30.歌姫

展示室の隅には、ぼろぼろの戦闘用ロボットが飾られていた。

装甲の大部分は失われ、センサーと駆動系が剥き出しになっている。

四肢は右腕を残して欠損し、自立することもできないのか天井からワイヤーで吊られていた。

「ぼろぼろだな」

「この機体は、銀河歴の初期に流行したものです」

「千年くらい前?」

「千年位前ですね」

よく見つけたものだ。

「この機体が作られた当時、自律兵器は普及していませんでした。この機体のコンセプトは革命的で、戦争の在り方そのものを変える原因になりました。極めて長期的に、広範に使用された傑作兵器です」

どれほどの存在も、時の流れには押し流される。

その残滓だけがここに置き忘れられている。

「特徴としては、歴史上で初めて運用された自律兵器という一点に尽きます。時代を定義した兵器の一つですね。それと、記録に見られる特徴としてはもう一つ」

「何」

「『歌う』ことです」

「歌?」

「はい。この機体の開発当時、人工知能は未発達でした。そのため、同時期に完成度の高かった歌唱用アンドロイドの基礎AIが流用されたのですが……」

少女が展示パネルを操作すると、スピーカーから音が流れ始めた。

壊れたオルゴールのような、不安定な音階。

一つ、呟くように流れて、少し間を置いて思い出したようにもう一音。

歌と言えば歌なのかもしれない。

どことなく悲しい音だった。

「これが、記録に残っている『歌』です。基礎AIの問題か、この機体は壊れると簡単な機械言語を駆使してこのような音を発し始めます。当時、この音は戦場の兵士たちを悩ませる職業病の一つになりました。『あの歌が頭を離れない』と」

最期に紡ぐ歌。

誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。

スピーカーから流れる『歌』は、一分程度の短いものだった。

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