第146話 マギカルジアへの切符

「……と、いう事で、トロメライでは現状魔物を保護する方向に精霊が動いています。人間は無暗に近づかない方がいいでしょうし、そのために強力な魔物が徘徊しています」


 メネウたちはそろってギルドマスターにトロメライの現状を報告した。


 案の定、帰りはトロメライの気遣いによって安全に山を下りる事ができたが、それとこれとは話が別だ。自分たちが安全だからと言って、その後もずっと安全な理由は無いのである。


 ギルドマスターには風の一家が関係している事を素直に話した。人間の世界でも風の一家は裏社会のドンだ。それが絡むなら多少の無茶な話も通る。


 ナダーアのギルドマスターは厳つい顔つきの、灰色の髪とひげを生やしたいかにも戦士然とした大男だった。その大男が腕を組んでむっつりと黙り込み、考えこんでいる。


「わかった。近々ギルドマスター会議を開く。古のダンジョンに異常が起きているのは察知していたが、このままでは情報共有が遅れる。情報の提供、感謝する」


 ジュプノのギルドマスターは少し砕けた感じだったが、こちらはかっちりとした武骨な感じの人だ。


「ギルドマスター会議?」


 メネウが不思議そうに尋ねる。今迄聞いたことがない言葉であった。


「そうだ。全世界のギルドマスターが一同に会して会議を行う。場所は基本的にここ、ナダーアだ。食の流通の要だからな、集いやすい」


「なるほど……それってどの位かかるんですか? 招集と開催に」


「開催は一か月後だな。招集自体はそんなに時間はかからない。鷹を使うからな」


 一ヶ月か、とメネウは呟いた。参加できるなら自分も参加させてもらいたかったが、それなら次の街へ行く方が建設的に思える。


 次の目的は魔法国家マギカルジアだ。例の戦争をふっかけられた国である。


「今はマギカルジア側の受け入れ態勢も厳しくなっているが、冒険者の殆どがマギカルジアに味方したこともあって冒険者ギルドの紹介状があれば簡単に入国できるだろう。紹介状を書いてやる」


「! ありがとうございます!」


 こうして紹介状を得たメネウたちは、ギルドの入り口でセティと別れた。


「アタイらは何故か同じタイミングで古のダンジョンに挑むような縁みたいだ。またマギカルジアでも会えるだろうさ、楽しみにしているよ」


「こちらこそ。気を付けて冒険してね、セティ」


「あんたらもねー!」


 手を振って別れた後に、メネウたち一行は一度宿屋に戻った。すると、宿屋の主人が何やら手紙を預かっているという。


「リングって人からの手紙だ。中は見て無いぜ、商業ギルドの奴が持ってきた」


「ありがとうございます」


 メネウは部屋には戻らずその場で封を開けた。


 中にはリングからの手紙と、良く分からない招待状が一通混ざっていた。手紙を読み進める。


『アンタがこの手紙を読んでるということは、そろそろこの国を出立する頃だろうね。マギカルジアは特殊な国だ。五大元素に分かれて魔法の研究を進めていて、それぞれに街がある。この手紙は各街の商業ギルドでの優先取引権を確保するためのものだよ、トットの坊やには相性のいい国だろうからね。難題を解決してくれたあんたたちへのせめてものお礼さ。もし、トットがマギカルジアに残りたいと言ったら……その時は、ちゃんと彼に選ばせてやりな。あそこはそういう国だ、じゃあ、考えておくことだね。元気でやりな』


 メネウはその手紙は誰にも見せず懐にしまい、優先取引権の紹介状を見せた。元気でやりなよ、だってさ、と笑っていたが、メネウの表情のぎこちなさにラルフが気付かないわけがなかった。


 が、ラルフはそれを問うつもりはなかった。自分はメネウについていくと決めた身である。他の2人は違う、特にトットは。


 マギカルジアは魔法国家と呼ばれる程魔法に精通した国である。大方、トットがそこで学びたいと言ったら考えてやれ、的な事でも書いてあったのだろう、とラルフはそこまで読んで黙っていた。


 それはその時、トットが言い出したら考えればいいことだ。


 大人が先んじてあれやこれやと口を出すものではない。メネウもきっとそのつもりだろうと思ったのだ。


「さて、明日からマギカルジアに向けて出発だ! 今日はこの後買い出しに行こう」


「賛成です! どんな国なんでしょうね、マギカルジア」


「ふむ……、たしかあそこは新興国家で古のダンジョンは有してなかったはずじゃの。儂が旅をしていたころはナダーアの一部だったはずじゃ」


「でもせっかく行くんだし、面白そうな街もたくさんありそうだし、ゆっくり覗いてみたいよね」


「焦る旅でもあるまい。思う存分見学していけばいいと思うぞ」


「うん! じゃあ買い出しにレッツゴー!」


 魚も肉もまだまだ新鮮なものがたくさん残っているが、意外と野菜の消費が大きい。


 メネウが居ればかさばるという事が無いので、ナダーアの市場でめいっぱい買い込んだ。


 見た事のない野菜も並んでいて、さすが農業大国と言える品揃えである。


 買い物を楽しむトットを後ろから見ながら、メネウは考えていた。


(……選ばせてやれ、か)


 確かにトットは殆ど考える間もなく自分たちと来る事を決意した。


 それは、物心がついた時にはもう母親と二人、囚われていたからかもしれない。


 世界は広い。メネウが成長しているように、トットも急速に成長しているはずである。


(マギカルジア、どんな所だろう)


 屋台と屋台の隙間から見える星空を見上げて、メネウはまだ見ぬ都市へ思いを馳せた。

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