第3章 ドワーフ王国ガドレア

51話 ドワーフ王国


『見えて来ましたね。向こうがドワーフ王国ガドレアです』


 森を抜けると、この辺り一面は荒野になっていた。荒野の向こうに、雄大な山脈が連なり、湯気が出ている火山も見える。

 山脈の山腹に、高く長い城壁がそびえていた。

 城壁の向こうには大きな城、その周辺には巨大な岩の穴に部屋を埋め込んだような建物、鉄で作り上げた建物が建ち並ぶ。

 まるで、巨岩で出来た国のようだ。


 ガドレアまでは本当に、2ヶ月かかった。

 旅の途中に、3ヶ所の村へ宿泊したり、野営したり、襲いかかってくる魔物を討伐したりしながら、素材集めたりしていたので、結構な量になっている。

 まぁ、素材は全て、【次元収納】へ入れておいたので、気が楽だけどね。



「ようこそ、ドワーフ王国ガドレアへ」


 2人の門番の兵士が立っていた。短髪に茶色い肌で身長が2メートル超えているドワーフ族だ。

 ドワーフ族は身長が小さいというイメージだったのに、ガラガラ崩れていく……。


「何か、証明するものを見せてください」


 イツキ一行は冒険者カードを取り出して、見せた。


「ほう! 君たちはAランク冒険者か! 久しぶりにAランク冒険者が来てくれたぞ」


「おお、Aランクか。どこから来たのかね?」


 気さくな感じの門番の兵士からの問いに、ユアが答えた。


「はい。私たちはアローン王国からやってきました」


「アローン王国!? 戦争があったと聞いたのだが、無事だったのか?」


 ドワーフ王国には既に、アローン王国の状況について、行き渡っているみたいだ。


「はい。戦争が起きることなく無事に解決しています。今は平和そのものです。

 一つ聞きたいことがあるのですが────」


 ユアは俺に目配せをする。俺はこっそり【次元収納】からガルドの紹介状を出して言った。


「ガルドさんから紹介状を頂いたのですが、神職人とお会いすることはできますか?」


「はぁ、ガルド様か……って、ガルド様の紹介状だと!」


 何故か驚愕する門番の兵士に、俺たちは首を傾げた。



 2人の門番の兵士はイツキ一行から少し離れ、話し合い始めた。


「ガルド様はもう帰ってきたんだよな?」


「いや、まだ帰っていないぞ。案内してやった方が良いのか?」


「あの方だしな……それより、これを読んでみろ!」


 紹介状に「神職人とお会いするように」と書かれていた。


「シンゲン様へ向かわせた方がいいかもな」


「そうだな」


 おや、打ち合わせが終わったようだ。


「イツキ様、お嬢様方々、鍛冶王シンゲン様のところまでご案内しますので、ご一緒においでください」



 ◆ ◆ ◆ 



 門番の兵士1人の案内により、シンゲンが住んでいる巨岩の建物の前に着いた。


「ここがシンゲン様のお住まいです。少々お待ちください」


 ドアのそばにある鉄の鐘を、手持ちの槍で叩いて呼びかけた。


「シンゲン様、お客様がおいでになります」


 ────ガラガラ、ガッシャーン!


 ……ユアの【共有念話】で耳にした俺は「家の中から、大きな音がしたぞ」と呟いてしまった。


 ドアが開いて、大きな人物が現れた。

 2メートルほどの大柄で、黒い長髪に茶色い肌色をしたドワーフ族だ。

 何故か、怒りの仮面をかぶっていた。


「なんだ? テメェ。オレに何か用か?」


 めちゃくちゃ、キレてませんか?

 門番の兵士は「またですか……」と呆れ気味のようだ。いつもキレる人なのか。


「この人、シンゲン様は仮面を被って、人を驚かせるのが好きなんです。お気にならさずに」


「おい! 余計なこと言うな!」


「どうってことないでしょ! シンゲン様。何で、怒りの仮面なんですか!」


「それはだな……、たまたま拾ったのが、これなんだよ!」


 何故か、開き直るシンゲン。


「シンゲン様、大人げないです! 逆ギレされてもこちらは困ります。

 とりあえず、ガルド様の紹介状です! そちらがイツキ様とユア様、リフェル様です!」


 門番の兵士はシンゲンに、ガルドの紹介状をバッと見せた。


「なっ! これは……申し訳ないことした」


 気まずくなったシンゲンは真っ青になる。仮面をとると、何やら穏やかそうな人だった。


「あー、オレはシンゲンっていうんだ。七星王の一人、【東星の鍛冶王】って称号を持っているよ」


「あ、イツキと言います。冒険者をやってます」


 シンゲンが鍛治王……?

 見るからに、穏やかそうで黒い髭を生やしている。本当に、鍛治王なのか見えないぐらい男性だ。

 というより、気になることがある。

 門番の兵士といい、シンゲンといい、ガルドの紹介状を見せただけで皆、何で畏まるのだろうか。


 ガルドという人物は一体何者なのか、確かめようと問いかけた。


「すみません。ガルドさんって、どんな人なのでしょうか?」


「「何っ!」」


 俺の問いに、シンゲンと門番の兵士は何故か目を丸くしてしまった。


「あの──、イツキ様……皆さんは、ガルド様をご存知でないですか?」


「旅職人として、世界中を回っているとしか聞いていないので」


「あぁ……そういや、アイツはそうだったな。そりゃ、見えないのは当たり前か」


 納得するシンゲンに、俺たちは怪訝な顔つきになった。


「まぁ、それは後にしておいて。イツキ殿、紹介状読んでみたが、新しい武器を作って欲しいのか?」


 あ、話逸らしましたね……まぁいいでしょう。


「はい。今の杖は、もうボロボロとなっています。新しい杖が欲しくなってて……。普段は杖で、戦闘になると接近でも打撃に使える剣みたいな杖が欲しいと思っています」


「ほう……イツキ殿は魔剣士なのかい?」


「職業は魔導士ですが……剣も扱える魔導士のもありかなと思ってまして」


「ふむ……こういう戦い方もあるのか。これは面白いな。よし、イツキ殿! 工房へ行くぞ!」


 シンゲンは何か新しいものを発見したかように、目を輝かせる。イツキ一行はシンゲンの後に、ついていくのだった。


 ◆ ◆ ◆


 工房はシンゲンの家の隣だった。

 そこの工房は、工場で見かけるような建物に似ていて、巨岩にいくつもの鉄板が頑丈に貼り付けられていた。


「「お疲れ様です!」」


「「おはようございます!」」


 ユアの【共有念話】を常時発動したせいで、そんな声が聞こえてきた。

 聞こえる方向を振り向くと、4人ほどの職人が立っていた。


「おう! ご苦労様! 仕上げはどうだい?」


「はい。ロングソード10本仕上げました!」


「ふむ。……よく出来てるなっ!」


「これはどうでしょうか?」


「なるほど、なるほど。あ――これは剣先にはもう少し尖った方が良いな」


 シンゲンと鍛治職人4人は意気投合に、武器の総仕上げと鑑定をしたりしていた。イツキ一行の存在を忘れるほどに。

 いつまでたっても、らちが明かないと思った門番の兵士が叫ぶ。


「シンゲン様──! お気づきください!」


「はっ……ああ、すまん。鍛治のことになるといけないな」


 本来の目的に立ち戻ったシンゲンは俺の要望を詳しく聞き、イメージを膨らませた。


「なるほど! 面白い! そんな武器は珍しいな。ただ、素材が必要になってくる。何か凄い鉱石、素材があったらオレを呼んで来い。立派な武器を仕上げてやりたい」


 オーダメイドの場合は、自ら素材を集める必要がある。鍛治は素材採集家ではないので、当然だ。

 シンゲンは、宝箱を開け何やらゴソゴソと探っている。


「お、あったあった。イツキ殿、これを与えよう。極めるのに時間かかるからな。それの代わりとして使ってくれ!」


【サン・オブ・ロッド】

 ランクA 太陽のシンボルと言われている杖。


 おお、かっこいい。

 1mに満たない長さで、珍しい造形。天辺あたりは日輪の形をしていてキラッと輝いている。日輪の真ん中に宝玉が埋め込んでいる杖だ。


「ここの日輪は刃物になっているから気をつけろよ。打撃にも使える代物だ。魔力を高める武器なので、加減気をつけないと、村ごと一瞬で無くなるぜ」


 えっ、恐ろしいことをさらっというのね。見るから強力な武器なのに、それ以上の武器を仕上げてくれるのか……。


「ありがとうございます!」


 それから、俺たちはシンゲンと旅のことやら武器のことやら、色々談笑しあうのだった。


 一刻が過ぎ去る頃、シンゲンが窓の方を眺め、何か思い出したように言った。


「よし、これからガルドのところへ行こう! 今、帰ってきたそうだ」


「ガルドさん、帰ってきたんですか。久しぶりにお会いしたいです」


「ほう、ガルドは好かれてるようだな。──さぁ行こうか!」


 イツキ一行は、ガルドのところへ向かうことになった。

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