36.マニアの方々にはたいへん申し訳なく

「随分古そうな銃だな」

ガラスケースには、拳銃が飾られていた。

六連式リボルバー。ぐるぐる回る弾倉があって撃鉄がある。

ほとんどお伽話の武器である。

博物館らしいといえばそうかもしれない。今までの展示物で一番の骨董品だろう。

「それがそうでもなく、この銃はかなり新しい時代に作られたものです。七十年ほど前ですね」

「ほう」

武器というのは、原始的なものでも馬鹿にはできない。

どれだけ古くて単純なものでも、人を殺傷できるならそれは確実な脅威である。

それこそ石ころでも人は死ぬし、それを考えれば撃鉄と火薬を用いた銃は十分すぎる代物だ。

「この拳銃は、ある兵器会社が『往年の名武器をリメイクする』という企画で製作したものです。見ての通り六連式のリボルバーで、兵器マニアへのファンアイテムという側面もあったのですが……」

「ですが?」

「回転式拳銃というのは歴史の表舞台から姿を消して久しいですが、一部の兵器マニアの方々からはいまだに熱狂的な人気を持っています。しかし、この武器は、外見こそリボルバーですがかつてのそれとは根本的な構造が異なっています」

少女がパチンと指を鳴らすと、ガラスケースに銃の内部構造のホログラムが投影される。

「旧来の拳銃とは違い、これは装填した弾丸をそのまま亜音速に加速して射出します。原理的にはレールガンの方が近いですね。大きな特徴としては、撃鉄で雷管を叩いているわけではないので火薬を必要としません。弾倉に装填さえできれば小石だろうと口紅だろうと射出できます。耐久性に欠ける素材だと着弾前に粉々になりますが」

「中身は全然別物ってことか」

「旧来の弾薬を再現したものもセットで販売されたのですが、この銃で発砲した場合、構造上銃弾は薬莢ごと飛びます。これがマニアの間ではとても不評でした。とても」

「そんなに」

「ガワだけの粗雑な模造品だとして販売中止の署名運動まで起きたほどです。いまだにマニアの間では残念兵器として名前が挙がるんだとか」

「ちゃんと弾が前に飛ぶんだからそこまで酷くもないと思うが……」

「実際、実戦にも少量投入されましたが、戦場での評価はそこそこだったみたいですよ」

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