第519話 セーヤvsグレン

「つ、疲れた……主に精神的な意味で……」


 2時間半にも及ぶ男祭り握手会を最後まで笑顔でやり遂げた俺は、疲労困憊こんぱいのダルダルモードでとぼとぼとマリア=セレシア教会へとやってきていた。


 理由は一つ。

 ティモテのピッチリタイトなえちえちなミニスカシスター服を見て、男祭り握手会の悲しい記憶を上書きしようと考えたのである。


「幸せは歩いてこない、俺からつかみにゆくんだよ……にゅふ」


 教会の扉を開けると奥の演台にはティモテが立っていて、さらにもう一人が向かい合うようにして相対していた。

 その後ろ姿には見覚えがあって――、


「てめぇ、《剣の魔将》グレン! お前何でここにいる!」


 叫ぶや否や瞬時に抜刀した俺は、流れるように戦闘系S級チート『剣聖』を発動した。

 さらにスポコン系S級チート『音速の貴公子アイルトン・セナ』によって一瞬でトップスピードに乗ると、一気にグレンとの距離を詰め猛然と斬りかかった。


 その間わずか1秒という、まさに電光石火の先制攻撃だ!


「まだ性懲しょうこりもなくティモテを狙っているのか!」

 鋭い踏み込みからの稲妻のように鋭く強烈な上段斬りを、


「おっと、はやるでない《神滅覇王しんめつはおう》マナシロ・セーヤ」

 グレンは腰から引き抜いた魔剣 《グリムヴェル》によって、余裕をもって受け止めてみせた。


 このっ、魔剣 《グリムヴェル》は《魔神》との最終決戦でへし折ったはずなのに、当たり前のように再生してやがる……!


 そして、


「SS級とS級じゃやっぱスペック負けするか――」


 今も『剣聖』の最高・最速の一撃を放ったはずが、グレンには完全に見切られていた。

 最強チートとは言えS級の『剣聖』では、SS級のグレンには到底かなわない。


 だが俺がやらなきゃ誰がやるんだ!

 今ティモテを守れるのは俺だけなんだ!


 ここは切り札の《神滅覇王しんめつはおう》を顕現させて、一気にケリをつけるか?

 教会は多分吹っ飛ぶかもだけど、短期決戦を目指せば被害は最小に抑えられるはずだ。


 なんにせよまずはグレンとティモテを引き離さないと!


「ティモテ逃げろ! こいつは俺が何とかするから!」


 日本刀クサナギ魔剣グリムヴェルとでギリギリと鍔迫つばぜり合いをしながら、俺はヒロインのピンチに颯爽さっそうと現れる映画の主人公みたいに、超カッコよくキメ顔で言ったんだけど――、


「くすっ、マナシロさん、それは勘違いというものですよ。今はグレンさんとお話をしていたんです」


「……はい?」


 ティモテの答えを聞いた俺の目が点になった。


 改めてグレンの顔を見てみると、確かにそこには敵意のようなものは感じられない。

 そもそも本気でティモテがピンチだったのなら、知覚系S級チート『龍眼』がもっと早くに危険を察知していたはずである。


「あれ……? ってことはつまり俺の勘違い……?」


 勘違いで『ティモテ逃げろ! こいつは俺が何とかするから!(キリッ)』とか超キメ顔で言っちゃったの!?


 なにそれ超恥ずかしいんですけど!?


「でもそれならなんでグレンがまだここにいるんだ?」

 暗黒大陸に帰らず、この地にグレンが残っている理由は何なんだ?


 俺の問いかけに、


「グレンさんはシロガネさんと一緒に、アウド街の周辺を警戒してくれているんです」


 ティモテから返ってきたのは、そんな意外過ぎる答えだった。

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