第95話 ようやくいつもの冬ですよ
ヒュプノスはうちに居候することになった次の日。
我が家は変わりないだらだらな日常が戻ってきた。
そも冬なんてキッチンとコタツの間くらいしか動かないことが正常だと俺は思う。
……思わない?
俺?もちろん現在コタツです。
今日の来客はフェンリル、イグさん、信長一行、ナチャさんの計6柱。
ちなみに来客とは言ってはいるがイグさんは昨日コタツで狩ゲーをしたままその場に残っているので実際はお泊りです。
夜通しでゲームをやっていたため今はコタツから上半身を出し息絶えている。
口からは「…天鱗…出ない…出ない…」と寝言を言っているため夢見はあまりよくなさそう。
まぁそんなイグさんは放っておいて。
今現在の我が家では3つのグループに分かれて皆思い思いに寛いでいた。
コタツから体を出して寝ている組。
テレビの前でテレビゲームをやってる組。
食卓で雑談をお茶とともに楽しむ組。
もちろん先にも言った通り俺はコタツから上半身を出してダラーと寝ている組みである。
お供はヒュプノスとフェンリル。
ヒュプノスはとりあえず俺に引っ付いていれば多少他人の前にいても大丈夫だということは昨日解明済みなのでコタツに入っている俺に抱きしめられて気持ちよさそうに横になっている。
まぁ俺が逆に俺がいないと寝ているのか意識を失っているのかわからないので当分の間はこの状態だろうし。
これに関しては我が妻たちも了承済みである。
さゆり曰く「多分もうすぐ家族になるし!」とのこと。
……どゆこと?
で、もう1柱一緒のフェンリルはというと…
「…わふー……わふー…」
気持ちよさそうに狼耳をぴくぴくさせながら俺の横で丸くなっている。
コタツに直接入るのではなくコタツの横にちょっと温い布団の上に。
以前あった時は薄い布みたいなのを纏っていたんだがうちの妻たちが…
「その格好だといろいろ危ないから服を着せる!」
とのことで、お風呂に担ぎ込まれた後、フェンリルの毛のように白くてモフモフのセーターと肌触りの良いスパッツを我が妻たちに着せられた。
最初着せられた時は「がうぅぅぅ!服なんて鬱陶しいぞぉ!」と威嚇して爪でカリカリしていたが俺が似合ってる旨を伝えると「ほんとか!じゃあ着てる!」と嬉しそうにこっちに飛んできた。
申し訳ないが飼い犬のようで可愛いです。
でもなぜか「俺いい仕事した」と思い妻たちの方にちょっぴりドヤ顔をするが妻たちは「う~ん」と唸っているのだった。
何かしてはいけないことでもしているのだろうか?身に覚えは一つもないが。
…と、こんな感じのやり取りの後でコタツに潜り込んだ俺たちは、
コタツという名の洞窟から出れないのである。
あと昨日気が付いたが何故かうちの屋根裏に通販の手先であるうちの眷属が支部を作っている模様。
何してんねん。
空間ごと抹消しようかとも思ったのだが…通常販売されていないものとかを注文するときには便利なので見逃してやることにした。
次に視点を当てるのはテレビの前の組だろう。
チームを組んで3対3のチームマッチのパーティーゲームをしているらしい。
チームはアサト、ヨルト、ベルの外宇宙チーム。
それに対するのは信長さん、光秀さん、秀吉さんの本能寺チームだ。
「…ん…補助アイテム…投げる…」
「了解。獲得」
「お姉ちゃん!ベル!相手攻めて来るよ~!」
「「 了解 」」
「信長様!その先には罠があります!」
「かっかっか是非もなし!」
「いや是非もなしじゃなくて!?くっ!?秀吉!」
「任せろ光秀!…突貫…だなっ!」
「違う!罠つってんだろ!?」
「「 ああああああああああ!やられた~!? 」」
「…………言ったじゃないですか…」
とても楽しそうにやってる光景を見ると心が和むというものだ。
約一名心労を募らせている気がするが。
後でチューハイをあげよう。
………いかん、だんだん眠くなってきた。
俺の背中に抱き着いているフェンリルの温もりがさらに眠気を加速させる。
……瞼がぁ…瞼が閉じるぅ~……。
最後に食卓側でお茶を手に談笑しているさゆり、ネムト(大人)、クロネ、ナチャの会話を聞く前に俺は睡魔に負け瞳を閉じる。
………スヤァ…。
◆◆◆◆◆
コタツから上半身をくるくるしていたナユタ君が遂に力尽きたのを横目で見ながら私は笑う。
腕の中には気持ちよさそうなヒュプノスちゃん、背中にはフェンリルちゃんが引っ付いていて、その姿は私から見たらちょっぴり羨ましい。
そんなことを考えていると脳裏に茜さんの言っていた言葉を思い出す。
曰く「とにかく押せ」とのこと。
…思いっきり抱き着いて甘えたりすればいいのかな?
…それとも茜さんの言ってた…あ、あんなこととか…?
う…そんなことしてナユタ君にはしたないとか思われないかな…。
駄目だと思いつつも脳裏でナユタ君に甘える自分を想像して熱くなる頬に手のひらを当てていたそのとき、
「さゆりっち!なになに!考えごと!」
「ひゃっ!?なんでもない!なんでもないよ!」
隣に座っていたナチャさんから声をかけられ焦って声が上ずんでしまう。
言えない…ちょっぴりえっちなこと考えちゃったなんて口が裂けても言えない…。
欲求不満なのかな…。
私が一人落ち込んでいると何やら首を傾けて頭の上に「?」を浮かべていたナチャさんが私の肩を優しく『ポンッ!』と叩く。
「…大丈夫!誰だって性欲はあるからね!」
なんでばれてるの!?
何故か心を読まれた私は咄嗟に思いついた質問をナチャさんにぶつけることで事態を有耶無耶にすることを図る。
「そ、そういえば今日はウタウスさんと一緒じゃないんだね!」
「うー?あー、ウタウスっち今日仕事だかんね。私は休みだけんども」
「やはり年明けから忙しいんじゃの」
「まーね。
でも最近ウタウスっちスランプだから調子あんまりよくないんだよねぇ~」
「そうなの?」
「そ、あることが原因でね~」
いつも通りのように見えて彼女が困っていることに今ようやく気が付く。
一応私もウタウスさんの友達に含まれているはずだし…出来ることがあるなら協力した方がいいよね?うん、よし。
「ねぇナチャさん、良ければ私にそのウタウスさんのスランプを解決するお手伝いをさせてもらえないかな?」
「ふむ、まぁそうじゃな。
知らぬ顔というわけでもないし我らでよければ協力するのじゃ」
「そうですね、私たちでよければ協力させてください」
「…う~ん…いいけど多分解決は難しいかなぁ」
私に同調してくれたクロネさんとネムトさんが一緒になってスランプ解決に力を貸してくれるというがナチャさんの反応は何か微妙な感じだった。
私達じゃ力になれないのかな?
でも少しすると口を開いたナチャさんからスランプの内容が言い渡されました。
「実は最近さぁ…ウタウスっちの曲を作る速度が物凄く上がってるんだけどさぁ…
ジャンルがラブソングしかできなくてね?」
「ウワァ、ソレハタイヘンダナァ…」
「ソウジャナァ、ココロアタリガ、ヒトツシカナイノジャ」
「ドウシヨウモ、ナイカモ、シレマセンネ」
目を逸らして話すナチャさんと遠い目をする私たち。
思った以上に身近で…しかも知ってる内容の悩みでした…。
「実際問題このままラブソングを量産されても困るんだよね…。
『さっさと思いを告げて引っ付いちゃってよ!』って感じなんだけど…実際今の様子じゃ何百年先になるかわかんないし…」
「逆にナユタ君側に気づいてもらう…のは多分無理だろうなぁ…。
ナユタ君の唯一の欠点だし…」
「そのせいで逆に惹きつけられるというのもあるんじゃがの」
「いっそ本人の意思を無視して、
こちらで彼女の想いを告げるというのはいかがでしょうか?」
「う~ん…難しいと思うんだよねぇ…。ウタウスっちの今までの行動的に多分…、
『違うっす!誤解っすっ!』とか言って全力で逃げると思うんだよね」
「ありそうなのじゃ…。
しかもその後、顔を出しづらくなって最悪うちに遊びにも来なくなる可能性も…」
「あるかもね…。そのまま自殺コースまで思慮の内に入るよ…」
「せめてどなたかが旦那様に告白してそれに便乗できるような場面でもあればいいのですが…クロネさんの時のように」
割と解決方法の無い現状に気が付いた私たちはため息を吐く。
恋の悩みは…時間をかけるほかないと私は思うの(経験談)
「ウタウスっちのことは一旦置いておいて…私はさゆりっちがここに来る前の話を聞きたいなぁ!」
「私の話?」
「そういえば簡単な話しか聞いたことはなかったの」
「そうですね。たしか探偵事務所を手伝っていらしたと」
「あははは…あの頃はけっこうどたばたしてたから…。
話す内容には困らないかも」
「それは僥倖、僥倖!聞かせてくれたまへ」
「ふふっじゃあまず探偵事務所が立ち上がったところからかな?
あれはね……」
ナチャさんに急かされながら私は昔のことを今のように思い出し、
楽しく語っていく。
そしてふと一つの疑問が脳裏を過る。
…そういえば彩芽ちゃん年末も年明けも連絡ないな。
いつもならLINEの一つでも送ってくるのに。
たぶん有馬探偵事務所の仕事だと思うけど…今ごろ何をやってるんだろう?
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