ニャんとアザトい日常生活 -外宇宙ゆるゆる日記-

星光 電雷

第1話 SAN値?0ですが何か?

 ……詰んだ。とりあえずそれしか言えない。


 俺は 星野那由多ほしのなゆた、男。今年で24歳だ。公務員、独身、このままいけば独身貴族万歳という状態だった。


 えっ……なんで自己紹介してるかって?……他にやることないねん。


 今俺はなんかよくわかんない宇宙空間(空気あり)にいる。

 出口はない。ないんだよ畜生。


 で、まあなんでこんなとこにいるかというと簡単にまとめると


 ・休日に友人(探偵)に仕事を手伝わないかと言われる

           ↓

 ・手伝っていたらなんかよくわからない宗教の騒動に巻き込まれる

           ↓

 ・神の召喚やらなんやらを止めるという流れになる

           ↓

 ・神の召喚は止めたが不完全な呪文が暴走うんたらかんたら

           ↓

 ・仲間が変なブラックホールみたいなのに巻き込まれそうになる

           ↓

 ・助けてブラックホールっぽいのに入る

           ↓

          ・現状


 とまあこんな感じ。


やることもないし時間もわからない。

最初に言った通り詰んだとしか言いようがない。


……まああれに入った時点で即死は覚悟していたからいいんだけどさ。


 暇すぎる俺は無重力のなかで体を回している。


暇だもの。


餓死するとしてもまだ先だろうしな。


そんなことをしているとなんか正面の空間が急に歪みだしてきた。

 

そしてそこからなにか黒っぽいものが出てくる。


触腕、鉤爪、うねうねした無定形の肉の塊と顔のない円錐形の頭部らしきものを持っている「それ」は 俺の前に立つ。


それに驚き俺は言う。


「動く木の根っこ?」


「……いきなり失礼だな」


「…すまん」


 感想をひとりでつぶやいた俺にいきなり根っこがしゃべったので思わず謝る。しゃべる根っこ……レアだな。


「……また失礼なこと考えてるだろ。まあいいか。発狂されて会話通じないよりましだし」


「わるいな根っこ。いきなりで驚いてな根っこ。ほんとすまんな根っこ」


「……発狂してない?」


「いたって冷静だが?」


「……SAN0ってこんなだったっけなぁ。

とりあえず根っこはやめろ。私はニャルラトホテプ。よくその辺にいる神だ」


 神。


その言葉に驚きを隠せない。


……神様って…こんなにダサいのか…。


だが驚いていても始まらない。


とりあえず聞きたいことを聞くとしよう。


「神ってことは俺たちが召喚を防いだのはあんたか」


「いいや違うな。君たちが防いだのはイタクァっていう別のやつだよ。私じゃない。私は召喚とかはあまりされないしな。どちらかというとするほうだし」


「ふ~ん…それで俺に何の用なんだ?ニャルラトテープ」


「……やめてくんない?神の名前を接着道具に変えるの」


「大差ない大差ない」


「確かに一字違いだけどさぁ。…はぁ。話進めようか」


 何だか神が疲れている。いったい何があったんだ。


「まあ用は一つ、君にここから出るチャンスをあげよう」


「おお!それはありがたいな」


「ルールは簡単。この魔導書、私著作の『法の書リベルギウス』を読んで廃人にならなかったらここから出るチャンスをあげる、というものだ」


「魔導書か。それを読めばいいんだな。でもなんで俺にチャンスなんてくれるんだ?俺あんたを崇拝なんてしてないぞ」


「暇つぶしだよ。ただのな。あとまあこの魔導書読み切ったやついないんだよな。いままでその本を読んだやつは頭がおかしくなって死んだんだよ。

だからに読ませてみようと思っただけだ。

自覚はあるだろ?」


「ああ。そういう理由か」



 納得だ。


 俺は幼少期に目の前で両親を強盗に殺された。


んで、その時に俺は頭パーンしました。


ちなみに犯人は俺が殺して仇はとっておいたけどな。


あの時から俺は周りの人間とは少しずれていた。


理由は俗にいう「SAN値0」


正気を失い狂っておかしくなる……らしいんだが…なぜか俺は狂ったまま人として生きる程度の理性が残り今に至る。

ニャルラトホテープが言っているのはこのことだろう。


まあ感覚がずれているというか鈍感になったというか、

何事にも動じなくなった一般人だと思ってくれればいい。


今回はそのおかげで得してるしな。


「じゃあ魔導書とジュースを頼むわニャルラトポテト」


「私は芋じゃない!……はあ…これはこれで疲れるなぁ。

やっぱり発狂する人間のほうがよかったかなぁ。…てかなんでジュース?」


「俺は読書するとき飲み物が欲しいタイプなんだ」


「なるほど。まあ…わからんでもないか」


 そういうと一冊の銀色の本とコーラ(500㎖)が出てきた。

 神よ。俺はサイダー派だ。


「じゃあこれ読んどくわ」


「ああ。そうしてくれ。それを読んで君が無事だったらまた来るとしよう」


 そう言ってニャルラトホテプは虚空へと消えていく。

 本とコーラを手元に引き寄せコーラを飲みながら魔導書を読んでいく。




◆◆◆◆◆




―――数時間後。



 魔導書を読み切った俺は体を伸ばす。


 ……いや~長かった。


でもこれを読みきったおかげかニャルラトホテプの保持している魔術とか知識とかをすべて頭に刷り込まれた…ていうか捻じ込まれた。


そりゃこんなん普通の人が読んだら頭おかしくなるわな。


 頭の中はなんか知識とかでごちゃごちゃしているがおかしくなった感覚はない。やはり俺の頭は最初からパーンしていたようだ。


これはこれで便利なのでは?


「わーお、こいつほんとに読み切ったよ」


「まあ読めたものはしゃーないだろう?」


「まあそうだな。すごいだろうそれ。私の知識がうっはうは」


「いやすごいけどさぁ……こんなん読んだら頭おかしくなるに決まってんじゃん。どう考えても詰め込みすぎなんだよなぁ」


「読破した奴ができたんだからいいだろ!これでお前はその魔導書と契約したことになった。実質新しい別の私みたいなものだな」


「まじか。死にたくなってきた」


「ひどくない!?さすがに私でも傷つくよ?」


「いや。お前の記憶も多少混ざったからわかるけどさ……お前実際はただの暇神ひまじんじゃん」


「……ぐはっ!」


 効果は抜群だっ!

 神はプルプル震えている。


「ふふふ。さすがは私の魔導書に認められた猛者。やるじゃないか……」


「いちおう気にしてたんだな自分が暇だってこと」


「やめて……掘り返さないで」


 神はまたもプルプル震えている。



◆◆◆◆◆



 ――5分後


「さあ見事魔導書に認められしものよ。

私が用意したこの扉のどれかを選べ。

このどれかからお前が元居た世界に帰れるだろう」


 気を取り直したニャルラトホテプ、通称ニャルがいう。

 だが俺はすでに気づいている。このやり取りの必要のなさにな。


「なあニャル」


「うん?なんだ」


「俺さお前の知識あんじゃん?」


「うんそうだな」


「つまり俺自力でここからもう出られるんだけど」


「!?」


「……じゃあな~」


「wait!wait for me !」


 焦りのあまり英語になってる。気づいてなかったのか……。


「ちょっとまってーな!そもそも今回の件はこのチャンスを与えるまでが私とお前の契約だるぉ!つまり扉を選んではいるまでが契約っ!家に帰るまでが契約っ!」


「ええ……俺に得がないんだが」


 焦ってだんだん口調がおかしくなっている。


 情けない神だ。


 しがみついてきてうざい。蹴り飛ばそうかな。


 そう思っているとニャルが早口で言ってくる


「じゃあお前が扉に入ってくれたら俺のお気に入りの別荘あげるから!メチャクチャ雰囲気のいい別荘あげるから!おねがいだから!」


「別荘か…それはお得だな。

……はぁ…わかったから……土下座やめろ」


「ありがたき幸せ、ありがたき幸せ」



◆◆◆◆◆


 ――少しして。


「じゃあ見せてもらおうか。お前の…あがきとやらを!」


「……お前のあがきならさっき見たけどな」


「まあ適当に扉選んでくれ。どれ選んでもお前が無事なら別荘あげるから」


 なら、と俺は赤い扉を選んでためらわずに入る。


 ……さて蛇が出るか、邪が出るか。


 そう思いながら俺は扉の中に進む。


 その後ろで笑いながらこちらに聞こえない声でニャルが何か呟いていたが

…なんだったんだろ。


「さあ…ゲーム第2幕だ……楽しませてくれよ?……ナユタ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る