第171話 トットとの再会
「なんか凄かった……」
「だろ……」
疲れた顔で幌馬車から降りるシュラクに、やはり疲れた顔のレオが答えて背を叩く。
気持ち、わかるぜ、というやつだ。
メネウたちは苦笑いするしかない。そんなに変かな、などとはメネウももう言えない。そもそも、馬車を改造した時にこってり絞られている。
そんなわけで一行はシュラクを伴いキックイナの商業ギルド前にいた。研究所にはこのまま全員で向かうが、メネウたちはトットの迎え、シュラクとレオは研究所長との話し合いだ。
メネウは道中、何度も「本当に金はいらないのか?」と聞かれたが、いらない、の一点張りで通した。
自分たちはメネウのサーチがあるし、今後開発研究されて実用段階の時に、まだ冒険しているかは分からない。
メネウはしているかもしれないが、それはとりあえずアペプの事を解決してからの事だし、日々商業ギルドに預けているお金の金利とトットのアイテム販売で金は増え続けている。結晶も山ほど換金しているし、今回のゴブリンの巣の分は開発費としてレオに渡す事にした。
そんな金に困ってないのは、消耗品も武器も彼らはいちいち買い替えなくていいという所も大きい。
メネウの装備はいうに及ばず、ラルフの鎧も剣も立派なものだし、トットのローブも今のところは問題ない。ミスリルナイフとの相性もいい。モフセンに至っては装備品で防御をする必要がない。武器もいらない。動きやすさが最優先だ。
食費はその分盛大に使っているが、先程の通りかなりの金が入っては増えていく。使わないと追いつかないし、もったいない。食べたいものを食べているわけだし、必要な物にはメネウはケチらないので、かえって物は悪くならない。
安物買いの銭失いをしない結果、単に、あったら便利じゃない? と言った物で金をもらうのは、メネウには抵抗があった。
レオは渋々開発費を受け取り、シュラクはそれを、まぁ本人がいいというのだから、と慰めていた。ダークエルフといってもエルフの一族だ。20代半ばに見えても、実際はモフセンより年嵩かもしれない。
そしてキックイナの研究所に入ると、トットがメネウに飛びついてきた。
「おかえりなさい! メネウさん、ラルフさん、モフセンさん! カノンもスタンも!」
「ただいま、トット。元気にしてた? 楽しかった?」
「はい!」
この程度で倒れるメネウでは無いので抱き上げたまま背中を撫でて尋ねると、トットは元気よく返事をした。
よほど嬉しいらしい。
背後に控えていたキックイナの所長と話したい気もするが、それはレオとシュラクに譲ることにして、トットはアトリエ兼寝室として与えられた部屋にメネウたちを招いた。
冒険者であるし床に座ることに抵抗のないメネウたちはトットをベッドの上においやり、メネウとモフセンは床に、ラルフは立ったまま壁にもたれかかって話を聞いた。
曰く、試練の平野の土から生まれた花はどんな薬草の性質もコピーするらしい。なんでもいい、作りたい薬を思い浮かべてその材料の代わりに使うとちゃんとその薬ができるという。
トットの分解の魔法陣にかけると元素として分解されてしまうことから、形を持った魔力の塊という事になるようだった。
よくこの短期間でそこまでの成果を出せた物だ。トットはやはり、ここで研究職につく方が向いているんじゃないかとメネウは思った。
それを言おうと口を開きかけたところで、トットが先んじていった。無意識に、当たり前に。
「面白いですよね! 世の中には僕の知らないことがたくさんあって、僕一人では旅なんてできなくて……これからも、メネウさんたちと別の景色を見るのが楽しみです!」
そう笑顔で言い切られると、メネウはもう、笑うしかなかった。
トットは錬金術師だ。本来ならアトリエに篭って薬の研究をするのが性に合っているだろう。
だが、彼の人生はほとんど一部屋の中で母と2人過ごした人生だ。
彼はまだまだ外を見たいという。一緒に旅をしたいと、メネウたちと来たいと。
ならばメネウは何も言わないし聞かない。仲間であって親ではない。トットの意思を尊重する。
「そうだね、まだ回ってない街もあるし。レオたちが面白い魔導具の研究を始めるみたいだよ、話だけでも聞いてくる?」
「いえ、僕魔導具は専門外ですから。メネウさんが面白いって言うくらいですから、完成を楽しみにしておきます」
「そっか。じゃあ帰り支度でもする? 違う街にそろそろ行きたいよね」
「はい!」
こうしてメネウはトットを仲間に加えたまま、先に進む事に決めた。
正しいか間違ってるかはわからない。だが、トットがそうしたいなら、メネウは歓迎する。
純粋に嬉しい。
トットの支度が済むまでの間、メネウはふらりとレオたちの所に顔を出した。
「さっきトットから聞いたんだけど、俺が出したあの大量の花の性質は所長さんも聞いてる?」
「あぁ、はい。なんでも薬草の代わりになるとか……?」
「そう、意思を込めたらその通りに変化する元素の塊。あれさ、魔力切れの人にそのまま飲ませたらどうなるかな?」
「そ、れは……」
「俺はその研究結果には興味は無いんだけど、試練の平野という場所と、その土からある魔法で純粋な元素の塊を抽出できる……、これ、もしかしたら農作するよりすごい事かもね」
固まっている3人にその話だけすると、トットがお世話になりました、と頭を下げてメネウは部屋を出た。
この国は面白い。リングが期待をかけるだけある。試練の平野とやらを農作地にしてしまうのは愚策もいいところだ。
メネウは爆弾発言を残して、さっさとトットの部屋に帰っていった。
いい研究データが出来るといいなとは、思って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます