第33話 大きな街には問題もあるよね
「……俺が匿う理由は?」
メネウの口からは当然といえば当然な疑問が出てきた。
ぶつかった相手をいちいち助けていてはキリがない。
「いえません。ですが、お役には立てます」
深々と頭を下げて少年は告げる。
その声はどこか機械的で、絶対に言うものかという覚悟が滲んでいる。
「誰から匿うの?」
「それも、いえません。……お役に、立ちますから」
頭を上げずに少年は言う。
どうしよう、とラルフを振り返ると、そこには物凄く嫌そうな顔で佇むラルフが居た。
まさか助ける気じゃないだろうな、とメネウを見下ろす視線の冷たいこと。
「トットくん、だっけ。何か困ったことがあるなら騎士ギルドに……」
「ギルドはだめです! 捕まってしまいます……」
ギルドに行ったら捕まるとは、物騒極まりないことだ。
ラルフは元職場をそう言われ、目の前の少年の必死さを加味して何事か考えている。
「ふむ……いいんじゃないか? この街にいる間くらい」
「ラルフ??」
普段の彼ならば鬼の形相で反対するはずだ。
というか今さっきすごい顔で見てたよね?
しかし、騎士ギルドに行ったら捕まる、の言葉に何か思い当たる事でもあったのだろう。
「うーん、そっか……おうちは?」
「……ありません」
メネウは正直、どちらでもよかった。
彼の宿代と飯代を保証するだけなら問題ない。
騎士ギルドに連れて行くのなら、それはそれで正しい行いだと思う。迷子は交番へ、だ。
匿うと言っても、できることは少ない。家が無いならゴールは見えないが、そこは一先ず考えない。ラルフが考えているようだし。
「じゃあ、俺の同行者のお許しも出たから暫くここに居たらいいよ。明日は俺たち採取に行くけど、来る?」
「行きます!」
トットは喜んで顔を上げた。
ちょっといいか? とラルフがメネウを軽く突いた。
スタンにトットの相手をしてて、とお願いすると、ラルフと並んで部屋を出た。聞こえないように用心として隅まで離れる。
「この街の騎士ギルドには、領主の息がかかっているという噂がある」
「……それは」
「裏が掴めず改革に至らなかった。そして、この街はもう一つ問題を抱えている。……違法魔法薬の蔓延だ」
前世でいう麻薬だろうか。
あんまりそこら辺は詳しくもなりたくないから訳知り顔で頷いておく。
「関係あるかはわからんが……、もし関係していたら大人しく帰すのも憚られる。一緒に行動していたらそのうち何か分かるかもしれんな」
「ラルフ、意外と積極的?」
トットの処遇に関してもだが、メネウの常識外れを正そうとすることはあっても、あまりメネウを巻き込むようなことをするような男だとは思えない。
メネウは単純に疑問に思って尋ねたのだが、ラルフはバツが悪そうに目を逸らした。
「……置いてきた問題だからな。もし解決できるなら、したいと思う」
「ラルフがそうしたいなら手伝うよ」
気負いなくメネウは承諾した。
ラルフは驚いてメネウを見る。勝手に因縁をつけ迷惑を掛けたラルフに対して、メネウはどこまでも自然体だった。
喉元過ぎれば熱さを忘れる、とは言うが、些か忘れすぎではないか? と、ラルフの方が心配になる。
「ラルフがこの後も俺と気持ちよく旅をしてくれる為にも、俺に巻き込まれてばっかりじゃなく、俺もラルフに巻き込まれておきたいっていうか……」
お互い様だと言いたいのはわかるが、相変わらず言葉が不自由なメネウであった。
ラルフは、く、と喉奥で笑うと、誤魔化すように咳払いをした。
「では、トットの問題を解決しながら冒険者のランクを上げる。当座の目標はこれで構わないか?」
「それでいこう」
スタンと戯れているトットは知る由もないのだが、ここに、現在この街で最強の二人が偶然彼の味方をする事になった。
これは、トットの不運を覆す出来事の始まりなのだが、それはまだ誰も知らない。
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