第17話 あけましてオメデゴッド

 今日は12月31日。

 そう…今日は今年の終わりである。

 いよいよ明日から新年。

 そんな中、俺達は…コタツの中でヌクヌクであった。


 前回のことで「コタツ小さいな…」と思った俺は思いつきを即実行。

 コタツは全員で入っても問題ないくらい大きくなりました。

 横に並んで4人くらいは入れるぞ!ええやろ!


 そんなわけでコタツが大きくなりました。

 そして今は冬です。寒いです。

 当然みんなコタツに入ります。

 そしたらだらけて全員動かなくなりましたとさ。


 仕方ないね。コタツには「廃人製造機」という異名がある。

 みんな犠牲になったのだ。コタツの犠牲にな。


 俺は両脇のアサトとベルに挟まれて寝ている。

 幸せそうな二人を撫でてさらに幸せそうな顔にしつつダラダラ。


 とかやっていると廊下から誰か入ってくる音が聞こえる。

 むむ?誰か来たかな?


 出迎えないといけないので二人から離れてコタツから出る。

 そしてコタツから出たところで扉が開く。そこには…


 深紅の髪をツインテールにし、赤色のドレスを着た女の子がいた。

 誰だろ?

 困惑している俺に赤い子が話しかけてくる。


「お邪魔しまーす。えーと…あっいたいた。あなたがナユタよね?」

「えっとそうだけど…誰だ?」

「私?クトゥグアっていうの。よろしく」

「ん。よろしくな。…で、今日のご用件は?」

「んとね…ニャルよ。というか私はいつでもニャルラブだから」


 ……はじめて来た神がどんなかと思ったらなんとニャルを好きというなかなかあれな神だったでござる。

……でもまっすぐ真剣に言ってるあたり…ほんとにニャルのことが好きなんだという気持ちが伝わる。

 悪い神ではなさそうだな。


「ニャルなら自室で何かしてたような……そこの部屋」

「そっか…ありがとー」

「どーいたしまして」


 奥の部屋にクトゥグアが向かう。そして扉を開けたクトゥグアが首をかしげる。


「誰もいないわよ?」

「ん~?いや確か出かけてないはずだけどな?」


 俺とクトゥグアがそんなやり取りをしている間にコタツの中から一匹の子猫が出てくる。そしてニャルの部屋に入ると……


「にゃ~」


 と鳴きながら壁を引っ掻く。すると…


「いててて!やめやめ!」


 壁に擬態していたニャルが出てきた。

 おめーはカメレオンか。



◆◆◆◆◆



 擬態を解いたニャルがおとなしくリビングに移りコタツに入る。

 そしてその横にクトゥグアが一緒に座る。


「えへへーニャルとコタツ―」

「ぬわっ引っ付くな!」


 ここだけ見ればすごくいい雰囲気だ。

 だがなんかニャルは嫌そうだ。


「ナユタータスケテー」

「何でカタコトなんだよ…いいコンビじゃないか。クトゥグアー応援するよファイトー」

「なんで応援してんだよ!それにどこがいいコンビだ!」

「ありがとナユタ。さすがニャルの気に入った友人ね!」

「なんでお前ら地味に仲いんだよ!」

「誰かを好きになるっていう共通点があるからな。なー」

「ねー」


 新しい友神は思いのほかすぐに仲良くなれた。

 クトゥグア曰く、「私はニャルに一途なの。殺して燃やして抱きしめるくらいに。ニャル以外には手は出さないしねー」とのことだ。


 ある意味のニャルキラーでありニャル以外にはよき友になってくれる。

 これほどわかりやすい神も他にはいないだろう。

 しかもちゃんとニャルを燃やすときにニャル以外に影響がないように心掛けてくれる。なかなか(ニャル以外には)いい神様である。


「お前も結婚すればいいじゃんか。奥さんはいいぞ~」


 そう言いながら俺はアサトの頭を撫でる。

 しかしクトゥグアから思いもよらない言葉が出る。


「えっ?ニャル結婚してるわよ?」

「「「えっ?」」」


 その場にいた俺とアサト、ツァトグアが驚く。

 いや…だって…ねぇ?


「はっはっはー!俺がいつ結婚してないと錯覚していた?」


 ニャルが若干勝ち誇っていたが…その後のクトゥグアの言葉で凍り付く。


「…そうそう今ので思い出したけど…イホウンデーが探していたわよ?」

「えっ?それまじ?」


 といった状況でリビングの扉がまた開く。

 そしてバーストが入ってくる。


「お邪魔するのじゃ。……なんじゃ?この空気は?」


 その場の混乱に巻き込まれたバーストは終始頭に「?」を浮かべていた。



◆◆◆◆◆



 ―――その後

 

 俺はここにいるみんなにそばを出す。

 年越しといったらそばだよね。

 コタツでみんな揃ってテレビを見ながらそばを食べる。


「エビ天。美味」

「……あったまる…」


 幸せそうにアサトとベルがそばを食べている。

 なごむ光景だ。一方その横では…


「ニャル!口移しでどうかしら!」

「なんでや!ていうかお前絶対口の中に炎送ってくるだろ!引っかからんからな!」

「ちっ!」

「今、お前舌打ちしただろ!?」


 なんか騒がしいがこれはこれでいい気がする。

 んでさらにその隣。


「にゃっ!?し、舌が…舌が…」

「やっぱり神でも猫舌なんじゃなぁ」


 そばを食べようとして舌を焼いてしまったバーストとその横で様子を見ているツァトグアの図。

 舌を焼いて少し涙目のバーストがすごいかわいいですね…ごちそうさまです。


 とやっているとテレビを指さしながらアサトが俺の服を引っ張って呼んでくる。


「どした?アサト?」

「…あれ……なにしてるの?…」

「…ああ、あれは除夜の鐘だ」

「……?…」

「要するに年を越すときに鐘を108回鳴らすっていうおまじない…みたいなものかなぁ」

「……なるほど…」


 興味深そうにテレビを見るアサトにツァトが追加で解説をする。


「人間には108の煩悩があるから鐘をその数叩いて煩悩をなくす…とか何とかだったな」

「……煩悩…つまりニャル?…」

「オウ!誰が煩悩の代名詞だ!!ナユタ弁明してくれ!」

「はいはい……いいかアサト…こいつの化身は沢山いる。つまりこいつの煩悩はな…108×化身で計算しないといけないんだよ。……108どころじゃないんだよ…」

「弁明は!?」

「肯定しかないわ」


 俺達がじゃれ合っているうちにアサトがコタツから出て俺の横に来る。

 そして「うちも除夜したい」と小さく耳打ちしつつニャルを指さししている。なるほど煩悩の神に粛清の時か…


「ニャル~、アサトが鐘を叩いてみたいみたいだ。だけどもうすぐ年を越すし…いまから行くのはさすがに間に合わない。そこでだ…お前が鐘になることで代用しようじゃないか」

「えーめんどい…」

「その間はクトゥグアには傍に行くのは我慢してもらうから」

「この心優しき神『いつもあなたの後ろに這い寄る良神ニャルラトホテプ』に任せるがいいさ!」


 そう言ったニャルはコタツから勢いよく出る。

 コタツの布団がめくれるから静かに出てください。


「とう!」


 勢いよく雪の降る庭に飛び出したニャルは空中で体を変化させ大きく古びた鐘に姿を変える。

 そして鐘から元気な声が響き渡る。完全に怪奇現象である。


「さぁっ!こいアサト!」

「……ん…」


 鐘の前に行ったアサトが何かする。すると…景色から色がなくなり振っていた雪が止まる。どうやら時間を止めたようだ。

 鐘の前に行くアサト。

 色がついてないからわかるが…あれって鐘になっているニャルも時間止まってるんだよなぁ。年を越す前にニャルを108回くらい殴るらしい。


「……108回…108回…」


 回数をつぶやきながら拳を構えるアサト。


「……おらおらおらおらおらー……」


 掛け声はものっそいゆっくりだが振られている拳は音速を超え手がたくさんに見えるくらい速い。

 それから少しして108回殴ったのかアサトが屋内に戻ってくる。

 その後、


「…そして時は動き出すの…」


 とアサトが言う。

 その瞬間色失われていた世界に色が戻ってくる。

 それと同時にニャル鐘から大きな音が鳴り空の彼方へと飛んでいく。


「あああああああああー…ハッピーニュー嫌ぁー」


 ニャル鐘が雪が降る空の向こうに「ゴーンゴーンゴーン」と音を出しながら飛んでいく。それをみんなと笑いながら眺める。

 こんな年越しもありだろう。


 そんなことしているうちに時計の針が「カチッ!」と鳴り時計が新年を告げる。


 俺達は笑いながらお互いに年越しの挨拶をする。


「皆!あけましておめでとう!」


「「「「「あけましておめでとう」」」」」


 こうして新しい年をみんなで仲良く迎える。



 今日も我が家は平和です。…そして今年もよい年でありますように。

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