第170話 レオの決意
冒険者ギルドで依頼完了の報告と、結晶を見せながら内容がCランク相当では無かった事を告げると、ギルド職員は驚きと申し訳なさの混ざった顔をした。
「無事に戻ってきてくれて何よりだ。すまなかった、完了してくれたことにも感謝する。やはり、巣穴ともなると正確な調査ができなくてな……、今後魔物の巣の掃討に関しては生存して帰ってくる事でペナルティを無くすように上に報告をあげておくよ」
「その事に関してなんですけど……レオ」
メネウに促されたレオは、ギルド職員に自分の身分が研究者である事を明かして、道中に話しながらまとめた草案を簡潔に説明した。
それを聞いたギルド職員は目を見開き、自分の手には余る案件だと告げてギルドマスターの部屋へと案内される。
今いるのはミアモレの冒険者ギルドだ。あの崩れそうで崩れない、違法建築の塊のような街を土魔法で支えている街の地上部分、商業ギルドのほど近くに冒険者ギルドはある。
中は広々とした2階建てで、ギルドマスターの部屋は2階の一番奥にある。
案内されて中に入ると、待っていたのは色黒のエルフだった。白い髪に細っそりとした身体をした男のダークエルフは、側に身の丈ほどもあるような大剣をたてかけて書類と睨めっこしている。
「なんだ? お前ら」
「ギルマス、彼らは冒険者でゴブリンの巣の掃討……我々がCランクで出していた依頼を受けてくれたんですが、まずはこれを」
そこに置かれた結晶はゴブリンキングの物である。ギルドマスターはそれを一瞥するとため息を吐いて、頭をかいた。
「あー……お前さんら。迷惑をかけたな。ミアモレのギルドマスター、シュラクだ」
「それに伴ってキックイナの研究者から画期的な提案があったんです! ぜひ、ギルマスが聞いて全国の冒険者ギルドへ発信していただきたい。これが通れば冒険者ギルドと研究所は互いに手を組み、マギカルジアは全国的に有能な魔導具を普及させる事ができますよ!」
「落ち着け。……そこの嬢ちゃんか? 随分若いな」
「とりあえず私はこれで失礼しますが、ギルマス、ちゃんと話を聞いてくださいね! びっくりしますから!」
ギルド職員は入念に念を押して部屋を出ていった。
シュラクと名乗ったダークエルフは(メネウは内心大はしゃぎである、今は大人しくしているが)応接用のソファにメネウたちを座らせると、自分も目の前に腰掛けた。
レオはちょうど目の前にシュラクがくる位置に座り、自分がキックイナの研究者である事から順を追って説明した。
この話がうまくいけば、研究所と冒険者ギルドの関係は非常に良好で密接なものになる。また、実用に到れば全国の冒険者ギルドで使われる事は間違いない。その上、実験段階で冒険者ギルドからの支援も見込める。
依頼を受けない冒険者でも、これは欲しいという者はいるはずだ。ダンジョンでの索敵にも応用できる。
なんだかそんな事を考えると緊張してしまうが、レオは先ほど下で話したことより詳しく、そしてメネウたちにもまだ話していない応用を加えてシュラクに話し始めた。
「まず、この魔導具の元になるのは、現在どの研究所でも使われている、特定範囲の魔力量の観測をする魔導具だ。これは、各研究所が試練の平野からとってきた土を使って魔法の反応を見ているのに使われている」
「ふん、それで?」
シュラクの興味はいまいち惹かれていないようだが、この先が重要だ。
「発案はまずこいつ、メネウだ。が、メネウはそれを誇示するつもりも儲けるつもりも無いらしい。それは念頭に置いて聞いてくれ。……魔力量測定……つまり、元素量の測定魔導具の効果範囲を広げられるとしたら……魔物の巣の索敵に有効じゃないか?」
「……嬢ちゃん、それは、すまないが俺はそんなに魔法は使わないから詳しくないんだが……現段階で充分可能な話をしているのか? それとも、できるかもしれない、程度の話か?」
シュラクが身を乗り出す。それが可能になれば、全国の冒険者ギルドはこぞってその道具を求めるだろう。
「充分可能だ。というのも、これもまたコイツ……メネウの発想なんだが、篭める魔力量によって魔法の効果は増減する。魔法は一人で使うものだが、魔導具なら……」
「ミアモレを支えているように、魔導具なら複数の魔力を糧に発動できる……!」
「そう。そして、マギカルジアの国境で使っている敵意の測定魔導具、あれも組み込めれば……」
「その辺は研究次第だろう。しかし、魔物の巣に限って言えば中の魔物の数や元素の大きさを測る事ができりゃ……、しかも、魔力量によって測定範囲が変えられて、一人で扱わなくてもいい。だいぶ正確な測定が可能になるな」
「そうなんだ。巣の大きさはまちまちだろう? 今のところ、研究所では研究室内の特定範囲を指定している。だから、魔力……元素の測定、元素量、指向性はクリア出来ている。あとは組み立てて実験の繰り返しになるけど……少なくとも今の索敵よりはマシな方法になると思う」
シュラクは口元に手を当てて考え込んだ。
彼は自分でも言ったように魔法には明るくない。ダークエルフは魔力を体力や攻撃力に変換する物理攻撃が得意な種族だ。魔法と弓を得意とするエルフとは似て非なる存在である。
しかし、マギカルジアの冒険者ギルドにいるからこそ、そこらの国の冒険者ギルドのギルドマスターよりは魔法に明るい。
レオの言葉に嘘がないのは分かる。ミアモレはまさに複数人による……街の住人による、少量ずつの元素を集めて研究所自体を魔導具化して支えられている街だ。
そして、研究所ですでに魔力量の測定を実用しているのなら、それを合わせて応用すれば……。
今まで不透明なまま依頼を出していた魔物の巣の内情を安全に知ることが可能だ。多くの命が助かる。なんなら、巣自体を見つけることも可能になる。
こんな魔導具ができたら世界中で欲しがられるだろう。マギカルジアで研究開発し、売り出せば品質は折り紙付き、莫大な金が動く。
「レオ、それはキックイナの研究所に持ち帰って研究をはじめるんだな?」
「もちろんだ! これは最優先で研究して、少しでも早く世の中に出すべき発見だ。そしてこのメネウにはやる気がない。俺が研究所に持って帰る」
やる気が無いのではない、理論がわからないのだ、とはさすがのメネウも口には出さない。
発想はあっても理論はさっぱり分からないし、具現化したものをレオたちが分解して研究するより、レオたち研究者が1から作った方が土壌がある分やりやすいはずだ。
「これは俺ひとりには身に余る。だが、一度キックイナの研究所に行って話はしたい。その上でまずはマギカルジアの冒険者ギルドで相談し、必要なら研究費の援助もできる、はずだ」
「ほんとか?!」
「本当だ。冒険者ギルドなら喉から手が出るほど欲しいからな。まだ設計もできていないにしても、充分可能な話だと思った。キックイナを中心に話を進めるのがいいだろう。だから俺は一度キックイナに行くが……もしかして、お前さんらキックイナに帰る予定か?」
メネウたちは尋ねられて、レオはこれ以上冒険者に混ざる必要は無いだろうとも思っているし、トットも迎えに行きたいし、と思ってはいと答えた。
「ならちょうどいい。あの幌馬車だろう? 悪いが俺も乗せてってくれ」
こうして、明日の昼にキックイナにシュラクを加えて出発することが決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます