68話 最深部へ

 地下15階層へ踏破した今、奥の方に地上へ転移する魔法陣が設けられていた。

 離脱する冒険者や兵士たちは、せめての応援にと、手持ちの回復薬を俺たちに分けてくれ転移していった。


 ヴォルグから聞くと、地上へ転移する魔法陣は3つあるらしい。

 1つ目は地下5階層、2つ目は地下15階層、3つ目は地下25階層がある。

 ただし、3つ目の転移魔法陣に踏み入れるには、ヒュドラを討伐しないといけない。だが、そんな実力のある冒険者は英雄だけだ。

 地下15階層にある魔法陣で、転移するのが一般的だろう。


 最深部へ向かう冒険者は────

 ギルドマスターのヴォルグを筆頭とし、Sランク冒険者ゼン、フェルミル、兵士長ザガンと兵士2人、

 そしてAランク冒険者カイと【赤い太陽】パーティの中から盗賊職2人だ。

 そこに【静寂の青狼】パーティも加わる。

 全員で12人と1匹が、最深部である地下25階層へ行くことになった。


「みんな、揃ったか。さぁ、最深部へ行こう」


 ヴォルグがそう告げると、俺たちは引き締まった顔で縦に振った。



 俺たちは、ユアの【共有念話】で密かに、話し合いをしている。


『先程見た、開かずの間にある大きな門ですが、あの古代文字はどういう意味でしょうね。

 カイさんから聞いた話ですが、何千年も開けたことがないそうです』


『そうだよね。バジリスクの戦いのついでに、あたしの技で大きな門ごとぶった斬りしようとしたけど、全然ビクともしなかったよ』


 そうだな。あの門の向こうは、未踏エリアだろう。


『それがね、読めてしまったんだ』


 俺は古代文字が読めること、巨大な門に何か書かれているのかを、ユアとリフェルに説明した。


『な、なるほど……。イツキさん、誰にも分からなかったことをあっさりと解くなんて……』


『さすが! イツキっ!』


 リフェルが俺にウインクして、グッとサムズアップした。

 ユアが神妙な顔つきで言った。


『もしかして、トーステ大迷宮は大精霊獣レヴィアタンの住処なのでしょうか?』


『トーステ王国は、海沿いの王国だからね。それはそうかも』


『俺の推測だけど、開かずの間って祭壇とかあったよね? 恐らく、儀式とかそういったものがあったんだと思う。

 何らかの巨大な力を封印していたかのような感じがしたよ』


『確かに、そんな感じだったね――』


『ボクも、すごい魔力を感じたよ!』


 リフェルとクーも感じたようだ。

 ユアも、納得したかようにうなずいた。


『なるほど。その可能性も否定できませんね。あれほど広い空間でしたので、大精霊獣レヴィアタンだとしたら、結構大きいかも知れませんね』


『確かに、それはありえるな』


 あの開かずの間は、大きな祭壇があった。

 昔は儀式とかそういったものをレヴィアタンに、何を捧げたんだろうな。もしかして、生贄とか……。

 うん。考えるの後にしよう。



 どこの階層でも、同じ光景。

 複雑な迷路に、あちこちにある凶悪な罠、徒歩による疲労感。

 さすが、大迷宮だと今更ながら思った。盗賊職の冒険者がいて本当に助かった。


 本来の目的だったエレキスライムも既に、素材採取してある。

 ビリっと放電したら、ただのスライムになりランクダウンになってしまう。放電せず上手く採取出来たらCランクとして価値があがるのだ。

【時空魔法:時間停止ストップ】で止めてから採取しているので、10年分ほどの結構な量になった。


 この採取方法を教えてもらったのは、叡智様である。さすが叡智様だ。


 ◆ ◆ ◆ 


 ついに、最深部である地下25階層に到着した。

 目の前に、黒みのかかった紫色の空気が濁りかもし出す黒い扉が、行く手を阻むかように建っていた。


 ヴォルグがふうっと、軽くため息をし、周りに振り返った。


「やっとここまで来たが、結局、原因つかめずだな。恐らく、自然発生だと思われる」


「そうですね。しかし、最深部まで行けるなんて、僕、初めてですよ!」


 カイは地下25階層まで行ったことがなく、達成の喜びを味わっていた。


「まぁ、ここまで行けたパーティは何人かいる。ただ、最奥にいるヒュドラを討伐できたのは、1つのパーティのみだ」


「ああ、ユウカ:カンザキと剣聖フリードといった英雄たちのパーティですね」


「そうだ。バジリスクの発生原因が自然発生ということにして、魔法陣がある地下15階層へ戻ろう」


 ヴォルグがそう帰還命令を下し、戻ろうとしたところ、

 俺はその場で【クリアボイス】スキルで引き止めた。


「あの──すみませんが、俺たち静寂の青狼はこのまま、ヒュドラのところまで行って討伐したいのですが、宜しいですか?」


 俺がそう言うと、周りが一斉に驚く。ヴォルグが真っ向に反対してきた。


「イツキ殿、それは認めん! まだAランクだろう?」


「冗談か?」


 呆れ顔に浮かべたゼンまでも、諦めろというような視線を送った。


「剣聖様なら分かるが、君は剣聖様より劣るんじゃないか? 死毒蛇王エキドリスクの時は、何もできなかったではないか!?」


 俺にジッと見つめて言い放ったザガンに、ヴォルグとゼンがうなずいた。


「イツキ殿、申し訳ないが、俺もそう思う。剣聖様は、別次元の強さだった。イツキ殿はAランクだが、登録時のパラメーターを見る限り、剣聖様には及ばない。引き戻る方が身のためだと思うが」


「俺はSランクですが、ヒュドラを倒せるか分かんないんですよ。なにせ、危険度がSランクなんですよ? イツキさん、諦めた方がいいですよ」


 3人から強く心配されたが、それは仕方ないだろう。【隠蔽】で、自分の力を隠していたのだから。


『なによっ! あたしよりイツキの方が、遥かに上なのに……やっぱり、前衛にいたほうがいいよ!』


 とリフェルはプンプンと怒りながら、俺に【念話】を飛ばした。


『正直、言った方が良いかもね』


『ええ、ここまで来たのに、戻るのはモヤモヤしますからね』


【共有念話】で打ち合わせした俺たちは、お互いに見つめ合い、軽くうなずいた。

 続いて、ヴォルグたちに告げた。


「俺たち、静寂の青狼は最初からヒュドラ攻略するつもりでしたので、何とかお願いします」


「大丈夫だ。私、リフェルは腕試しで、ヒュドラに挑みたくてたまらないのだ」


「私も、ヒュドラを攻略する気でいます」


 クーも真剣な眼差しでヴォルグたちを見つめた。


 ヴォルグは全く引こうとしない俺たちに戸惑い、「どうする?」とザガンに問いた。

 ザガンは「ううむ……」と頭を抱えた。


 その時。


「僕たち3人、赤い太陽パーティは静寂の青狼と共に、ヒュドラ討伐するつもりです!」


 カイと盗賊職2人が宣言し、次ぎに。


「わたしも、ヒュドラ攻略に参加します」


 フェルミルまでも参加表明してくれた。意外な展開に、ゼンが目を丸くし声を荒げる。


「おい、フェルミルもか! 危険だぞ!」


「ゼン、仕方ない。俺も協力するぞ!」


「やれやれ、冒険者ってのは、勇敢な者の集まりなのかね」


 ヴォルグとザガンも折れたのか、協力しようと賛同することになった。そんな2人に、ゼンは戸惑った。


「なっ、ギルマス! 兵士長までも! ……分かったよ! やろうじゃないかっ」


 ゼンはそうぼやき、諦めることになった。

 ヴォルグは、そんなゼンの肩を乗せてなだめる。そして、俺に尋ねた。


「イツキ殿、ヒュドラ討伐にあたって、対策を練っているのかね?」


 あ、そうだった。まぁ、事前に作戦は折り込み済みなので大丈夫だろう。


「はい。まずはリフェルとユアさんがヒュドラを威嚇して、俺の魔法でトドメをさすつもりです。ですが、今回は皆さんがいるので、協力してくれるとありがたいですし、上手く行く自信があります」


「ふむ、シンプルだな。ヒュドラは9つの頭がある。

 再生が早く、不死耐性を持っている。ただ、返り血には気をつけろ。ヒュドラの血はたった一滴だけでもかかれば、死に至らせる猛毒を持つSランク魔物だ」


 なるほど。ヒュドラは9つの首を持つ魔物で、不死耐性か……それは厄介かも知れない。それでも突破したパーティがいるのだから、何らかの攻略方法はあるはず。


「ヒュドラの9つの首を同時に、斬ればいいのだな?」


 リフェルがそう言い、ヴォルグはその通りだと首を縦に振った。たが、簡単ではないらしい。


「先程、戦った死毒蛇王エキドリスクよりヒュドラの方が強い。油断しない方がいいぞ」


 しばらくの間、フォーメーションを決め相談しあった。



 みんなが準備整ったことを見つめたヴォルグが、一声をあげた。


「よし。さぁ、いくぞ!」


 禍々しい扉の向こうには、ヒュドラがいる。

 俺たちは気を引き締めながら、扉を開け放った。

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