第109話 実は俺はケモナーなのかもしれない

 今日2月16日…晴れ。


 諸々の嵐は通りすぎて改めて我が家に平和が……いや、実際一年中こんなだからあんまり平和とか無縁なのだが。


 4柱の妻を迎え入れたあの後、とりあえずそれぞれ我が家に住むための荷物を運んでいたらいつの間にか夜になり自然と晩御飯、お風呂、就寝!


 と、いった感じになった。


 もう新しい家族が加わることに皆慣れすぎでは?


 あと妖怪マフィア達が帰り際に「かしら!お疲れ様です!」とか言ってたんだけど…。


 …あれ?俺はいつの間に彼らの頭目になったのでしょうか…。


 一切説明無かったのですがそれは…。


また俺のクソ中二ネームに尻尾がつきそうである。


 今、我が家のリビング人口は少ない。


 いるのは俺とツクモ、


 こたつの両脇から上半身だけ出しているツァトとチャウの駄目神コンビ、


 …そして自身の妻たちから追加のバレンタインデーチョコをバケツで貰いその中に沈められたニャルくらいだ。


 …バケツは揺れすらしていない…南無。


 ん?他の妻たちはどうしたかって?


 さゆりとクロネ、アサトとヨルトとネムトはヒュプノスを連れて寝室の方へといった。


 何でも人見知りを治すための方法を思い付いたらしい。


 実際これからうちで過ごすなら皆と顔を合わせるし毎度気絶していたらヒュプノスももたないだろうしな。


 フェンリルは一度家に帰って結婚報告をするとのこと。


 ウタウスはフェンリルと同じように所属事務所に報告をしに行っている。


 まだ現役アイドルだしね。


さすがに知らせないわけにもいかないだろうし。


 …本人は「せっかくの蜜月を邪魔されないように少し休暇とってくるっす!」とかいってたけど。


 そんなこんなで今リビングで動いているのは俺とツクモだけである。


 だが俺の正面にいるツクモは身動ぎ一つ無く一心不乱に俺を凝視していた。


 ……居心地が非常に悪い!


「…つ、ツクモ?流石にそこまでじっくり見られると恥ずかしいんだけど…」


「…はっ!?す、すいません!」


 特に意識無くやっていたのか「はっ!?」とした彼女は赤らめた頬に手のひらを当てて恥ずかしそうにしている。


 尻尾もブンブンと横に動いているあたり、かなり動揺しているようだ。


 恥ずかしそうに「しゅん…」と縮まった彼女はそのまま伏せ目にこっちに視線を向け口を開いた。


「…申し訳ありません。こうしてナユタ様の妻になれたという現実に未だに実感が湧かず…つい」


「別に謝る必要はないって。

 それに敬語とかも別に外していいんだぞ?」


「あっ…いえ!これが私の標準語と言いますか…その…妖怪を束ねる神をしていた間は丁寧な言葉より黒い言葉を使っていたのでこちらの方が落ち着くのです」


?」


 意図が汲めず頭を傾げる俺。


 するとおずおずとツクモが例をあげた。


「はい…その『ドラム缶でコンクリ海水浴』だとか『小指一本のお支払』とか『一族郎党皆滅』とかでして…」


「…あー、な る ほ ど」


 聞かなければ良かったかもしれない。


 マフィアこわい。


 そういえば最初に会ったときも口調少し違ったもんな。


 流石妖怪の神。


 そこまで考えてふと俺は思い出す。


 夢の中でツクモを妖怪の頭仕立て上げたのは他でもない俺だということを。


 あの後、うちのニャルに事情を話して聞いてみたところ…。


『それはお前あれだよ。時空間湾曲?たぶん不安定な夢と不安定な場所が繋がってたんだろ。

 時間と空間を超越してさ』


 …とのことで。


 つまり俺は夢の中で200年前のマヨイガに行って妖怪の戦争を止めたのだそうだ。


 だか裏を見てみればツクモを妖怪を束ねる存在…神にしたのは俺だったのだ。


 あのときは夢だと思って即席の解決方法を実行しただけだったが今となってはツクモを200年間も辛い仕事に縛り付けたことに他ならない。


 今となっては悪いと思い俺は少し気まずさを覚えたのだった。


 俺が目を泳がせていたそのとき、今度は慌てたツクモがこっちに口を開く。


「…あっ!すみません!ナユタ様にこのような話をしてしまい!」


「あー…いや違うよ別に今の話が嫌だったとかじゃなくてさ。あのときは善かれと思ってツクモに大役を任せたけど、俺のせいでツクモは200年もの間やりたくないことに費やさせたんじゃないかって今更ながら後悔をな」


 俺の言葉を聞いたツクモが驚きの表情で短く『きょとん』とした後、嬉しそうな笑みを浮かべる。


「そんな顔をなさらないでください。大変ではなかった…と言えば嘘になってしまいますが、我が一族の悲願は果たされました。ナユタ様が釘を刺しておいたお陰で今もほとんどの妖怪達が仲良くしております。なによりこうして神へと至りまたナユタ様のお側に居られるだけでも私は充分に幸せですので」


 屈託ない笑顔でそう言ってくれるツクモ。


 狐耳と尻尾を生やした天使がおる!


 どうしようもなく我が家のお狐様が愛おしくなった俺は空間魔術で向かいにいたツクモを膝上へと転移させる。


 突然のことに驚いた彼女を着地と同時に抱き締めると「あっ」と小さく声を漏らす。


「な、ナユタ様?」


「俺の奥さんになってくれてありがとうなツクモ」


「…はい、こちらこそ」


 話すよりも互いを感じたくなった俺たちはそのまま口を開かずゆっくりと二人の時間を過ごす。


 抱き締めたまま目の前で揺れる耳や尻尾を優しく撫でて俺は他の皆が戻ってくるのを幸せそうなツクモと待つのだった。



 ◆◆◆◆◆



 しばらく経ち。


 俺がツクモの大きくなった尻尾の気持ちいいところをマスターしていた。


「ふふふ…ここが良いのか!ここが良いのか!」


「ふゃぁ…ナユタ様ぁ…」


 我が撫でテクによりツクモがフニャフニャになっていたそのとき隣の寝室から家の妻たちが一斉に出てきた。


 そして可愛いがられているツクモを見たアサトとヨルト、そしてネムトが凄まじい動きでこちらに動く。


 …は、はやい!このナユタの目をもってしても見切れなんだ!


 気がつけば左右にアサトヨルト姉妹、背後にネムトが俺に背を預けている。


 これぞ『無言甘やかしての陣』もはや俺には甘やかす以外の道はないのだ。


それにいち早く気がついたツクモは正座に直り、

 少し離れた位置から「どうぞどうぞ!」と席を譲っている。


 ええ娘やでぇ…。


 後で内密に愛でようぞ。


 さて…彼女らが出てきたと言うことは、


「上手く行ったのか?」


 アサト達を撫でながらさゆりとクロネにそう問うと二人は親指を立てる。


 どうやら上手くいったらしい。


 すると二人の後ろからてちてちと独立型ヒュプノスが姿を表した!


 俺に抱き抱えられていないと意識を失っていたヒュプノスが立派に二本足で立っている。


 …立った!ヒュプノスが立ったわ!


 一瞬某アルプスが見えた気がしたが気のせいだろう。


 頑張ったヒュプノスを誉めようと思ったそのとき、ふと彼女の目が遠くを見ていることに気がつく。


 なんとなくだが正面を向いているのに前を見ていない感じがある。


 不安になり彼女の前で手をひらひらするが全く反応がない。


 だが代わりに虚ろな目のヒュプノスの口から第一声が放たれた。


「…ボ、ボク…ナユタ君…妻…ナッカーマ……運命…ナッカーマ…一心同体…ナッカーマ…」


「ヒュプノスさん!?」


 明らかに正常ではないのですが!?


 思わず『ブンッ!』と首を振りさゆりとクロネを見ると二人とも目を逸らしていた。


「ええとね…最初は上手く言ってたんだけど途中からだんだん難しくなって…」


「…仕方ないから途中から強硬手段にでたのじゃ」


「……その強硬手段って?」


「「 ……そ、それは… 」」


 この後、二人の口から出た手段に絶句である。


 なんと現実世界で起きている間に耳元で「私達は奥さん…つまりナッカーマ!」と言う言葉を言い続けてヒュプノスが意識を失ったら今度は夢の中に入っているアサトとヨルトとネムトが囲って「ナッカーマ!」をかごめかごめ状態で言い続けたらしい。


 そして結果この有り様である。


 他の妻たちを見ても意識を失わなくなったとのこと(正気は失っている)


 これは良くなったのか悪くなったのか。


 ちなみにこの後、目が覚めたチャウグナーが寝ぼけて抱き締めたことでヒュプノスは泡を吹きながら痙攣するという大惨事になりましたとさ。


 どうやら俺の妻以外はまだ駄目なようだ。


 とりあえず俺はさゆりとクロネに罰(さん付け丁寧語)を与えしばらくさゆりとクロネが涙目になっていたのでした。


 そんないつも通りの家族の光景を見て楽しそうに笑うツクモが我が家に馴染むのもそう遠くはないだろう。



 今日の我が家も平和です。

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