第27話 風の一家社風滅課

「マムナク様、こちらは……」


 メネウの言葉を受けて、青年エルフがマムナクに尋ねた。


「すまぬ、皆。我は街に助けを求める途中、間違って彼らにぶつかり、面倒をかけたのだ。増援は来ぬ」


 マムナクがボロ布を握りしめて俯き語る。落胆の声が上がったが、同時に無事を喜ぶ声も聞こえた。


 信頼されているのだろう。


 深刻そうな空気を解そうと、メネウはまぁまぁと彼らに声をかけた。


「まぁ焦ることは無いからさ、話を……」


「我の不覚で皆にも迷惑をかける。今後食事も減ることだろう、それで死ぬ者が出ぬよう我も魔力を分け与える。なんとか生き延びて欲しい」


「話……」


「分かっております。何、今残っているものは皆マムナク様には劣るとも高い魔力を持っております。しぶとく生き延びて見せましょうとも」


「話を聞けって!」


 さすがにエルフの一団も驚いた顔でメネウを見た。ラルフはメネウの隣で目を閉じている。成り行きを見守るようだ。


 不自由な手で頭をかいてメネウはため息を吐いた。


(ぶっちゃけ巻き込まれちまっただけで、俺らが逃げて騎士ギルドに報告するんでもよかったんだけど……まぁ、ついでだ。犯罪組織は壊滅、遅いか早いかの違い!)


 そう自分を納得させて、まぁ座れよ、とエルフたちに促した。


「マムナクの言った通り、俺たちはたまたまぶつかっただけ。でも、この状況をなんとかできると思う。だから落ち着いて、説明をして欲しい」


 メネウが改めて告げると、顔を見合わせたエルフたちを代表して先ほどの青年エルフが話を始めた。


「俺はこのエルフたちの村長、ヤッソン。マムナク様が巻き込んでしまったようですまない。なんとかできるというのは……本当か?」


「あぁ、たぶんね。マムナクからある程度は話を聞いているから、風滅団とこの砦について教えてくれ」


 青年はマムナクに目配せをした。互いに頷きあった事から、メネウたちを頼るしか無いと決めたらしい。


「風滅団は、エルフ専門の奴隷商だ。風の一家のうちの一柱で、風の一家というのが奴隷商を営んでいる大元だ。かなり昔からある一家でな、エルフの間では風滅団は天敵として恐れられている」


 ここを抑えてるのは大きな会社の一部門って感じなのか。どうりで結界師なんかもごっそり雇えるはずだわな。


「人間の寿命よりエルフの寿命は長い。金持ちの中でも高齢の好事家に売られて、死んだら回収してまた売りに出す、という事を繰り返している。組織だから今の頭領……ハーハルが引退してもすぐ次のまとめ役がくる。実際ハーハルが来たのはマムナク様が生まれた頃だ。どれだけ儲けてるのかはわからんが……この村のエルフを抑えておいて年に2~3人売り出すだけで相当な利益を得ているみたいだ」


 天敵、というだけあってかなり内部事情に詳しいな。


 風滅団を潰すなら風の一家に睨まれる、って事は覚えておこう。態々潰しには行かないけども。


「私は一度戻された身だけど、奴隷の扱いは酷いものだったわ。それに……売り出すのに連れて行かれる時には、元素遮断の首輪を付けられるの。魔法での抵抗は一切許されないわ」


 エルフの女性が暗い表情で告げた。何度も奴隷生活を繰り返す、というのも辛いだろう。まして一度戻されて、また出荷されるのを待つというのは相当な苦渋に違いない。


 ヤッソンが続ける。


「この砦は常に結界師が複数人で元素遮断をしている。だが、マムナク様は結界師を軽く凌駕する魔力の持ち主だ。だからこそ、体の成長が終わるのを待ち能力が定着したところで、結界を破って外に助けを求めにいかれた」


 そして俺たちに出会ったわけですね、了解。


 メネウはそこで一度考える。


 手元にはスケッチブックと絵筆がある。


 ラルフには後でどやされるのを覚悟の上で使う事は決定として、組織は思った以上にでかいようだ。


(迅速、かつ圧倒的な制圧となると、一人じゃ厳しいな)


 メネウだけならあの短剣もあるのだし、ここから抜け出して時間操作で制圧は難しくない。穴さえ開けてしまえばラルフは適当に自分で抜け出すだろう。


 だが、エルフたちの安全も確保した上で(なんせ身体能力は一桁だ)制圧も行うとなれば、自分が動くのは好ましく無い。


「ピロ!」


 明かり取りの窓から、スタンが入ってきた。


 小さな姿で追ってきたので時間がかかったようだ。


 入ってすぐ、メネウとラルフの縄を嘴でむしってくれた。


(スタンか……スタン……ホルスたん……、そうだ!)


 自由になった手でスケッチブックと絵筆を取り出したメネウは、エルフたちに向き直る。


「今からこの砦を『数』で制圧する」


 不敵に笑ったメネウは、さっそくスケッチブックに筆を滑らせた。

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