1.KONEKO

ガラスケースの中を、小さな動物が走り回っていた。

自分の尻尾の先にぶら下がった黒い球体を追いかけ、ぐるぐると回っている。

「こいつはいつからこうしてるんだ?」

「この博物館に寄贈された時からです」

「というと?」

「492年と7日と4時間と12分と7秒前からです」

「……どういう兵器なんだ?」

「“KONEKO”は、絶滅した愛玩動物を模倣した兵器です。ある私設武装集団が独自に開発したと伝えられています。この兵器は対峙した兵士に本能的な母性愛、愛護感情を抱かせ、戦闘能力を半減させます。この兵器の元となっている愛玩動物も、遠い昔に盾に縛りつけて対峙した兵隊の士気を半減させたという逸話があるのでそれにあやかったものと考えられます」

耳と尻尾を生やした見慣れない小動物は、一心不乱にぐるぐると回っている。

ガラスケースには『バターになっちゃうよ!』と落書きされていた。

「それで、活躍のほどは?」

「この兵器は、愛護感情を抱かせるという点には成功していましたが、余りにも精巧に元の動物を模倣してしまっていたため、好奇心旺盛で、移り気で、わがままで、臆病で言うことを聞かないという欠点があった他、これ単体では攻撃能力を持たないということも問題視されました」

「なんで作ったんだ……」

「解決策として、思考ルーチンの単純化、尻尾の先端部へのブラスター砲の増設、それに伴う尻尾の多少の延長改修が施されました」

「なるほど」

「結果として、この愛すべき兵器は、視界の端でちらつく自らの尻尾の先端の黒光りする何かを追いかけてぐるぐると回り続けることになったのです。とっても愛らしいですね」

ふふふ、と少女が笑う。

「そうかな……」

「そうですよ。お客様方にもとても人気です。当博物館のマスコットキャラクターのモデルにもなっているんですよ」

そう言いながら少女がポケットから取り出したパンフレットには、ぐるぐると回るこれを図案化したらしいキャラクターが描かれていた。

「売店にはぬいぐるみもご用意していますよ?」

「出来が良かったら考えとくよ」

出口間際の売店の話はまだまだ気が早い――博物館見学は、始まったばかりなのだから。


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