石のカラス
ある☆ふぁるど
第1話
そのカラスは、長い間、魔法使いのおばあさんによって石の姿に変えられていました。
昔は、おばあさんの使い魔として空を自由に駆けめぐり、彼女の命じるままに行動して、裏切ったことなどなかったのに。
ただ、一度だけへまをしてしまったのです。彼女が持ってこいと命じた植物を、うっかりくちばしで強くくわえすぎて、枯らせてしまったのです。それは、100年に一度しか花を咲かせない貴重な植物で、彼女の怒りは深く、どうしても許してくれませんでした。
「お前みたいな役立たずは石になってしまえ!」と、そうやって魔法をかけられた彼は、それからずっと石の姿のままなのでした。
だけど、それでも彼はおばあさんが好きだったのです。自分でもよく覚えていない幼い頃、死にかけていた彼を拾ってくれたのがおばあさんだったし、それからもずっと大切に育ててくれたから。彼女はいつかきっと自分を許しくれて、魔法を解いてくれるに違いないと信じていました。
でも、おばあさんは帰ってきません。もういつから待っているのかわからなくなるほど、長い年月が流れてしまいました。「しばらく旅に出てくるよ」と言って、出かけたおばあさん。それっきり、帰ってこないのです。
カラスは待っていました。長い間、待っていました。
家はすっかり荒れ果てて、石のカラスはその中で置物のように転がってほこりをかぶっていたのです。
そこへ、一人の旅人が通りかかりました。旅人はその空き家に入ってきて、カラスを見つけ、感心したようにつぶやきました。
「まさか、本当に石のカラスがあるなんて。あのばあさんの話は本当だったのか・・・」
「もし、本当ならこの太鼓を叩けばもとの姿に戻るはずだ」
一度叩けば、石でなくなり、二度叩けば、自分を取り戻し、三度叩けば、本当のもとの姿に戻ると言う・・それは、旅人がおばあさんから預かった魔法の太鼓なのでした。
旅人は太鼓をぽんぽんぽんと3度打ちました。そうすると、カラスは長い間の呪縛が溶けて、自分の身が一気に軽くなるのがわかりました。そうして、ふと気づいてみると、彼は既にカラスではなく、人間の男の子だったのです。
少年は自由になったとたん叫びました。「おばあさんはどこ?」
旅人は悲しそうにうつむき、それからやがてゆっくりと口を開きました。
「よくお聞き、これから本当のことをすべて話してあげるから。長い話になるよ・・・」
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