第7話
「それじゃあ小冊子は読んでくれてたと思うけど、改めて説明するよ」
隼人は紗菜に自分たちの活動について説明を始めた。
「まず最初に。航空戦競技っていうのは、主に“第二次世界大戦で使用された軍用機を使ったスポーツ”なんだ」
「大きく個人競技と団体競技に分かれてて、個人競技は戦闘機同士での空中戦(ドッグファイト)部門。爆撃機を使って標的に爆弾を当てる爆撃部門。そして雷撃機による標的(主に船舶)に魚雷を当てる雷撃部門の大きく三つがある」
そう言うと零式艦上戦闘機を示す隼人。
「競技ごとに使う機体の種類が違っていて、これは戦闘機の零戦。この学校には零戦とか隼、P38とかが整備されていて、すぐ出せるようにしてもらってるんだ」
紗菜も零戦の名前は聞いたことがあったので素直に実物に感心していた。
「そして次に爆撃機。一人から二人乗りでエンジンが単発の機体と、大勢乗ってエンジンが二つとか四つの機体がある。昨日乗ってもらったのはエンジンが二基あった方」
「九九式双発軽爆撃機でしたよね。たしか愛称はリリー」
『おお~』
紗菜が機体の名前を記憶していた事に驚く一同。リリーは本来愛称ではなくコードネームではあったが、愛らしい名前なのでそのまま愛称として使われていた。
九九式双発軽爆撃機はエンジン二基の爆撃機の中では軽爆撃機の名のとおり小型の部類に入る。しかし単発の機体よりは大型であった。
「雷撃機は厳密には爆撃機に入るんだけど、魚雷っていう水の中を魚みたいに走る爆弾を搭載して船目掛けて発射しなきゃいけないから、小回りが利く単発の機体が多いんだ」
この学校にあったのは艦上攻撃機天山であった。
数十年前まではこの学校でも創立以来の航空戦競技部が活動していたので、全ての個人競技に対応できるよう、一通りの機種は揃っていたのだ。
「おかげさまでうちはその気になれば個別競技に出場できるし、実際、鉄也には個別競技に出場しているからね」
無言で頷く西沢。彼は先ほど自ら手入れしていた零式艦上戦闘機を駆って、戦闘機系の個人競技に複数出場し、地区大会はもちろん全国大会に出場してどれも上位入賞を果たしていた。
「そして団体総合競技だ。こっちは戦闘機と爆撃・雷撃機、そして偵察機や対空砲(自走対空車両含む)を組み合わせた、限りなく実戦に近い形式の競技なんだ」
個人競技の延長線上にある戦闘機だけ、あるいは爆撃機だけの団体戦も存在しているが、隼人たちがやろうとしているのは戦闘機と爆撃機を組み合わせた団体総合競技である。
「団体総合はルールに応じて九機以上十二機以内で試合をするんだけど、勝負は相手を全滅させるか、相手のゴールを破壊した方が勝ちなんだ」
団体総合競技では戦闘機がディフェンスを担当し、爆撃機がオフェンスを担当するというように、役割が分かれているのだ。
「でも十二機全部を戦闘機とか爆撃機だけに統一するのは禁止されている。まあ、全部戦闘機だと相手のゴールを撃破できないし、逆に奇襲で破壊される事だってある。逆に全部爆撃機だと、敵の戦闘機に対応できなくて全滅する事は十分ありえるからね」
参加できるのは十二機までなので、戦闘機ばかりにしてゴールの防衛を任せても、常時万全にゴールを守備できるとは限らない。そして複数同時に他方向から襲撃されれば対応しきれるものではないのだ。
そのため戦闘機を主体にして自陣だけでなく相手ゴール上空の制空権の安定確保を目指すのか、爆撃機を主体にして奇襲強襲で相手ゴールを破壊するかの、大きく二種類に戦略が分かれる。
「まあ戦闘爆撃機の扱いも決められているけど、そっちは今日は省くよ」
戦闘爆撃機とは戦闘機に爆弾を搭載させた機体をいう。こちらは爆弾さえ投下してしまえば戦闘機として活動可能なので、これだけで十二機を埋めても良さそうなのだが、投入にはルール決めがなされている。なおこちらの詳細は後日語ることにしよう。
「その上、団体競技は地上にゴールキーパー、対空砲の専門チームを配置することができるというか、最後の壁だから配置しておかないといけない。でもキーパーは機銃に高射砲に自走対空車両で飛行機じゃないから、団体総合でしか活躍できないし、それしか需要も無い」
装甲車両自体は同じ機械系武道の機甲戦競技で使われているのだが、自走対空砲は機甲戦競技で活躍する場面が皆無に等しいので、自走対空砲が使われるのは航空戦競技の団体総合に限られてしまうのだ。
「結構大変なんですね」
「ああ。とにかく色々面倒で大変なんだよ。だから参加してくる学校は少ないんだ。派手で目立つんだけどさ」
団体競技に参加する学校が少ない最大の理由は、爆撃機の勝手が個人競技とあまりに違う事だという。
「戦闘機はチーム単位で空中戦も多いから連携慣れしてるけど、爆撃機の個別競技は妨害無しで的に命中させるのを競うから、あんまり連携する機会がないんだ」
「その上、団体総合は特性が全然違う戦闘機と爆撃機の連携が要求される。戦闘機はまだ連携慣れしてるし敵を撃墜するのが仕事だけど、爆撃機は連携も苦手なら妨害にも慣れてない。だから団体総合専門の選手を育てなきゃいけないから参加する学校が少ないんだ」
戦闘機は基本的に遭遇した相手を撃墜、撃退すれば良いので掛け持ちは比較的に容易である。
しかし爆撃機は個人競技には無い戦闘機からの妨害や長距離(時に洋上)飛行。相手ゴールの発見に、単座機(一人乗り)の誘導などの数多くの面倒が発生する。
そのため爆撃機は最初から団体競技にも対応できる選手を育成する必要があるのだが、これが難題であった。
爆撃機はゴールを決めれば華々しい反面、あまりにやることが多い上に、活躍の機会も限られてしまう。
当然結果も中々出せないので、選択する選手が少ないのだ。その上、航法や機銃を担当する後部乗員に至っては個人競技では不要なこともあって成り手はほとんどいない。故に結果として参加校も限られているというのだ。
「逆に言えば、参加さえできれば予選無しでいきなり全国大会!そして一気に名を挙げられる!」
『おお~~!』
「もちろん参加するだけじゃない!出るからには勝つ!その方が楽しいからな!」
『おお~~!!』
そう語る隼人の眼は、まるで光を浴びた宝石の山のようにキラキラと輝いているようだった。
(すごく楽しそう……)
紗菜には隼人の眼がとても羨ましく見えていた。自分はあれほど純粋に夢を追い求めて行動した事が今まで無かったからだ。
「よし、というわけで今日はお楽しみの飛行訓練だ!やっぱり飛ばないと面白くないからな!」
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