の水たまりへ恐る恐ると、前足を出した。可愛い鳴き声を出しているようで、がまんがまんと堪えていた。
補聴器が壊れているからか、クーの鳴き声を聞きたくても聞けないのが悔やむなぁ。
俺もクーと共に、息を止めて潜っていった──
──水の中から上がると、クーの体が水に濡れてしまっているのか、モフモフとした体毛がベタっとしていて痩せてるように見える。
クーは身体中を、勢いまかせてブルブルと水を飛ばした。
『うう――! 水が重たいっ!』
そう文句付けるクー。そんなところが、ほっこりするんです。
クーの【嗅覚感知】と俺の【気配感知】を頼りに、潜ったり歩いたりした。
水に濡れたのか、身体がひんやりとしてきた。風邪ひかないように、火属性魔法で身体を温めながら進んでいく。
洞窟の中にいるからなのか、どのぐらい経ったのか分からない。数時間はかかっているだろう。
『ご主人様!もうすぐだよ!』
クーの【念話】に俺はうなずいて、歩いて向かっていく。
だんだんと、人工的な洞窟になってきているのが分かる。
やがて、洞窟の最深部にたどり着いた。しっかりとした岩床になっていた。
目の前に、青く無機質で、何も描かれていない頑丈な扉が建っていた。
『ここみたいだね。気配感知してみたけど、扉の向こうは結構、人が多いな』
『うん! そうみたい』
今の俺は濡れた薄布のシャツに短パンだ。
この格好じゃ、不審者と思われるだろう。
【時空魔法:次元収納】から衣服を取り出し、着替えていく。
漆黒のコートに、旅人の服である。
クーには【生活魔法:ドライ・ブロー】を唱え、温かい風で濡れた体毛を乾かした。つやつやの体毛になっていてサラサラに!
クーは気持ちよさそうに、微笑んでいて飛び跳ねていた。
『ご主人様っ! ありがとっ!』
『ふふっ、じゃ、入ろっか』
色んな人と会っても、問題ないように身だしなみを整え、重たい頑丈な扉を開けた。
◆ ◆ ◆
扉を開けた矢先は―――
耳に魚のヒレのような形をしていて、サメ肌で蛇の目をした瞳、
水瓶をしっかり運ぶ水色の肌をしていた女性たちや、
極薄の衣装をまとっていて妖艶に感じられ、澄んだ海の色のような青い肌の女性たちがいる。
ガラス張りのドームのような建物がいくつか並んでいて、美しい街並みであった。
天を見上げると、海の底から見ているのか、2つの月がゆらゆらとしていて、黄金のようにきらめている。
叡智様に、ここはどこなのか、聞いてみると、
〈海神族が住まう国。海神国サラキアと呼ばれる国です〉
えっ。それって……フレイヤさんがフレイ帝国と戦争真っ最中って言っていた国じゃないですか。
フレイ帝国と戦争真っ最中なのに、落ち着いた雰囲気だった。
クーが俺を見つめて、モフモフしたたてがみで、俺の足にすりすりとしてきた。
『ご主人様、まずは宿屋に行こう!』
クー、頼もしくなったなぁ。
俺はそう思って、クーを撫でた。
宿屋に向かうと、店番はやはり海神族の女性だった。
「いらっ△ゃいま◇。あら、珍■い。○……がここ△○……んて」
店番の言ってることがわからなく困惑してしまった。【言語理解】があるのに、聞こえないんじゃ意味がない……。必死に読唇術をしたが、いくつかの単語しか読み取れなかった。
だが、クーが耳代わりとして俺に伝えてくれる。
『お姉ちゃんは、人間族が来るなんて珍しいと、言ってるよ』
クー、助かる!
俺は【クリアボイス】を使って、宿屋の受付さんに泊まりたいと伝える。
そう伝えると、海神族の受付さんは上の方に貼られているメニュー板を指差した。
宿屋のメニュー板を見ると、1泊は金貨1枚と書かれていた。
俺はうなずいて、ポケットを入れたふりをして【時空魔法:次元収納】から金貨1枚を取り出す。
「はい、金貨1枚です」
そう伝えると、海神族の女性は、うふふと妖艶な笑みを浮かべながら、身体に寄せてきた。
豊満な胸の感触に、俺は固まってしまう。
『ゆっくりしてねと言ってるよ』
と伝えてくれるクー。
あ、うん。びっくりしたよ……。
『ご主人様、どうしたの?』
『いや、なんでもない』
ドキッとしたことは伏せておこう。さっきのは、海神族の挨拶作法なのだろうか。
部屋に入ると、シンプルな部屋だった。
床には石のタイルに、ドームのような形をした天井。幅の広いベッドが2台、テーブル、椅子2脚のみの部屋だ。
クーに【念話】で伝えた。
『明日、船があるところへ向かってみようか?』
『そうだね! ご主人様! また一緒だね!』
クーは尻尾フリフリと甘えて、俺に飛びかかる。
そして、ベッドの上にいる俺とクーは一緒に寝込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます