第15話 妻と猫 下 +燃え盛るヤンデレストーカー

 イチゴの買い出しに行っているニャル。そこそこ時間はかかった。

 だが満足のいくそこそこいいイチゴが手に入った。


「さっさと帰っておくか。あの二人だとときどき化学反応起きてとんでもないことするからなぁ」


 そう呟くニャルの上に燃え盛る太陽が突然現れる。

 瞬時に対応したニャルは自分と小型太陽とそれを生み出した者を転移させる。場所は北極。


「っと。危ないなー。つーかお前まだ追ってきてたのかよ!いい加減にしろよ!クトゥグア!」


 そう叫んだニャルの前に一人の少女が現れる。

 髪は炎のような赤色。長めのサイドテールでワンピースを着た16歳くらいの少女だ。


「アハハハハ!こんにちわ!ニャル!今日も愛しいあなたを燃やしに来たわ!」

「俺もそこそこあれだけどさぁ…お前のその「好きだから燃やして、灰にして、抱きしめる」っていう謎の性癖やめてくんない?」

「いやよ。今日こそファイヤーしてバーニングしてブレイズするんだから!」

「全部同じなんだよ!!!」

「火加減が違うもの」


 そうして交戦しようとするクトゥグア。いつもならこのまま適当にやり過ごすニャルだが…今回は別だった。


「悪いな。今回は遊んでいる暇はないんだわ。ようやく成長したうちの主神の晴れ舞台だからな。少し本気でいかせてもらうぞ」


 そう言い放ったニャルの周りに幾千幾万の魔導書が現れる。

 これはニャルラトホテプの本気の戦闘態勢だ。

 それを見たクトゥグアの様子が変わる。


「……本気なんてあなたらしくないわね。そんなにあの場所が気に入ってるの?」

「まあな。おかげで最近は暇してないし。居心地いいんだよ…あそこ」

「フーン。……わかった。今回はいいわ。けど今度あの家に私も行くわね。少し興味がわいたし。じゃあね…アハハハ!」


 返事を聞かずにクトゥグアは去っていく。


「………ふぅ。なんとかイチゴは無事だな。…まったく…なんでイチゴ買うのにこんな苦労しなきゃいけないんだよ」


 と愚痴りながら家に帰っていった。



◆◆◆◆◆



 ―――ケーキ組


「……むー…」

「異常発生?」

「……泡立ちがいまいち…」


 生クリームの泡立ちがうまくできていないアサトがうなる。

 それに反応したベル。そして独自の解決案を出してきた。


「キッチンでよく泡が出るもの。これを入れる」

「…確かにナユタがよくそれで泡を作ってる。…名案」


 こうして生クリーム内にあるものが投入された。

 ここで趣旨はすでに崩壊している。


 この後ニャルが帰ってきて無事(?)ケーキは完成した。



◆◆◆◆◆



 ―――一方その頃


 バーストとナユタは今ファミレスで寛いでいる。


「いやー…遊んだ遊んだ。どうだったバースト?」

「うむ。すごく楽しかったのじゃ。礼を言うぞナユタ」

「どういたしまして。楽しんでもらえたなら何よりだ」


 ストローに口をつけていたバーストは少し黙ったあと自分の疑問を口にする。


「ナユタよ……お前はなぜ神達とともにいるんじゃ?」

「…?何でって?」

「ナユタは人間じゃ。ならば普通の人間として生きていくこともできたろう?なぜ神達とともにおるのじゃ?力が欲しいわけでも…神になりたいわけでもなかろう」

「なんで…なんでかぁ…」


 すこし考え込んだ後にナユタは答える。


「うーん…わからん。謎空間に巻き込まれて。ニャルのおふざけに巻き込まれて。いつも間にか魔導書の持ち主になって。アザトースにあって。流れで結婚して……ほんとわけわかんないな」


 そう笑いながらナユタは言う。だが少しして真剣な表情で答える。


「でもさ…俺は今が好きだ。流れでたどり着いた形だとしても俺はアサトのことが大好きだし、ベルもニャルもツァトもチャウグナーのことも、

 みんなみんな大好きなんだ。だから人とか神とか魔導書とかは…あんまり気になんないかな。もちろんバーストもな」

「………そうか…そうじゃな。我も今のこの関係は好きだしの」


 その言葉の後に聞こえないくらい小さな声でバーストが呟く。


「……そんなお前だからこそ…我も好きになったのじゃろうしな」


 そう呟いたバーストの服のポケットから携帯の着信の音が鳴る。

 反応したバーストが携帯をポケットから取り出して通話に出る。


「……そうか。わかったのじゃ」


 通話を切ったバーストにナユタが話しかける。


「誰から?」

「ニャルじゃ。夕飯できたから帰ってこいじゃと」

「そか。んじゃ帰るかー。…そういえば携帯持ってたんだな」

「連絡用にニャルがくれたんじゃ。何かやり中に念話や連絡魔術はだめといってこの『スマホテプ』とかいう電話を渡してきおったのじゃ」

「……それ自社商品の宣伝じゃ…」

「ちなみに念じた形に変化する材質なんじゃと」

「まじか……てかそれニャル細胞的なの材料にはいってんじゃ……」


 そんなこんなで雑談をしながら帰宅する彼らだった。



◆◆◆◆◆



 ――――自宅


 現在俺はバーストとの町巡りを終えて家に帰ってきた。するとなぜかニャルとアサトとベルが玄関口にいる。


「おかえりーナユター。ちょうどいいタイミングだな」

「…?…何がだ?」

「話は奥で!…だ!」

「……まあいいけど」


 言われるがまま進んだリビングに入った俺は驚く。

 そこには大きなケーキがあった。

 そしてアサトが一歩前に出てくる。


「……いつもありがと…これからもよろしくね…ナユタ…」

「……アサト」


 妻が俺にケーキを作ってくれていた。

 ……な、泣きそうじゃないぞ!泣きそうじゃないからな!汗だからな!


 俺は促されるままケーキに近寄る。

 ケーキの向こうから嬉しそうなアサトと微笑んでいるニャル、無表情ベルがジーッとこちらを見ている。

 若干恥ずかしいが…まあ嬉しい気持ちが勝るのでいいだろう。


 切り分けて皿に乗せて食べ…ようとしたときに違和感を覚える。

 ……おや?なぜか生クリームから変なにおいがする気がするぞ?


 すこし嗅いでみる。スンスン…


 ………おかしい。生クリームから洗剤の匂いがする。


 困った俺は後ろのバーストに視点を向ける。

 そこには頭をブンブン横に振って「それヤバイ」と無言で伝えてきているバーストの姿があった。猫の嗅覚でそのリアクションなら確定だろう。


 どうやらこのケーキには劇物が結構入っている様だ。

 こういう悪戯をしそうな奴筆頭を確認する。

 俺がまっすぐにニャルを見る。すると、


「…ん?どした?食わないの?」


 普通の表情でそう返してくる。

 あっこれニャル関係ないわ。こいつ顔に出るもん。


 つまり今回のこれは作った側の単純なミスなわけで……


 俺はアサトを見る。すごく期待した目でこちらを見ている。

 これは逃げ道はないようだ。

 ……泣きそうだぞ。…これは泣きそうだぞ。断じて汗ではない。


 泣いている俺に後ろのバーストから念話が来る。


『おいナユタ!それを食べて駄目なのじゃ!』

『バースト……男にはな…逃げられない場面があるんだ……今がそれなんだ…』


 そう言い切った俺は皿の上のケーキをガツガツと食べる。

 ※よい子はまねしないでね!


 う~んこれは…程よく焼きあがっているスポンジの食感がよく、イチゴもよい酸味を出している。そしてそれらすべてに絡みついている生クリームから放たれる強力な台所用の中性洗剤の味がすべてを台無しにしている。うーん…もうすこしでおいしそうだったなー…ぐはぁ…

 ※中性洗剤は食べ物や飲み物ではありません。


 俺は床に倒れ伏す。まあ当たり前である。

 意識を失いそうな俺にアサトが泣きそうな表情で駆け寄ってくる。


「ナユタ!?」


 あー…泣かせちゃったよ。せっかく嬉しそうだったのに。意識失う前に応急処置しておかないと…


 俺は死にそうな体を奮い立たせてアサトの頭を撫でつつ言う。


「アサト…ケーキあり…がとうな。…生クリーム以外は…美味し…かった。……でも一つだけ……洗剤は…食べ物や…飲み物では……な…い…」


 そう言って力尽きる俺。


「あー…じゃから言ったのに…」

「……えっどゆこと?……これ洗剤だこれー!?」

「マスター瀕死」

「…ナユタ!ナユタ!」


 という声を聞きながら意識を失う俺。



       

          今日も…我が…家は…へい…ぐふぅ…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る