第100話 神っているんだねぇ?!
「では、お帰りになる際にはお声がけください」
「ありがとう、3日くらいは居るから好きにしてて」
カラーが持っていたリングの身元保証書のお陰であっさりラムステリスに入れたメネウたちは、これまたリングの紹介の宿屋に泊まることになった。
石造りの高い建物が並ぶ様は、前世のコンクリートジャングルを思い起こさせる。
しかし、静謐で厳かな空気は、あの雑多な空気とは全く別物だ。
空っぽの美術館の中にいるようだ、とメネウは思った。
宿屋に部屋を取ったメネウたちは、街中をとりあえず歩いてみることにした。
大通りも細道も整然としていて綺麗だ。
全てが石でできたかのような都市は、灰色がかった白に逆に目が眩む。スカラベも他の街に比べて静かに仕事をして居るように見えるが、それはたぶん気のせいだろう。
さすがにお喋りしながら歩く雰囲気でもない。大通りをまっすぐ進んで居ると、メネウの頭の中に声がした。
(メネウさん、そのまま真っ直ぐ、突き当たりの教会へ)
セケル、と思わず口に出そうになったが、かろうじて堪える。それだけ声が『近かった』。
顔を上げると一際大きな、壁のような教会が大通りの突き当たりに見えた。
メネウは黙ってそこに向かって駆け出した。ラルフたちが急いで後を追う。
すれ違った人たちは、何もかも知っているか、何も見えていないようだった。
「おじゃまします!」
両開きの扉を勢いよく開けたメネウの目の前に、白くひらひらとした礼服を着たセケルが立っていた。
「セケル!」
「メネウさん、よく来てくれました」
「どうして?!いや、ええー?!」
メネウが駆け寄ると、嬉しそうに抱擁を交わしてセケルはメネウの顔を両手で触り、頭を撫でた。
「うん、良い体です。最低限文化的な生活をしている証ですね」
「ふは、くっすぐったいってやめて、やめ」
何なら頭からボディチェックよろしく全身触って確かめられたメネウだが、追いついた一行は置いてけぼりの展開である。
「メネウ……?その男か?知り合いは」
「あぁ、ラルフ、みんなごめん置いてって。呼ばれたから……、あー」
不自然に言葉を切ったメネウがセケルに視線をやると、セケルは笑って頷いた。
「こちら、神のセケル。セケル、こっちは俺の仲間のラルフ、トット、モフセン、ヴァルさん、カノン。さっきからロープに隠れてるのがスタン」
「知ってます。ずっと見ていましたから」
そうしてセケルが優雅に礼をする。
メネウと人外三体を除く一行は、一体何を言われたのかさっぱり分からなかった。
トットが呆然と呟く。
「神、さま……?」
「はい。トットくん、よく頑張りましたね。今は楽しいですか?」
神々しさを隠そうともしないセケルが微笑んで声をかける。
紳士服ではない礼服のセケルは、本当に神様なんだなとメネウが認識を新たにするのに相応しい神様ぶりだった。
セケルは一先ず皆を礼拝堂に座らせると、壇に立って改めて優雅に一礼した。
「冥界と芸術の神、セケルです。教会で名前くらいはお聞きになったことがあるでしょうか?」
ラルフとモフセンが居住まいを正す。知っている神なのだろう。
よろしくお見知り置きを、と言うと同時に全員の前に茶菓子とお茶が唐突に出現した。
「神らしいところを見せないと信じてもらえないかもしれないと思いまして、こうしてここまでご足労願いました」
どうぞ、と示されたのは地球の色とりどりのマカロンに、ケーキ、紅茶。モフセンには葛餅と羊羹に緑茶である。
いつのまにか自分のアフタヌーンティーセットも呼び出して、セケルは優雅にお茶を啜った。
もう一脚茶碗がある。メネウが目で尋ねると、セケルが首を横に振った。まだ秘密ということだろう。
「で、皆さんにお会いしたかった理由なのですが……」
「すまん、遅れた!」
礼拝堂の講壇、その上の天井から声がしたと思うと、地響きを立てて男が着地した。
セケルと同じようなひらひらとした白い服を着ている。体長2メートルはあるだろう大男だ。
赤毛を三つ編みにした大男の顔は精悍を形にしたような顔をしている。目が強く、光の加減で色が変わる不思議な瞳をしていた。
「自己紹介が済んだところです。あなたもどうぞ」
「おう!はじめましてだな、メネウ、それに御一行!俺はホルス、主神ホルスだ!」
どん、と厚い胸板を叩きながらの自己紹介に、メネウまでも目を丸くして驚いている。
「ん?セトは来てないのか」
「今頃ダンジョンに潜っていますよ、この辺にも最近できましたから」
飄々と世間話を交わす間に、一行はようやく息を吹き返した。
「主神ホルス?!」
「長生きはするもんじゃなぁ〜〜……」
「ぼ、僕でも知ってます!」
「うわぁ、ホルスたん大男……」
約1名は女体化のショックに呻いているが、セケルの登場とささやかな奇跡だけでも驚きなのに、主神の登場に声が大きくなる。
それをかき消すような豪快な笑い声をあげて、ホルスも茶会の席に着いた。
「で、主題は話したのか」
「ですから、自己紹介が終わったところです」
「そうか、では俺から話そう」
セケルの出した繊細なティーセットから紅茶を飲みながら、ホルスはまだ驚きの最中にいる一行に真摯な目を向けた。
「お前たちには、メネウの手伝いをしてもらいたい」
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