第107話 エリーの護衛依頼

 快適な馬車の旅は平穏無事に終わった。


 メネウとしては、状況が落ち着いた事だしまた正座させられるのではないかと思っていたのだが、偶然とはいえ謎の仮面を装着していたことや状況の切羽詰まり具合からしてお咎めなしとなったようである。


 ホルアムアケト……今はベルクヴェルグの身体となったあの巨大ロボについて、約1名が大変な興味を持っていたものの、どう聞いていいのか迷っているようでもあった。


 宿屋に帰って2人になることがあればこっそり教えてやろうとメネウは思っている。


 帰りの道程も順調で、魔物が出たときや休憩時以外は馬車に揺られるだけであっという間にソルシアに到着した。


「帰って来たなー! ……ん?」


 メネウが馬車の窓から顔を出してソルシアの町を眺める。港町は変わらず活気づいていたが、出発前よりも俄かに湧いているようにも見えた。


「あぁ、冒険者の方々が戻られたんですね」


 カラーがメネウの疑問に答えてくれた。


 その答えにメネウが目を輝かせる。


「おっ、てことはギルドに行ったら」


「依頼があるかもしれないな」


 ラルフが言葉を繋いで頷いた。


 ひとまずは商業ギルドまで馬車で戻る。カラーが先に中に入り、一緒にリングも出てきた。


 メネウ達に何か言うより前に幌馬車の中を覗き、盛大なため息を吐きながらリングが言った。


「アンタ、何してくれてんだい。うちの荷馬車の一つを。幌馬車だから貴族に売る事もできないし…………買い取ってくれるんだろうね?」


 どうやらお説教はここだったらしい。すっかり気を抜いていたメネウは、たはー、と苦笑いで頭をかいた。


 あって困る物ではないが、馬の面倒なんて見れる気がしない。


「……ご相談なんですけども~~……」


「フン、大方馬の面倒が見られないんだろう。いいよ、どの町でも商業ギルドに行けば預かるようにしてやろうじゃないか」


 商談成立である。多少ぼったくられた気もするが、魔改造したのはメネウなので致し方ない。


 馬車の中を元に戻せることは戻せるが、積む荷物も無いし、下手に能力を見せる方が損だということにして馬車を買い取った。


 基本的に道中はメネウ達が馬の面倒を見るので、簡単に面倒のやり方を教わり、飼葉も分けてもらう。ここはモフセンが馬を見慣れていたので助かった。モフセンはもともと農民である。彼に任せればよかったのかと、焦って高い金を払ってしまったメネウは思ったが後の祭りである。


 先日の結晶売り忘れ事件でリングの金庫を大分軽くしてしまった自覚はあるので、ここはそのペイバックだと思って納得しておく。


 一通り商業ギルドでの用事を済ませて、夕刻、メネウたちは冒険者ギルドへ向かった。


「お、メネウじゃねーか。仕事はいってるぞ」


「よっしゃ! どんな仕事ですか?」


 結晶を大量に売り払った時にすっかりなじみになってしまったギルド職員のおじさんが親切にも声を掛けてくれた。


 仕事内容は護衛依頼だ。ちょうどメネウが目指そうと思っていた『水の都・ジュプノ』までの護衛である。というのも、この国には様々なダンジョンがあるが、カノンが居たような『古のダンジョン』と呼ばれるものはジュプノにあるらしいのだ。暇な時に図書館に行ってしっかり下調べをしていたメネウである。


 護衛依頼という事ならば、さっそくあの馬車も活躍しそうだ。


 行きだけでもいいようだし(依頼人は暫くジュプノに留まるらしい)、これを機にこの町を出発してもいいかもしれない。


 他にもいくつかのBランク討伐依頼を受け、明日護衛対象と待ち合わせる事にして冒険者ギルドを出た。


 そして翌日……。


「あんだぁ?!おめだぢが、わだすの護衛さつぐの!」


「エリーさん?!」


 お互い、思わぬところでの再会となった。


 何でも、戦争の影響がスカラベにどう及んでいるのかを調べるフィールドワークに出たいが為に護衛を探していたらしい。


「ま、おめだづならよがっだべ。知らねぇあんちゃんだぢよりよっぽど安心だべな」


 それでいいのか?とメネウは内心首を捻った。


 どうもこの国の人たちは、男所帯に女を押し付けるのを躊躇わないような気がしてならない。


「エリーさんはいいの?俺たち男ばかりだけど……」


「あんだらさ襲われる位なら、スカラベに襲われるほがなんぼが確率がたがいべな」


 それはその通りだが、何故そうも自信満々なのか不安でもある。バッドステータスとして不能とでも表示されているのだろうか。


「あんちゃんら、ラムステリスに行ってきたんだろ?『神様のお友達』は不浄に走らないってのは一般常識だぞ」


 ラルフが目で頷く。


 なるほど、敬虔な信者扱いされているのかとメネウは納得した。そういう事にしておけば今後も楽である。


 お守りの一つでも買ってくればよかったかと思ったが、一先ずこの国でそれで通せればいい。


「じゃあ、男所帯だけど、改めてよろしくエリーさん」


「エリーでいいべ。ルートの確認をしてぇんだがいいが?」


 こうして立ち寄るポイントを地図で確認し、メネウたちは明日の朝出発という事で段取りを組んだ。


 首都ナダーア側を通ってジュプノに向かうコースだが、街道からはだいぶ外れている。


 確かに護衛が必要なルートだろう。


 午後からは明日以降の食糧の買い出しなどにメネウたちは出掛けた。エリーは仕事が残っているという事だったので、明日の朝冒険者ギルド前で待ち合わせになった。


 宿も引き払うことを告げると、宿屋の主人は差額を返金してくれた。空けている事も多い客だったから、それでも儲けは出たらしい。


 メネウたちは明日からの新しい旅路に備えて、早々に布団に入った。

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