第52話 武器も新調した
さて次なる課題は武器である。
メネウはぶっ壊れ性能のステータスと手解きとそれを練習する時間を(チート性能で)捻出したので一通りの武器も扱えるが、トットはそうもいかない。
因みにラルフさんは今回も初期装備がレアものなので除外である。
トットの体力でも振るう事ができてそれなりに威力の高い刃物を入手したいところだ。ついでに練習も出来たら万々歳である。
加工産業都市というだけあって、武器屋も豊富だ。前日に紹介してもらった工房を兼ねた武器屋は、防具屋と違って小ぢんまりしていた。
というか、マーケットから外れて工業地区にある。
それでも生計が成り立っているのなら、腕の良さに起因するのかもしれない。
セティという部外者と共に長時間過ごすのなら、メネウも魔法を中心に一般的な武器で戦う方がいいだろう。
最悪魔法の補正は要らないので、棍棒として扱える丈夫な杖が欲しいところだ。
「こんにちはー」
そんなことを考えながら店内に入ると、如何にも頑固親父という髭面のガタイのいい男に迎えられた。
ただし、背丈はメネウの胸元あたりまでだ。なんだかパースがおかしい。
「あんだ兄ちゃん、おれの顔に何かついてんのか」
「いえ、何も」
小さい。
という事は黙っていた方が賢明だろうということは分かっていたが、表情に出ていたらしい。
「ハーフドワーフ舐めてっといてぇめに合わすぞゴラ!」
低身長の理由が分かって納得した。
エルフに次いで半分だけでもドワーフとは、メネウの目が輝こうというものである。
「舐めてませんお会い出来て嬉しいです!」
メネウは彼に近づくと振り下ろされそうな(上げられそうな?)拳を両手で握った。
「?!」
「生ドワーフ……! 居ないかなぁと思ってたけど生ドワーフ……!」
「ドワーフがそんなに珍しいかい、兄ちゃん」
「鍛治仕事と言ったらドワーフじゃないですか! 武器ください!」
「そうかいそうかい! 何でも言いな! 無けりゃ打ってやる!」
憧れの目で見られてすっかり気を良くした職人とメネウが二人の世界を作っている。
ラルフとトットは完全に置き去りである。
「あ、あの~……」
「お、兄ちゃんの連れか?! ……ん?! んん?!」
トットを見、ラルフを見、もう一度メネウを見てハーフドワーフの男は破顔した。
「あんでぇ、うちのカカァの客だな兄ちゃんら!」
「へ?」
「トンカチ亭だよトンカチ亭! ありゃ、うちのカカァの店だ」
意外なところで意外な繋がりがあるものだ。
女将さんから上客だと聞いていたのだろう。かなり機嫌よく対応してくれている。
確かにこの店も『トンカチ工房』である。トンカチ亭の名前はここからきているのだろう。
「ありゃもう20年も前ェだ。鍛治の腕を磨くため、いい水場と金属を探すために旅をしてたおれが立ち寄った村の、一番の美人がカカァでな……」
ラルフ相手に嫁自慢を始めたので、所狭しと並んでいる武器をトットと見て回ることにした。
最悪、メネウの武器は自分で作っても良い。だが何を描くにも資料は重要である。
その為にもプロの仕事を見るのは良い勉強だ。
トットは短剣の辺りを見ている。
メネウは杖を見ていたのだが、壁に掛けられたうちの一本に妙に惹かれた。
黒墨を掃いたような、材料は木の杖だろうか? 手を伸ばして触って見ると、とても軽い金属質の感触がした。アルミとは違う、簡単に傷はつきそうにもない。
「お、兄ちゃんはそれに目をつけたかい。そいつぁ俺の最高傑作の杖よ。何せ希少木材中の希少木材、天空樹の枝から作ったからな!」
やっと家族自慢から解放されたラルフも、その言葉を聞いて驚いている。メネウとトットは天空樹を知らないので、顔を見合わせて店主に鸚鵡返しした。
「天空樹?」
「ってなんですか?」
怪訝な顔をする店主にラルフが二人の事情を掻い摘んで説明する。
腕を組み鷹揚に頷いた店主が教えてくれた。
「そうかいそうかい、苦労したんだな兄ちゃんら……。天空樹ってぇのはな、その昔太陽の神が守っていたとされる、全ての源泉の樹だ。太陽が守っていたってくらいだから天空にあってな、たまに枝が落ちてくんだよ。えれぇ貴重な木材で、加工する奴の腕も問われるってぇ代物よ」
メネウ換算だと世界樹のイメージであっているだろうか。
「まぁ見た奴はいねぇって話だけどな! がはは!」
それでも枝は落ちてくる。だから『ある』とされているのだろう。
「持ってみても?」
「いいけど兄ちゃんに持てっかな? そいつぁ重たいぜ」
だから希少木材で出来ているにもかかわらず買い手が付かないらしい。
どれ、と持ってみたが、言われてるほど重さはない。むしろ、軽い。
(絵筆と同じくらいか……?)
店の中で振り回すわけにもいかないが、軽々と持ち上げた挙句に軽く振ってみせる。
「に、兄ちゃんえれぇ力持ちか……?」
「あー、その節はあるかも?」
それにしたって軽すぎる。
ポーチから絵筆を取り出して持ってみたが、やはり重さは『全く一緒』だ。
怪訝に思って見比べていると、店主が目をかっ開いて近付いてきた。見開いてどころでは無い。かっ開いてだ。
「に、兄ちゃん……その筆……触ってもいいかい……」
「あ、はい。どうぞ」
と言って、メネウは気軽に店主の手に筆を置いた。
「ふんぬっ!!」
と、店主が鉄の塊でも待たされたかのように手が一気に下に落ちる。ハーフドワーフでなければ商売道具の手が持っていかれていたかもしれない。
慌ててメネウは筆を取り上げた。
「間違いねぇ、こいつも天空樹製だ……!」
「え……」
「わぁ!」
「……」
ラルフさんその、また非常識か、って目はやめませんか?
頼んでもいないのだが店主はまくし立てている。ドワーフとはおしゃべりな種族なのか、彼が特別なのかはわからない。
「天空樹ってのは目に見える質量と重さが釣りあわねぇ。どんなカケラでもどんな大きな枝でも、重さは『変わらない』んだ。俺もこの杖の材木を持ってくるときは台車と人の手を借りたし、鍛えるのには数年かかった。重くて日に何度もは持てねぇからな。こいつは木材だが金属のように熱で加工すんだ。お陰で最高傑作だが……同時に売り物になんねぇんだよ」
メネウはそそくさと筆をしまうと、嫁き遅れの杖を見た。
頑丈そうだし、盗まれるリスクも少なそうだ。
「そいつの上、杖の魔力回路になってる装飾部分に持ち手があるだろう?」
これ、飾りじゃなかったのか。魔力回路なのか。
前世でも資料で散々元ネタのゲームをやったが、レアものになる度に派手になる杖の装飾がよくわからなかった。
同じにしていいかは分からないが、魔力回路とかいうものが魔法の威力を高める補正をしてくれているなら華美になる程その性能は高いのかもしれない。
この杖の装飾は、何やら複雑に入り組んだ太陽を象った装飾を施されていたが、確かに一箇所持てるような部分がついている。
「抜いてみな」
それを持って言われたままに装飾部分を抜くと、杖は仕込杖だった。黒光りする刃が明かり取りの天窓から入る光でてらてらと輝いている。
星を散りばめた夜のような刃だ、とメネウは思った。
「どうだい、兄ちゃん……この杖、買ってくれねぇか……!」
金はある。
買い手も長らくついていないようだし、頑丈そうで、メネウにとっては絵筆と同じ重さ。仕込杖なら近接戦闘にも向くだろう。
「あ、はい。じゃあこれもらいます」
「軽いな?! 値段とか性能とかいいのか?!」
「性能がいいのは見てたらなんとなくわかるんで……値段はある程度なら。長く使うものですし」
「……金貨80、出せるかい?」
「え、安くないですか?」
白金貨の3枚位は持っていかれると思ったのだが、そうでも無いらしい。
よく考えれば銀貨12枚で、庶民ひと家族が一年暮らせるのだ。それを考えれば充分、相当、高額だろう。
「カカァから聞いちゃいたが……とんでもねぇ兄ちゃんだな」
お前も苦労するな、という目でものすごく渋い顔をしているラルフの肩を店主が叩いた。
昨日の渋い顔ほどでは無いのでメネウは平気の平左である。適正価格ではあるが、お前はそんないい杖を使わなくてもいいだろう、という目だろうか。
「気に入ったし、これ貰います。名前はあるんですか?」
「武器に名前はつけねぇよ。使う奴の手に渡ってはじめて武器ってのは生かされるもんだ」
そうか、とメネウは杖を見て考えた。ネーミングセンスは無いが、これは天空樹の枝で出来て太陽を象り夜を湛えた武器だ。
「じゃあ、天空の杖だな」
メネウの周りの元素が、その呟きに反応して眩しいほどに光る。光は杖に収束して、一瞬で収まった。
「おどれぇた……、たまに居るが、見るのは何度目だろうな。片手で足りるくれぇだ。武器に気に入られたな」
そんな事もあるのか、とメネウは言われたままを納得している。だがラルフは奇怪なものを見る目で、トットは憧れの目でメネウを見ている。
「たまに相性がいいと、武器が持ち主を気にいるんだよ。気に入った武器は持ち主に合わせて成長する。買い替えの必要がねぇってこったな、ぶっ壊れねぇ限りは!」
天空樹の武器が壊れたって話は聞いたことがねぇ! と、店主は続けた。
これでメネウの武器は決まった。店主には手持ちの白金貨を一枚渡して20枚の金貨を釣り銭にもらう。
一品モノの武器はやはりそれなりに高いようで、それを見越してリードはこの店を紹介してくれたのかもしれない。メネウの残高など把握していて当然だ。管理している立場なのだから、それは経済を回そうとするだろう。
昨日多めにおろしておいて正解だった。
さて残るはトットの武器だ。
「おじさん、彼にはどんな武器がいいと思う?」
トットの肩に手を置いたメネウが聞くと、店主はトットの目の前に立った。背丈が同じくらいだが、モヤシと丸太である。
トットの手を見て、頭からつま先までを見て、ぐるりと一周回る。
「兄ちゃん、職業は?」
「れ、錬金術師です」
遠慮のない視線にトットが気圧されている。
店主はステータスは見ようとしなかった。
彼はきっと『知っている』のだ、レベルと能力が比例しないことを。
だから見ない。その代わり、本人を診る。
そして店主は少し唸ったと思うと、店の棚の端から短剣よりも小さなナイフと呼ぶのが相応しい刃物をトットに持たせた。
「これが良さそうだな」
裏手に試し斬りをする場所があるらしい。
店の裏口から出してくれたので出てみると、案山子のような藁の巻かれた丸太や、木の枝にぶら下げられた丸太がある。
「兄ちゃんたちは離れて見てな」
と、言われたのでドアの近くで見ていると、店主がトットに何事かを教えて離れた。
まずは案山子である。
暫く右手でナイフを構えていたかと思うと、痛い程に集中したトットの目が、瓶ぞこ眼鏡の奥で光る。
右手が一閃した、と思ったら丸太がバラバラの薪に、それでいて藁は一枚のゴザのようにはらりと落ちた。
「すげー!」
「何だ今のは……?!」
今度は木の枝にぶら下がった動く的である。
店主は丸太をブランコの要領で揺らすと、集中が続いているトットは今度は迷わずに丸太を薪にした。
「はっはっは、こいつぁおもしれぇ客が集まったもんだ!」
店主とトットが戻ってくる。
トットは頰を高揚させていた。自分でもびっくりしているらしい。
「こいつ、錬金術師としての腕は相当だな。おれはただ、アレを材料だと思って解体してみろ、って言ったんだが、目がいい。的確に見えてるぞ」
メネウもラルフも合点がいった。
確かにトットの採取・採集速度も、調合速度も異常である。
敵を、敵ではなく材料だと思うのならば。
錬金術というまな板に乗せたらトットにとっては材料だ。如何様にもできるだろう。
ただ、余程集中したり、しっかりと錬金術師と材料だと認識した場合に発揮される力だろうが。
まだまだ練習も実践も足りないので、ダンジョンは良い機会かもしれない。
「このナイフはこの兄ちゃんの手の大きさに馴染むし、何よりミスリルでできてる。魔力が馴染むから力で斬らなくて済む。こいつぁ杖のおまけだ、大事に使え」
トットは嬉しそうに頷いている。
ナイフを鞘にしまうと、ローブのベルトに挿した。
そして最後にラルフを一瞥したが、店主は何も言わなかった。
ラルフの武器も防具も、全く着られている感じがないのだ。
しっくりと馴染んでいて、手を加える必要を感じない。
メネウでさえまだ杖に持たされている感じがする。
これは武器の熟練度の差かもしれない。
現に、店主の目には絵筆を持ったメネウは相当しっくりときた。
(いやぁ、これはまた……ご贔屓にされてぇもんだな)
このパーティがどんな具合に育つのか見てみたい。
今はまだ、鍛え甲斐のある材料のように見える。
「兄ちゃんたち、その青髪の兄ちゃんのナイフが物足りなくなったらまた来な。待ってっからよ」
そう店主に見送られて、メネウたちはトンカチ工房を後にした。
ダンジョン攻略まで、あと1日。
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