第14話 妻と猫 上

 冬のある日。

 家のリビングにはアサトとニャル、ベルとバーストがいた。

 現在ナユタは買い出しで出ている。


 で今回はアサトがナユタの居ぬ間に他の神達を呼んで相談をしている。

 ちなみにツァトグアはいつも通りである。


「………なるほど…つまりアサトはナユタが喜びそうなことをしてあげたいと」

「前に似たようなことがあった気がするの……」

「協力要請」


 集まっている面々にアサトが真剣な表情で話す。


「…私ばかり…ナユタから貰ってるの…心も…居場所も…。……だから…私からも何か…ナユタの喜びそうなことをしたいの…」


 それを聞いたニャルは少し嬉しそうにする。


「…へー…成長したなーアサト」

「うむ。協力は惜しまんのじゃ!」

「協力不可避」

「みんな…ありがと…」


 そうして「ナユタを喜ばせる会議が決行され一つの結論が出た。


「よし!じゃあ『妻の手作りケーキ作戦』でいこう!」

「…ん…頑張る…」


 やることが決定して喜ぶアサトにバーストが一つの問題を告げる。


「じゃがの…どうやってケーキを作り中にナユタが来ないようにするのじゃ?」

「……むむむ…」

「難題。解決案」


 皆が悩む中、ニャルが軽い口調で言う。


「ああ、ダイジョブダイジョブ!それについてはもう策があるから」



◆◆◆◆◆



 ―――後日

 台所にはエプロンを付けたアサトとベルとニャル。

 今回はこのメンバーでナユタに渡すケーキが作られる。


「よーし!二人とも準備いいかー」

「…おー…」

「おー」


 こうしてケーキ作りが開始された。


「…まず…粉を振るう?」

「粉の中に塊があるからそれを振るってなくすんだよ」

「排除排除」


 料理本を読みつつニャルのアドバイスのもとケーキ作りは順調に行われる。



◆◆◆◆◆



 ―――一方その頃

 

駅の前でラフな格好でナユタは時計を見る。

 そしてそこにバーストがやってくる。


「時間ぴったり。さすがバーストだな」

「これくらいは当然じゃの。……と、ところでこの服どうじゃろうか?

 …おかしくないかの?」

「似合ってるよ。いつもは神秘的な神様っぽい恰好だけど……スカート姿もかわいくていいんじゃないか?」

「そ、そうか…」



 真っ赤になるバースト。今日はこれからナユタとデートである。

 …そう、ニャルの出した策とは…バーストに1日ナユタとデートしてもらって時間を稼ぐというものだった。

 と言っても実は今朝朝早くに、


「おーいナユター。バーストが人間の町を楽しんでみたいらしいから一緒に行ってくれないかー。アサトとベルは俺が面倒みるからー」

「んー?いいよ。んじゃバースト〇〇駅で9時に待ち合わせな」

「ニャッ!?」


 というやり取りのもと急遽設定されたのだが。焦って2時間たらずで人間の女の子の服装を間に合わせる羽目になったバースト…が本人はどこか嬉しそうであった。


 ちなみに服装は白黒基調で猫耳付きフードのパーカーと太ももが出るくらい短いスカート。足には縞々のにニーハイソックスという姿になっている。フードの中には耳が入っていて外には出せない。SAN値テロになってしまうから。


「んじゃ、行くか」

「う、うむ」


 真っ赤になりながらナユタに手を握られて連れていかれるバースト。

 デートは始まったばかりである。



◆◆◆◆◆



 ―――ケーキ組


「…む?…スポンジ…型から外れない…」

「壁面固定」

「あーこれは…型に入れて焼く前に紙を横に入れておかないと引っ付くんだよ」

「なるほど」


 そう言ってアサトは包丁をニャルに振り下ろす。


「ひゃあっ!な、なにすんじゃー!?」


 咄嗟に躱すニャル。抗議の声が響く。


「……?…だって…を張り付けるって…」

「ゴッドじゃねぇーよ!ペーパーだよっ!!!」

「…おー…」

「神ではなく紙。紙ではなく神?」


 若干てこずりながらもケーキはここまでは順調にできていた。



◆◆◆◆◆



 ―――一方その頃


 ナユタをバーストはボーリングをしていた。


 カコーン!


「よし!ストライク!」

「おーやるのじゃ!」

「ふふふ…これで俺の方がリードだ」

「む…負けぬぞ!我の力見せてやるのじゃ!」


 二人は完全にエンジョイである。

 が少しテンションが上がりすぎていた。

 で結果。


「にゃっ!!」


 負けまいと力を込めて投げた結果…

 ボーリングの球は地面につかず剛速球のままピンを粉砕した。

 その後、二人して必死に謝って弁償したのは言うまでもない。

 ※尚、お金はニャルの口座から支払われました


 その後。

 だいぶしょげているバーストの姿があった。


「すまぬのナユタ…やりすぎたのじゃ…」


 耳をしょんぼりさせながら謝っているバースト。

 がナユタはそこまで気にしてはいなかった。

 頭を撫でながらナユタは言う。


「いいよ別に。やりすぎるくらい楽しんでくれたなら何よりだしな。ほら次行こ、バースト」

「……うむ。ありがとうなのじゃナユタ」


 こうしてデートは続いていく。



◆◆◆◆◆



 ―――ケーキ組


「むっ?…スポンジが凹んでる…」

「怪奇現象?ポルターガイスト?」


 アサトとベルが不思議そうにスポンジを見つめる。

 そんな中、ケーキの本を読んでいるニャルから回答が来る。


「……どうやら焼けた後すぐに使うと凹むみたいだな。少しの間ひっくり返しておいて冷ますんだと」

「「へー」」


 で、その後


「スポンジの部分がしっかりできたらあとは簡単だな。それをスライスして生クリームを塗った後にイチゴ。でその後に生クリームもっかい塗ってスポンジをのっける。んでまわりを生クリームでコーティングした後にイチゴのっけて完成だな」

「…ん…もうすぐ完成」

「完成間近」

「あとは二人でできるだろ?俺はイチゴ買ってくるからよろしくなー」

「…ん…任せて」

「任務遂行」


 完成まであとわずかである。



◆◆◆◆◆



 ―――一方その頃


 現在移動中のナユタとバーストは満員電車の中にいる。


「うわっ!押される」

「うあー窮屈じゃあ…」


 そう言っている間に電車の扉があき、さらに人が入ってくる。

 それを見たナユタは呼びながらバーストを自分のほうに引き寄せる。


「こっち来いバースト」

「わ、わかったのじゃ」


 バーストが引き寄せられた後に電車の中に人が隙間なく入る。

 ナユタとバーストは正面から抱き合う形でその人ごみの中にいた。


「ふー危なかった。はぐれるところだった。とりあえず到着まではこのまま我慢してくれバースト」

「に、にゃー…わ、わかったの…じゃ…」


 真っ赤になりながらバーストはナユタにしがみつく。


 人に押されるたびナユタに頭を押し付ける形になり、

「にゃー…にゃー…」

 と完全に混乱しつつ若干嬉しそうなバーストの姿がそこにはあった。



 デートはもう少し続く。

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