ヤクザに憧れた少年

野口マッハ剛(ごう)

人生

 よお、見かけない顔だな? 俺か? この店で朝から晩まで酒を飲んでいるんだよ。さて、俺の話を聞いてくれ。もちろん拒否する権利はどこにもないぞ?


 俺は子どもの頃に夏祭りで取っ組み合いの喧嘩があったのを見たんだ。片方は頭から血を流してな。それで一人の男が割って入ったんだよ。その人が後の俺の兄貴なんだよ。兄貴は地元の先輩でもある。いわゆるあれだな! ぶとーは、ってやつだ!

 俺は兄貴の男気に感動したよ。それで、その場で弟子にしてくれって頼んだ。あれはいつの話かな? もう数十年前だな。色々と兄貴は俺を使ってくれた。一番面白かったのが、組員の車に落書きしたことかな! ワハハ!

 俺が大人になったら兄貴の運転手とかやったなぁ。兄弟分はいっぱい居たぜ? ここらじゃ有名な若い衆なんて呼ばれていた。楽しかったなぁ!

 俺が小指を落としてないのは、兄貴の居た組自体が消滅したからだ。俺は兄貴の最後を見た。ありゃあな、見ない方がいい。ひでえものだった。

 あ? なんで俺は泣いているんだ? おかしいよな? ヤクザが泣くなんてよ。さて、親父! 俺は金を持ってねぇんだ! さっさと警察を呼びやがれ! それじゃあな、こんな老いぼれの武勇伝を聞いてくれて、ありがとうな。


 俺は兄貴の弟子でよかったよ。

 俺は一生、ヤクザ。

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