夜空を舞う桜の花びらのように、僕は君の声に惹かれていく……
★ 【長】『若紫の君と、光源氏になれない僕』 作者……いなほさま
※ 平安時代を舞台にした歴史小説で、
『登場人物一覧』
だが
なお少女の本名が判明するのは物語中盤以降となり、それまでは「少女」「姫君」などと呼ばれている。
翁……惟憲が山で出会った老人。六畳ほどの部屋に住んでおり、惟憲と意気投合する。所有者のない桜の話を雅行に伝える。惟憲いわく、七日桜について何か企んでいる? 俗世間と離れた生活をしているが、七日桜を見ることが翁のたった一つの願い。
雅行の父……役人の家系で、ある日「強くなれ、雅行」と意味ありげな言葉を語った後、突然言葉数が減ってしまう。歌人としての才能に長けている。
正体不明の男……雅行と声が瓜二つで、七日桜の世界に住む住人(もしくは桜の気の精)だと思われる。
『補足説明一覧』
物忌み……
七日桜……本作に登場する桜。純粋な心を持つものが願うと奇跡が起こると言い伝えられているが、詳細は不明。名前の由来は、「春の七日間した桜が咲かない」とのこと。そして七日桜への道が開かれるのは、花が咲いている時の夜だけ。
琴が弾ける・和歌が上手く詠めるということは、当時の女性にとって憧れの存在。また当時の時代では、女性を本名で呼ぶことは失礼な行為。
『特徴・印象に残ったこと』
一 平安時代独特の文化や世界観が丁寧に表現されており、それを維持したまま現代翻訳したと印象を受けました。とても読みやすく、最後まで世界観に夢中になりました。
二 序盤こそどこか頼りない雅行でしたが、友人の惟憲・少女・翁などとの出会いにより、少しずつ成長していく過程が読み応えあります。成長していく過程の中で、自分自身を見つめ直す場面は必見です。
三 現代ではなく平安時代となっている歴史小説ですが、しっかりと文化について勉強していると思いました。作品と真摯に向き合っていると感じ、作者さまの思いを伝えたいという気持ちが伝わってきます。
四
『気になったこと』
一 強いてあげるとすれば、各エピソードにおける一話の文字数が少し長いかなと思いました。エピソード数は多くなってしまいますが、一話あたりの文字数を数千文字前後に調整すると、より読みやすくなる小説だと思います。
『総合評価』
非常に読みやすい歴史小説で、「七日桜」という独自の言い伝えや噂を物語に取り入れた点も良かったです。平安時代の時代背景や文化などに詳しくない人でも、問題なく楽しめる小説です。そして雅行と少女の出会いや恋に似ている駆け引きについても、平安時代ならではの雰囲気を活かされています。届きそうで届かない二人の関係も、作品を上品な作風に演出しています。
同時に作者さまは、平安時代の物語「源氏物語」(作者 紫式部)を強く意識されていると思いました。また同時代の随筆「枕草子」(作者
陽射しが出ている日中よりも、綺麗な月が出ている夜に読むとより作品の臨場感が増すと思います。窓辺に浮かぶ夜桜を見上げながら読むと、さらに情緒を感じさせてくれます。
さらに作中で「僕は
そして時代背景・登場人物設定こそ異なりますが、
仮に『若紫の君と、光源氏になれない僕』という作品が映像化されたら、雅行と紫たちの瞳の奥には夜空を可憐に舞う桜の花びらが映っていて、その光景がとても美しい――作品を拝見していると、このような世界が浮かんできます。
まだ作品は完結していないご様子ですので、この幻想的な世界観を保ちつつも雅行と紫の二人には幸せになってほしい……一読者ながらそう願っております。
『若紫の君と、光源氏になれない僕』
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