第515話 緊急企画! マナシロ・セーヤ握手会!!

 一口食べると止まらない『《神滅覇王しんめつはおう》まん』をたらふく食べてしまい、


「ちょっと食べすぎちゃったよ……」

 満腹のお腹をさすりながら、みんなとわいわい楽しくお話しつつ食後のお茶を飲んで一息ついていた俺に、


「セーヤ様、急なことでなんなのですが、本日の『《神滅覇王しんめつはおう》マナシロ・セーヤまん』の販売の際にセーヤ様の握手会をしてみたいのですが、いかがでしょうか?」


 サーシャがそんなことを提案してきた。


「握手会かぁ……ふむ……」

 握手会ってあれだよな、アキバ系アイドルグループとかがやってるやつだよな。


「『《神滅覇王しんめつはおう》マナシロ・セーヤまん』を1箱買うとセーヤ様と握手できるという販促イベントを考えておりまして、もしご都合がつけばで結構ですのでご検討いただければと――」


 サーシャは俺の手間になるのが申し訳ないと思っているからか、かなり控えめに提案してきたんだけど――、


「いいよ、やろう」

 俺は即断即決でオッケーした。


「よろしいのですか?」


「もちろんさ。サーシャやトラヴィス商会にはいろいろと世話になってるからな。俺たちは仲間ファミリーだ、たまには俺もサーシャの役に立ちたいんだよ」


「セーヤ様……!」


「それにただ握手するだけだろ? 楽勝楽勝。何なら今すぐにでもオッケーだぜ?」


 仲間ファミリーってのはさ、お互いがお互いのために利益よりも人情で助け合うものなのだ。


「セーヤ様の優しさに心より感謝いたしますわ! そうですわよね、わたくしたちは婚約者ファミリーですものね! それでは早速、握手会の段取りをしてまいりますの! 1時間をめどに、準備ができ次第呼びにまいりますのでそれまでゆっくりお待ちくださいですの!」


「りょーかい」

 俺の返事を聞くのもそこそこに、サーシャはいずこへとすっ飛んで行った。


 さてと。

 サーシャが呼びに来るまでの間、しばしお茶を飲んで待つとするか。


「それにしても労働は素晴らしいね。今から働くのが楽しみだよ」


 握手会とはいえこれは労働だ。

 しかも《神滅覇王しんめつはおう》である俺にしかできない重責ある労働なのだ。

 頑張らなくてはいけないのですよ。


「さすがですセーヤさん!」

「うにゅ、まなしー、えらい」


「大公といういと尊き身分にありながら、身近な労働に身を費やすマナシロ様の美しくも尊い心に、聖母マリアの祝福があらんことを」


 握手会という過酷な労働に対して並々ならぬ意欲を見せる俺に、話の成り行きを見守っていたウヅキ、ハヅキ、そしてティモテから次々とお褒めの言葉が飛んでくる。


「いやいや大したことじゃあないさ」

 もちろん俺は紳士なのでさらっと謙遜けんそんしてみせた。


「ただ握手するだけでは……?」

 トワは少し腑に落ちないようだったけど、よくできた子なので特にそれ以上は何も言ってはこなかった。


「ならばわらわは今、主様ぬしさまと握手するのじゃ、いちいち並ぶのはウザイのじゃ」

 《神焉竜しんえんりゅう》が手を差し出してきたので、俺はそれをにぎにぎ握り返した。


「むぅ……これも悪くはないのじゃが、しかしわらわは握手よりもなでなでの方が好きなのじゃ」


「へいへい、なでなでー」

「ほわん……」


 ずいっと頭を突き出してきた《神焉竜しんえんりゅう》をなでなでしながら、にゅふふふ……おっと、思わずにやけてしまったよ。


 いかんいかん。

 みんなの前なんだから、ちゃんと労働への意欲を前面に出して頑張るセーヤくんを演出しておかないと。


 というのもだ。

 実を言うと俺がこうも簡単にサーシャの提案を受け入れたのには、隠された本当の理由があったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る