9.陽炎

「これもアーカイブか」

ガラスケースには、ロボットの模型。

「“陽炎”は、動力炉を中心に組み上げられた特殊な機体です。『sol』と呼称された革新的なエンジンは莫大な熱エネルギーを生み出し、この機体はそれを有効に扱うために設計されました」

少女がパチン、と指を鳴らすと、模型がかしゃかしゃと変形し始める。

装甲が開いてフレームが露出し、白い煙が吹き上がった。

「『sol』の熱エネルギーは武装や動力に転用するだけでは処理しきれず、この機体は多くの冷却・放熱機構を装甲に仕込むことでかろうじて運用されていました。冷却材と放熱により周囲に白煙と陽炎が立ち上るのが名前の由来とされています」

「現物は残っていないのか?」

「この機体は銀河大戦の中期ごろ、ある惑星の攻略戦に投入され中破、それでも戦闘を続行し続けた結果、機体が稼働限界を超えフレームが搭乗者ごと溶け落ちたと記録されています」

少女がパチン、ともう一度指を鳴らすと、再び装甲がかしゃかしゃと畳まれていく。

「真っ白に燃え尽きた機体ですね。灰にまではなりませんでしたが」

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